堅物騎士は、祖父の家にお邪魔する
翌日、コンスタンタンはカルパンティエ子爵邸に招待される。ミモザ祭りにやってきた貴族を招いて、晩餐会を行うのだ。急な話だったが、喜んで参加する。
カルパンティエ子爵は各地の貴族との面会で大忙しらしい。始まるまでの間、次期カルパンティエ子爵である伯父と話すこととなった。
「コンスタンタン、会えて嬉しいよ。王都に立ち寄ったとき、何度君達親子に会いに行こうと思ったか……!」
なんでも、面会はカルパンティエ子爵にきつく止められていたらしい。嘘をつけない性格のようで、こっそり会いに行くことはできなかったのだという。
初めて会う伯父は、母とはあまり似ていない。しかし、淡く微笑んだときに少しだけ面影を感じてしまった。
話が一段落したころ、湖に落ちた少年――コンスタンタンにとって初めて会う母方の従弟と再会を果たす。
「あ、あの、はじめまして。シリルと、申します。その、湖から、助けてくれて、ありがとう、ございました」
可愛らしくペコリと頭を下げる。コンスタンタンはその場に膝を突き、シリルの頭を優しく撫でた。
「私は、コンスタンタンという。以後、仲良くしてくれると、嬉しい」
紹介は、これでよかったのか。よくわからない。あまり子どもと接する機会がなかったので、どういう態度でいたらいいのか探り探りといった感じである。
シリルは人見知りをするタイプなのだろう。コンスタンタンの前で、もじもじしていた。
緊張を和らげようと、コンスタンタンは優しい声で話しかける。
「母上にあげるミモザの花を取ろうとしたらしいな?」
「はい」
「渡せたか?」
「いいえ」
しょんぼりと肩を落とす。その様子から推測するに、こってり叱られた上、外出はきつく禁じられているのだろう。
コンスタンタンの隣に、リュシアンがしゃがみ込む。そして、ロザリーから受け取ったミモザの枝を、シリルに差し出した。
「これを、母君に渡すといい」
「い、いいのですか?」
「ああ」
眉尻を下げていたシリルであったが、瞬時に表情が明るくなる。ミモザの枝を受け取り、大事そうに胸に抱いた。
「ありがとうございます!」
肩をポンと叩くと、シリルは一礼したのちに走って扉のほうへと向かう。出て行く前に、もう一度ペコリと頭を下げた。
一刻も早く、母親にミモザの花をあげたかったのだろう。廊下をタッタと走る音が聞こえていた。
「コンスタンタン、すまない。母親が好きで、たまらないみたいで」
「私も、子どものときは、庭で摘んだ花を、届けていました」
走って届けたので、花びらはほとんど散っている状態だった。お世辞にもきれいとは言えないだろう。それなのに、コンスタンタンの母は花が枯れるまで花瓶に生けてくれた。そんな幼い頃の記憶を、思い出してしまう。
「シリルは興奮したように、君について語っていたよ。カッコよかった、物語にでてくる英雄のようだった、とね」
コンスタンタンが騎士だと判明すると、「将来騎士になるんだ!」と宣言し、張り切っているらしい。
「シリルは三男だから、身を立ててもらえるのは、大変ありがたいことだよ」
爵位や財産のほとんどを継ぐのは、長男である。次男、三男となれば、与えられるものは多くない。そのため、自分の努力で財を成さなければならないのだ。
「と、すまない。長く引き留めてしまったね」
「いえ」
「晩餐会を、楽しんでほしい」
「ありがとうございます」
コンスタンタンとリュシアンは、端のほうの席でひっそり参加するものだと思っていた。しかし、案内されたのは、カルパンティエ子爵の近くの席である。
注目が集まり、コンスタンタンは緊張してしまった。
カルパンティエ子爵が、ワイングラスを片手に話し始める。
「紹介しよう。彼は、娘カトリーヌの一人息子で、コンスタンタンという。昨日、湖で溺れた末の孫シリルを助けてくれた、大変勇敢な男でもある」
カルパンティエ子爵の舌は絶好調のようで、コンスタンタンについての自慢を皆の前で語り倒していた。
コンスタンタンは恥ずかしくなり、穴があったら入りたい気分になる。
「――最後に言わせてほしい。男の孫は、大きくなったら可愛くなくなると思っていた。しかしだ。コンスタンタンは、このように大きな体躯をしているものの、見ればみるほど愛らしい! そんなわけで、私の可愛い孫コンスタンタンを、どうぞよろしく頼む。では、乾杯っ!!」
長い乾杯の音頭だった。くすぐったくもなったが、同時に嬉しくなる。
カルパンティエ子爵家に受け入れられた瞬間でもあった。
おいしい料理に舌鼓を打ち、名産のワインも味わう。
楽しい夜は、あっという間に過ぎていった。
連続更新にお付き合いいただき、ありがとうございました!不定期更新になりますが、この先もお付き合いいただけたら幸いです。




