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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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堅物騎士は、お嬢様の本気を垣間見る

 食後になると、男性達は煙草を吸いに、女性達はお茶を飲みに別室に移動する。

 コンスタンタンはカルパンティエ子爵家の者達に囲まれ、質問攻めに遭っていた。

 どうやら、彼らにとって騎士は珍しい生き物らしい。


「いやはや、二十年前、妹の結婚相手が騎士だと聞いて、興味津々だったんだがな。あまり関わるなと、父さんがうるさくて」


 初めて会う伯父は、目元が少しコンスタンタンの母親に似ていた。すぐに、親しみを覚えてしまう。


「コンスタンタンよ、騎士とは、どんな仕事をしているのだ?」


 カルパンティエ子爵の質問に、伯父が茶々を入れる。


「やっぱり、父さんも興味あったんじゃないか。アランブール伯爵が来た時には、まったく興味がありません、みたいな顔でいたのに」

「うるさい、黙れ! 今は、コンスタンタンの話を聞く時間だ」

「まったく、頑固なんだから。素直に認めればいいのに」


 ぼやくような伯父の呟きに、ドッと笑いが起きる。

 カルパンティエ子爵は、愛すべき頑固親父なのだろう。


「それでコンスタンタン。普段は、どのような仕事をしている?」

「王の菜園を守る仕事に就いております」

「ああ――そういえばそうだったな。アランブール伯爵家は代々、王の菜園を守ることを家業としていると」

「はい」

「もしや、野菜について詳しいのか!?」


 カルパンティエ子爵は、期待に満ちた瞳でコンスタンタンを見る。


「私はまだ、勉強中でして」

「そ、そうか」

「しかし、リュシアンは、野菜に詳しいです」

「ああ、婚約者の」

「彼女はフォートリエ子爵領の生まれで、大農園で農業の勉強をしておりました」

「そうであったか!」

「何か、気になることでもあるのですか?」


 コンスタンタンの問いかけに、カルパンティエ子爵はコクリと頷いた。


「三年前に、町の近辺を開拓させて、畑を作らせたのだ。一年目は、それなりの収穫量があったのだが、二年目から落ち込んでしまい――」


 農業について勉強し、作物が育たなかった理由が判明する。


「連作障害を知っているだろうか?」

「いえ」


 連作障害というのは、同じ畑で同じ野菜を育てることによって起こる、生育不良や害虫の蔓延、土壌の栄養が偏る被害の総称だという。


「同じ野菜を続けて作ることによって、土壌の中の栄養が不足していたり、害虫がそのまま越冬して土壌に残っていたり、土壌の病気にかかりやすくなったりするようだ」


 連作障害が起きないよう、別の種類の野菜を育てるように命じたが、翌年も野菜は十分に育たなかった。


「さらに勉強したところ、同じ科の野菜でも生育障害が起きることが判明した」


 ジャガイモの次にトマトを植え、そのあとにピーマンを植えた。

 けれど、トマトは熟れる前に腐り落ち、ピーマンは実らずに朽ちたのだ。


「驚くなかれ。ジャガイモとトマト、ピーマンはすべて、ナス科の野菜だったのだ!」


 今度は、別の科を組み合わせて育てたが、再び生育障害が起きてしまったのだ。


「原因は、追求中である」

「生育不良の野菜は、そのまま畑にあるのですか?」

「ああ、あるぞ」

「では、リュシアンに聞いてみましょう」


 女性達のお茶会がお開きになったところで、リュシアンに畑への同行を頼む。

 馬車に乗り込み、郊外にある畑に移動した。


「リュシアンさん、すまんな」

「いえ、お役に立てたらいいのですが」


 畑にたどり着くと、リュシアンは靴やドレスの裾に泥が付くことも厭わず、どんどんあぜ道を進んでいく。

 そして、生育不良の野菜がある畑の前でピタリと止まった。


「こちらですね?」

「ああ」


 広大な畑に、エンドウが植えられている。葉は萎れ、黄色く変色していた。


「エンドウの前には、何を植えていたのでしょうか?」

「トマトだな。その前は、キュウリだったような」


 トマトはナス科、キュウリはウリ科、エンドウはマメ科である。

 どれも異なる科で、連作障害が起きないよう工夫していた。

 リュシアンは畑に鋭い目を向け、しゃがみ込む。そして、近くにあったエンドウを引き抜いた。

 根を見て、ハッとなる。


「これは、センチュウ害ですわ」

「センチュウ?」

「はい。土壌の中にいる、害虫ですの」

「なんと!」


 生育不良の原因は、害虫だった。


「根にコブができているので、ネコブセンチュウの仕業でしょう」


 センチュウ被害は、地中部で起こる。そのため、気付きにくいのだ。


「ネコブセンチュウは、根にコブを作って、水分を吸収させないようにしてしまうのです」

「なるほどな」


 トマトにキュウリ、エンドウは揃って、センチュウ害を受けやすい野菜だ。そのため、科が異なるにもかかわらず、生育不良を起こしてしまったのだ。


「他にも、ピーマン、カボチャ、ホウレンソウ、レタス、ニンジン、ゴボウなど、数多くの野菜が、センチュウ害を受けやすい品種になっております」

「困ったな。どうすればいいんだ?」

「簡単ですわ」


 リュシアンはにっこり微笑みながら、センチュウ害の対策を挙げた。


「ネコブセンチュウの抑制に効果があるのが、クロタラリアというマメ科の植物を植えることです。育ったクロタラリアは、そのまま肥料にもなりますので、大変オススメです」


 カルパンティエ子爵は熱心な様子で、手帳にメモを取っていた。


「黄色いお花が咲くころに、一度半分くらい刈って畑の肥料として土に混ぜてください。一週間経ったあとすべて刈り、一回目と同じように土に混ぜ込むのです。根が張っていて大変でしょうが、ネコブセンチュウの被害を抑えることに繋がりますので」


 これでよくなるはずだと、リュシアンは微笑みながら言った。

 

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