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お嬢様は侯爵家のお嬢様とお話をする

 二人きりになった瞬間、ソレーユは立ち上がり、リュシアンのほうへと駆けてくる。その場に膝を突き、リュシアンの手を握って謝った。


「リュシアンさん、ごめんなさい!」

「ソレーユさん! そんな、スカートが、汚れてしまいますわ」

「いいの、汚れても。本当に、申し訳なくって」


 未来の王妃に、膝を突かせるなんて。リュシアンはソレーユの手を引いて一緒に立ち上がり、隣に座るように促す。


「私は反対したのよ。リュシアンさんを巻き込むわけにはいかないって。でも……」


 王太子がリュシアンを強く推したらしい。そのため、誰も反対できなかったようだ。


「ごめんなさい。王宮にはいくつか派閥があって、どこにも属していないリュシアンさんならば適任……いいえ、都合がいいと、おっしゃっていたの」

「そうだったのですね」


 王太子との結婚の話すら、ソレーユは一度断ったらしい。


「もう、王家のお家騒動に巻き込まれるのは、まっぴらごめんだと思っていたの」

「そ、そうだったのですね」


 ただ、その点はソレーユの一存でどうにかなるものではない。実家であるデュヴィヴィエ公爵家に借りもあるため、結婚の話を受け入れなければならない状況にあったようだ。


「絶対、私と王太子殿下の結婚は、いろいろ言われると思うの。歴史ある公爵家でさえ、相応しくないのでは、と陰口を叩かれるくらいよ」


 ではなぜ、幼少時に結婚相手の候補者として名が挙がっていたのか。

 それは、二世紀程前、王女がデュヴィヴィエ公爵家に臣籍降嫁したからだ。一応、ソレーユにも王族の血が流れているというわけである。


「まあ、もう何代も前だから、王族の血なんて薄くなっているのでしょうけれど」


 通常、王族は同等の家柄の者を伴侶として選ぶ。そのため、国内からではなく、国外から王族を娶る場合が多い。政治的にも国同士の繋がりが強くなり、よい結果を生む。


 ただ、今回の場合は、若干事情が異なる。

 婚約を結んだ隣国の姫君は騎士と駆け落ちし、その騎士は王太子との結婚を阻止するために下町の者達を唆し扇動しようとしていた。


「今は他国との繋がりよりも、国内の安定を、という話になったそうよ。私と王太子殿下は、幼い頃から想い合っていたという話も、でっちあげるみたい」

「本当にでっちあげ、なのですか?」

「どうだったかしら?」


 王太子とソレーユは、想い合っている。そういう印象をリュシアンは受けていたが、今日のソレーユは認めようとしない。

 あまりにも、国の事情に翻弄されているので、腹が立っているのだろう。


「とにかく! 国のごたごたに、リュシアンさんを絶対に巻き込みたくないの。嫌な思いをするのは、私一人で十分なんだから!」


 憤っていたソレーユだったが、すぐに真顔になる。そして、少し照れたようにもじもじしながら言った。


「リュシアンさんは、大切な友達だから、侍女と主人って関係では、いたくないのよ」


 ソレーユは頬を赤く染める。


「私、リュシアンさん以外、お友達と呼べる人がいなくて。だから、大切にしたいの」

「ソレーユさん、ありがとうございます」


 リュシアンはソレーユが握った拳を、両手で包み込むように握った。


「とても、嬉しかったです」

「え、ええ」

「それから」

「それから?」

「首席侍女のお話を、お受けしようかなと」

「ええっ!?」


 ソレーユは瞳が零れそうなほど、大きく見開く。想像もしていない返事だったのだろう。


「リュシアンさん、私の話、聞いていた? ドロドロしていて、妬む人がいて、国の腹黒おじさん達に、翻弄される立場だってこと」

「ええ、存じています」

「そ、それに、侍女になったら、私とリュシアンさんの関係は――」

「親友、ですわ」

「し、しんゆう!?」


 ソレーユを安心させるために、リュシアンは満面の笑みを浮かべた。


「ちょっと前まで、わたくしが主人で、ソレーユさんが侍女でしたでしょう?」

「え、ええ。そうだけれど」

「そういう関係でも、わたくし達は、友情を築いたではありませんか」

「い、言われてみれば、そうね」

「だから、大丈夫です。わたくしがソレーユさんの侍女になっても、絆は、変わらないでしょう」

「そ、そうね」


 一瞬納得しかけたソレーユであったが、すぐに我に返る。眉をピンとつり上げ、リュシアンに訴えた。


「で、でも、リュシアンさんが嫌がらせを、受けるかもしれないわ!」

「嫌がらせというのは、具体的にどういう行為なのでしょうか?」

「い、陰湿なのよ、きっと! ドレスを、泥だらけにされたり」

「洗ったらよいですわ」

「靴の中に、虫が入れられたり」

「害虫でしたら、殺します」

「お手紙に、カミソリが入っているかもしれないの」

「紙以外の物が封筒に入っていたら、重さや硬さで気付きますわ」

「それから、それから……」


 ソレーユが思いつく嫌がらせは、早々にネタ切れしてしまった。


「王太子殿下の言っていたとおり、リュシアンさんは、牙や爪を持つウサギさんなのかもしれないわ……」

「わたくしの持つ牙や爪で、ソレーユさんをお守りできたらいいのですが」

「十分、頼りになるわ」


 ソレーユは今一度、リュシアンに尋ねる。


「本当に、私の侍女を務めてくれるの?」


 リュシアンは微笑みを浮かべながら頷いた。


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