お嬢様は突然の抜擢に戸惑う
突然の提案に、リュシアンとコンスタンタンはきょとんとする。
ソレーユは笑顔で、狙いを語った。
「国王陛下のために、妻たる王妃が率先して野菜を作る。なんだか、心温まる話みたいでしょう?」
手と手を重ね、うっとりとした表情を浮かべていた。それは次期国王となる王太子への愛というよりは、上手いことを考えたという自らの考えに対しての自己陶酔に見えた。
そんな娘の様子に、デュヴィヴィエ公爵はヤレヤレとばかりに、眉間を揉んでいた。
「王の菜園の維持費には、毎年一万フランかかっている。今年は市民の税に対する活動も盛んだった。よって、来年は王の菜園を取りやめたほうがいいのでは、という案がでたのだ」
それに待ったをかけたのは、デュヴィヴィエ公爵だった。
王の菜園の敷地内にソレーユの離宮を造り、そこで管理をさせておけと。もちろん、維持費は王の菜園内で賄うという条件を付けて。
アイデア自体は、ソレーユのものらしい。父親にせがんで、議会で発言させたのだとか。
「通常であれば、このように娘の言いなりにはならない。しかし、前科があるからな。ある程度希望を聞いておかないと、何をしでかすかわからない」
ソレーユの前科というのは、第二王子の婚約発表会から抜け出した件である。
さすがに悪いと思っているのか、ソレーユは肩を竦め大人しくしていた。
本人の望む場所に離宮を建て、必要なときにだけ王宮へ向かうという形を取るらしい。
もちろん、前代未聞である。
王太子は逆に面白がり、許可を出したようだ。
グレゴワールは、ソレーユの計画をあっさり支持した。しかし、コンスタンタンは険しい表情で問いかける。
「しかし、王の菜園の作物だけで一万フランを賄うのは、可能なのでしょうか?」
王太子やデュヴィヴィエ公爵も渋い表情を見せていた。懸念点であったらしい。
一方でソレーユは勝ち気な表情で、戦略を口にする。
「王の菜園に親しみを覚えてもらうために、庶民向けの宿泊施設や食堂を始めると話していたでしょう? 逆に、裕福な貴族向けの宿泊施設や、食堂も始めるの。王太子妃が経営する~なんてうたい文句が付いたら、気になってしまうでしょう? 売り上げの数パーセントを寄付に回したら、さらに王室のイメージもアップする!」
きっと上手くいくと、ソレーユは断言していた。
「でも、始めるには問題が一点だけあって……」
ソレーユは珍しく、憂鬱そうだった。その理由を、ポツリポツリと語り始める。
「わたくし、十名ほどの侍女を迎えることになったの」
王太子妃の侍女としては、かなり少ないほうだという。はじめは、五十名ほど選ばれていたらしい。
「生粋の奥様やお嬢様ばかりよ。きっと、私がやることなすことに、文句を言うと思うの」
国内有数の名家から、未来の王妃のために働く貴族女性が送られてくるのだという。
王太子妃の侍女は大変な名誉である。断っても断っても、応募があるらしい。
ソレーユは重たいため息を落とした。
「わたくしが何か活動するたびに、きっと彼女達はいろいろ物申してくると思うけれど、気にしないでいただけると助かるわ」
ここからが本題らしい。王太子はリュシアンを見たあと、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべた。リュシアンが瞬きをする間に、いつもの王太子に戻る。
「リュシアン嬢を、ソレーユの首席侍女に任命しようかと、考えている」
首席侍女――侍女の中でも、もっとも権力を持つ存在である。
主人は首席侍女をもっとも尊重し、他の侍女は意見したり逆らったりする行為は許されていない。
「わたくしは、反対なのだけれど」
「しかし、君は誰も首席侍女を選ばないだろう? だったら、こちらから指名する他ない」
リュシアンは突然の抜擢に、戸惑っているのが正直な気持ちだ。それを、素早くソレーユが察する。
「ほら! リュシアンさんが困っているでしょう? 王太子妃の侍女なんて、どろっどろの女の世界に決まっているじゃない。その中に、リュシアンさんを入れるなんて、恐ろしいわ。肉食獣の中に、愛らしいウサギを入れるようなものよ」
「しかし、ソレーユ。そのウサギは、牙もあるし、爪も鋭く研がれていると、私は思っている」
それは、王太子のリュシアンに対する評価だった。
自分の牙や爪は、きちんと使えるものだろうかと、リュシアンは本気で考えてしまった。
「まあ、首席侍女に関しては、この場で決められるものではないだろう。一度、持ち帰ってくれ。話は以上だ。あとは、ソレーユ、リュシアン嬢としっかり話をするように」
王太子はデュヴィヴィエ公爵とグレゴワール、コンスタンタンに目配せする。別の部屋で話がしたいのだろう。
グレゴワールは「私はこっちの部屋でいいのだが……」という視線をリュシアンに向けつつ、コンスタンタンにせっつかれて退室して行った。




