表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/168

堅物騎士は、後始末に追われる

 王の菜園は、瞬く間に炎の中に呑まれた。

 コンスタンタンは絶望の淵に立たされたが、ぼんやりしている暇はない。このままでは畑だけでなく、建物までも焼き尽くしてしまうだろう。

 王太子の近衛部隊を中心に、消火活動が始まる。湖から水を運び、風で巻き上げられる炎にかけた。

 しかし、火の手はなかなか収まらない。どうすればいいのか。そう思っていた最中に、援軍が現れる。ドニ率いる、ドラン商会の勇士だった。

 消火活動から一時間後に、やっと消防団が現れた。炎の勢いは、だんだんと収まっていく。

 鎮火したのは、明け方だった。

 真っ黒になった畑を見て、コンスタンタンは信じられない気持ちになる。どうしてこうなってしまったのか。その問いかけに答えられるものはいないだろう。

 部下から、軽傷者は何名かいるものの、大きな怪我をした者はいなかったと聞き、ホッと胸を撫で下ろす。

 ゆっくり休むように命じ、解散を言い渡した。

 息つく間もなく、コンスタンタンは王太子の近衛部隊に報告に行った。

 リュシアンが喫茶店を作るために整理していた建物を、対策本部にしているのだ。

 そこには、王太子がいた。驚くべきことに、消火活動に参加していたようで、全身煤だらけだった。

 コンスタンタンを見て、安堵の笑みを浮かべる。


「コンスタンタン、大変だったな」

「いえ、私はぜんぜん。それよりも、殿下のほうこそ……」

「私は大丈夫だ。アランブール伯爵邸が襲撃を受けたという話を聞いていたが?」

「なんとか、父もリュシアンも、無事で」

「そうか。それは何よりだ」


 王太子は人払いをし、コンスタンタンと二人きりとなる。どうやら、今回の騒動の犯人を捕獲した件について、詳しく話してくれるようだ。


「下町の者達を煽動していた者は、王女と駆け落ちした騎士だったらしい」

「なっ……!?」


 王太子と結婚する予定だったエステル王女は、国外逃亡を試みていた。

 あと少しで外国行きの船に乗れる。そのタイミングで、捕獲したのだ。


「シルヴァンがね、執念で見つけてくれたようでね」

「ああ、彼が――」


 王女の身代わりとしてやってきた少年シルヴァンは、「王女と同じ顔をしている自分が捜索に参加したら、見つけやすいだろう」、と言って国を飛び出していった。

 宣言通り、エステル王女の発見に至ったらしい。


「エステル王女は捕まえたものの、騎士を取り逃がしてしまってね」


 捜索を続けてたようだが、騎士は意外な場所で発見された。それは、王都の下町だった。


「騎士も、シルヴァンが捕まえたんだよ。大した少年だ」

「そう、だったのですね」


 下町の者を唆し、国の情勢を悪くさせる。貴族と市民の間で内戦が始まれば、結婚どころではなくなるだろう。


「上手く市民を煽動し、王政崩壊まで導けたら、今度は隣国が攻め入る隙ができる」

「征服も視野に入れていたと」

「だろうね。それで手柄を立てて、エステル王女との結婚を認めてもらおうという算段だったらしい」

 

 コンスタンタンは頭を抱え、深いため息をつく。

 たった一人の男の野望のせいで、甚大な被害を出してしまった。


「騎士の男は、祖国からも切って捨てられたようだ。明日、処刑となるだろう」


 事件は解決したが、根本的な問題は残っている。下町の者達と貴族の間にできた溝は、なかなか埋まらない。


「ここだけの話なのだが――国王陛下には、今回の騒動の責任を取って、退位をしてもらう予定だ」


 枢密院を召集し、国王の退位について議題に出したところ、九割の賛成を得たという。

 王太子は長い時間をかけ、少しずつ少しずつ、支持する者達を増やしていたようだ。


「そうでしたか。おめでとうございます。ようやく、ですね」

「ああ。ありがとう、コンスタンタン」


 めでたい話はそれだけではないという。隣国の王女エステルとの婚姻話も解消されたと。


「即位する前に、結婚することになるだろう」

「あの――お相手は?」

「ソレーユしかいないだろう?」


 通常、王族の結婚は同等の身分でないと許されない。以前までの婚約は同じ年頃の王族が他国にいなかったため、相応しい相手が見つかるまでの期間限定で、暫定的に結ばれていたのだ。


「しかし、彼女以上に、私の妻としてふさわしい女性はいない。何があっても、今度は守るつもりだ」


 ソレーユは現在、社交界の女性を束ね、被害に遭った下町の者達の支援活動をしているという。

 国民のために働く彼女を、悪く言う者はいないだろう。 


「と、報告は以上だ。引き留めてすまなかった。早く、家族と婚約者に顔を見せてやってくれ」

「はっ」


 コンスタンタンは一礼し、王太子の前から去る。

 速歩で、自宅へと戻ろうとしたが――王の菜園にぽつんと立つ女性の姿を発見した。

 リュシアンとロザリーだった。


「アン!」


 リュシアンの名を叫ぶと、彼女は振り返る。

 コンスタンタンの姿に気付くと、駆け寄ってきた。


「コンスタンタン様っ!」


 そのまま、抱き合う形となる。


「アン、よかった、無事で」

「コンスタンタン様のほうこそ、ご無事で」


 震えるリュシアンを、コンスタンタンはぎゅっと抱きしめる。


「怖かっただろう」

「――っ、はい」

「よく、耐えてくれた。アンは、私の誇りだ」


 一度離れ、リュシアンの顔を覗き込む。

 ポロポロと、真珠のような涙を流していた。

 手を握り、再会できた喜びを分かち合う。


 リュシアンはコンスタンタン同様、薄汚れた姿だった。消火活動に参加していたからだろう。


 けれどそんなリュシアンの姿を、コンスタンタンは世界一美しいと思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ