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急2

貴方達は覚えているだろうか

私は直近に感想をいただくまで忘れていました




冗談じゃない。




目の前の光景がその心境の全てだった。


闘技祭の主役二人が飛び去った会場。

多くの観客がいるのにざわめく声すらあがらない絶句のままに静まり返ったその場。


目の前で何もかも元通りに。まるで何事も無かったかのように。


観客が見守る中、生えてきた莫大ともいえる大きさの棘山が自ら縮み地面に潜って。

溶けて抉れた石床が巻き戻るように勝手に整備されていくその様を。


ものの一分もかからぬうちに時間が巻き戻るかの様に破砕の結果がなくなって。

王都の闘技場はまるで何事も無かった、試合が開始される前の舞踏台がそこにあった。



「……………ァッ!!!」

「…ッ!?…!!…!!」

『お静かに、もう危険はありません!皆さん落ち着いてください!』



静かな会場は徐々に生気を取り戻し、ざわめきが破裂するように広がっていく。


審判や関係者が場をなだめようと声を上げ。

それでもなお、目の前で起こった光景が、ひたすらにその場を乱れさせていた。



冗談じゃない。



もう一度そう思う。


頭を抱える。今すぐがりがりと頭をかきむしりたい衝動。ああ本当に、クソッタレ。



「旦那方は信じねぇんだろうなぁ…。あの能天気さが羨ましいぜ…ったく」



ここにはいない一時の味方…いや協力者達…隠れ蓑…。まあなんだっていい。


勇者が心配だから、等と言って件の騒動の後医務室に残った一団を思い浮かべる。

聖女だけならまだしも他の奴らはあの狭い部屋の中じゃ邪魔になるだけだろうに。


客が我先争って逃げ雪崩れるようなパニックは起きてはいないのが救いだろう。


まあ今取り乱すような気の小さい者は既に逃げているか。


今はいない飛び去った主役二人にとってほんの小手調べでしかなかった、

見上げるような岩山瞬く間に生み出し、それを溶け爆ぜさせた現場を見た時点で。



(そろそろ潮時かねぇ…クランズとレギンレイヴの跡継ぎの顔を拝めたのは行幸だったけどよう…)



バケモンじゃねぇか、と溜息を一つ。


空を見上げ、ふと思いついて懐を探りコインを取り出す。



「…表」



コインさんコインさん教えてくださいな、と上へ弾く。


綺麗に細く澄んだ甲高い音をさせて回転しながら落ちてくるそれを手の甲でキャッチ。



表。



…よし。



即断即決。思い立ったが吉日。


あんなもん関わるだけ損だと会場の外への波にゆるりと混じる。

俺を見張っていた誰かが声を上げた気がするが俺は無関係ですよ、と。


他国へ潜入する間者などやっている身の上では興奮とざわめき騒ぐ群衆に紛れ馴染むのは日課のようないつもの事だ。

昨日まで仲間であった誰か達と顔も合わせずに別れる事も。



「理不塵と魔獣使い、ね」



いやアレはないだろうと胸の中でつぶやく。


俺だって我が国に地属魔法に秀でる術者を知ってはいますよ?


知ってはいるが精々背丈程度の壁を両手広げた幅で地面から生やすのがせいぜい。

一息の間で見上げるような山をあの速度で生やす?


はッ。


攻撃に転用できるほどの威力はそもそも出せないんだよ。俺の常識の中では!


そもそも攻撃に使うのなら火や風を使えばいいのだし。意味が分からねぇよあんなん。



「しかし凄かったな。クランズ、だっけ?勇者を倒したのを見た時は何事かと思ったけど」

「勇者のあれは対人戦の慣れの差がもろに出た感じだったろ。

 しかしあんだけの事出来るんならもっと有名になってもおかしくないよな。どこの奴だ?」

「バッカ。クランズっていえば北のレギンレイヴに仕えてる「天鬼」だろ。間違いなくあそこの息子だなありゃ」



紛れた雑踏の世間話を適当に聞き流せば誰も彼も先程の事。


ここ十数年一辺境伯の戦力だけで国境を守り押しとどめられ、停戦にまで持ち込まれたのだから。

我が故郷たる国にとってミティアス王国のレギンレイヴ領は目の上のたんこぶと言っても過言ではないだろう。


その中のクランズ家といえば「天鬼」のレイア・クランズ。

一人で3000の軍勢を吹き飛ばしたとかいう眉唾モンの伝説を持つ女傑。


先程起きた理不尽極まりない現象もその息子であるならばあれくらいできて不思議でない説得力がある。


ヴェルザー卿ですら俺の理解の外だし、あの領域の奴らは本当に……これ以上深く悩まない方が幸せだな。


こちらに来る前に下調べにとレギンレイヴに送り込まれていた間者仲間からの情報を多少聞いてみたが。


謎の技術でいつの間にか整備され、繋げられていた街道。

恐ろしい勢いでなれど余所者・無法者が深く入り込めないように賑わい発展していくレギンレイヴ領の街。


フハハ言いながら災害級の幻獣を狩りながら間者を牢屋に叩きこみ強制送還する「天鬼」。

マッシヴな肉体をレースでフリフリでピンクな格好で包み最前線を維持し鼓舞するレギンレイヴ。


そしてワハハ笑いながら魔族や幻獣や魔獣をダースでしかも素手で砕く恐ろしい子供と

恐ろしい見た目と強さを持った魔獣を意のままに従え引きつれる悪夢のような子供の姿であったとか。


そりゃあ戦場に出てこなくても二つ名をつけて警戒すべきだと上も警戒するだろう。


間者仲間が語っていたのを話半分で聞いていた山脈ずらしとか冗談じゃねぇのかいと理解する、した。クソッタレ。

というかあの「天鬼」の息子、試合中の言からしてヴェルザー卿と戦う為にわざわざ来てるっぽいんだよな。


レギンレイヴの方をこの国で改めて調べた限り、今までほとんど表に出てこなかったが

最近では王都での交渉などを任されているようで頭角を現してきた一人として見られているらしい。


対面したあの短い間では分からなかったがレギンレイヴの方も無能などという事は望み薄だろうな。


そいつらに喧嘩を売りに行く?死にたいのかあの黒髪。



どいつもこいつも狂ってんな、とため息をもう一つ。



当座の目的は達成したしこれ以上あんな連中と付き合っていられない。

西の国境でヴェルザー卿と合流してさっさと引き上げだな、と。


勇者の人となり、性格、方針。

聖女の人となり、性格、方針。

その仲間の情報。パーティの戦力。

ミティアス側の勇者の取り扱い。

教会側の概ねの狙い。


現状知りうる限りは集められたかね、と黒と青と緑の視線を思い出す。

これ以上の関わり合いは俺の命にかかわりそうだしとっととずらかろう。



(教会の狙いだけはレギンレイヴに伝えるべきか…。

 こっちとしても不都合極まりないんだが…ま、俺の判断する事じゃないね)



恐れるべきは人の妬みと無知と盲目か。おお怖い怖い。





「その、アトリ・レギンレイヴ卿、困ります」

「ふむ、さりとて一人で出歩くなと言われていてね?

 供として連れていた友人が他国の将と一騎打ちに出かけてしまった以上

 信用できる部下が彼らしかいないんだ」



王城の豪奢な廊下を部下と共に歩いていると王国の文官らしい青年に止められる。

王都に来る時は大体彼らが僕の身辺を守ってくれているから大丈夫だと思ったんだが。



「せめて人間の方を…」



彼ら、僕の後ろに控える成人の腰程度の身長の鋭い目と艶を持った毛並みの狼と

その同程度の大きさを持ったしなやかさと力強さを兼ね備えた山猫と

饅頭型の体から生えた10本の触手をうねうねと素敵にうごめかせ直立するクラゲの3匹の魔獣。


3匹とも誇らしげに胸を張りながら行儀よく座り指示を待つ格好だ。



「彼らはレギンレイヴ領では民として扱われているし、王からも許可をいただいている。何か問題が?」



そう言い、僕はバーナード達がつけている鎧のようなハーネスを示す。

そこには国から身分を保証された証の徽章がつけられていた。



「…ならば結構です。お時間を取らせていただいて申し訳ございません」

「いいや、こちらこそ。余計な手間を取らせてしまったようだ」



欠片も納得いかないような顔でそう言われるのも慣れたものだ。

こちらも城下町の宿で毒を持った不審者を捕らえてなければもう少し警戒を緩めてもいいんだけどね?


無論、魔獣として見られている彼らを護衛として連れて王城に来る事が

常識外の行動だというのは僕としては非常に不本意ではあるが理解している。


レギンレイヴ辺境伯の名代としてきている自分が、

…僕にとっては非常に不本意だが蛮行ともとられる行動をしていれば。


彼らの素敵さを知らない人間からどう映るかは先程の青年がいい例だろう。


人より遥かに精度のいい耳や鼻や感覚器を生かして僕を守ってくれる彼らを連れて初めて王城を訪れた時は酷かった。

主にゼーマさんが。


まあ今となれば納得出来ずとも理解はできるけれど。


だがそれでいいのだと、ゼーマ・クランズは言った。


「せいぜい不自由な2択で悩んでもらいましょう」ととてもいい笑顔で。


僕らレギンレイヴ辺境伯領が王家を裏切る気は今のところない、が。

意思は見せておく必要性があるのだと。


不自然に優遇される()()()()である教会が何故我が物顔で闊歩する中で掣肘されねばならぬのかと。


多少話の分からないフリで強引でもいいから意見を示すべき、という事らしい。

そして、僕というレギンレイヴの次代の当主が何が出来るかを王家に正しく示す為でもあるとか。


どういう事だろう?と首をひねる。

バーナード達も一緒に首をひねった。良し。


最初はトーマをお供に来る予定ではあったんだけど彼自身が領内外の魔族鎮圧に駆り出されているのと。

「あいつ王都に行かせたらハニトラされそうだからやめて」とのゼーマさんのお言葉があったので諦めた。


まあ、彼がハニトラにかかるだなんてあり得ないだろうけど。

あり得ないだろうけどやめておいたのだ。忙しそうだったし。うん。



(さて、約束の時間はもう少しか)



後ろの彼らに手で示しゆるりと歩き出せば続く気配。


無論、客観的蛮行を示すだけではなくきちんとした話し合いができる勢力である事も同時に示さなければならない。

こちらとしても中央で政争をする気はない。ただ安定していて欲しいのだ。


今から会う約束をしている大臣殿は魔獣に理解があるし彼らとも顔見知り。

会う度にバーナード達を撫でさせてくれだとか吸わせてくれと要求されるのがよく分からないが。


我が国への教会勢力の介入を良く思わない、という思惑も一致している。

大臣の友人達とも足りていない物資の多少の融通で仲良くなれるだろう。


ゼーマさんの、領の特産物を広めたい思惑も関わってくるんだろうけど

父上からお墨付きももらってるしその辺は僕の好きにやらせてもらうとしよう。



「おい、てめぇ!待て!」



後ろから突然怒鳴りつけられる。

最近どこかで聞いたような声だが。


どたどたとまとまりのない足音に振り返れば、勇者の一団だ。

どこかで見たような絵面だね?


だが今度は先程と違い、黒髪の男が背負った大剣を抜き、

緑の騎士が鞘に入った剣を腰に構え、青の神官が肩をすくめ溜息を吐くような仕草。

顔色の優れない勇者と、おや話の分かりそうな橙の彼がいない。


そして、



「逃げてください!ここは私達が何とかしますから!」



桃色の聖女殿が悲痛な声で叫ぶのを聞く。

待てと言ったり逃げろと言ったり忙しい連中だね。



「…何事かな?」

「正体を現しましたね、レギンレイヴ。王都を魔獣で襲わせるとは」

「はぁ…?話が見えないな。待って、バーナード。どんぶり丸。リンリン。彼らは敵じゃない。控えて」



唸り声と低い姿勢で牙を剥いたり、不思議なうごめきの反復横跳びで

臨戦態勢になったバーナード達に指示を飛ばして後ろに下がらせる。



「魔獣が指示を聞いた…?」

「それで?何か用かい?こちらは正式な許可を取った上で彼らと共にここにいるんだけれど?」

「どこにその証拠が…!」



勇者一団の更に後ろから血相を変えた先程の青年文官と兵士二人が走ってくるのが見え、



「勇者の方々!ここで剣を抜かれるのは困ります!

 レギンレイヴ卿の、…その…えー…護衛の方々は国によってこの場での行動を認められています!」



そう叫びながらこちらとあちらの間に入る。



「魔獣だぞ!意味わかってんのかテメェ!」

「…事実ですので。ですがレギンレイヴ卿も、こういった誤解を招くのです。

 混乱を招く様な行動は慎んでいただきたい」



はぁ、と演技するように大げさなため息一つ。



「僕は正式な許可を貰った上でここにいると言ったのだが?

 君は知らなかったようだが今日、僕が彼らを引き連れ行動するという事はあらかじめ通達されている。

 武装した上で王城を訪れ、曲がりなりにも貴族である僕に向け抜剣する彼らの方に非があるだろう?」



少なくともこちらに恥じ入る部分は一切ないのだと胸を張る。

魔獣が護衛として不適格?それはただ前例がないだけ。僕が前例になるのさ。


苦虫を嚙み潰したような顔の青年文官とどうしていいかわからない兵士二人。


舌打ちをして面白くなさそうに剣を収める黒髪や明らかに不服そうな緑髪。

こみあげてきた本当の呆れのため息を堪え、努めて笑顔で先を促す、



「まあ、誤解が解けたなら何よりだよ。それで?そちらはどうして王城へ?」

「魔獣と魔族の軍勢ですよ。王都に向かっていると教会の信徒の方から情報があったのです」

「ああ、そう。では急ぐといい。急を要する事態みたいだからね」



興味のない話題だったので流す。


青の神官は気に入らないという風に眼鏡を中指で押し上げ、



「冷静ですね。まるで知っていたかのようだ」

「僕は戦場に出て戦う人間ではないからね。信頼してるんだよ王国の軍を。

 それと一応君達の事もね?」

「…そうですか」

「すみません。時間がないのでお急ぎください」



青年文官が青い顔で、勇者達を誘導する。



「…分かりました。アーク、大丈夫ですか」

「僕なら問題ない。行こう」



勇者の一団が促されて移動をしようとして、しかし、



「ごめんなさい皆、先に行ってて。

 すみません、貴方と少し話がしたいのだけど、いいかしら?」



桃色の聖女様だけがこの場に残ると言い出した。



「聖女様!?」

「お前何言ってんだ!?」

「急いでください!」

「…しかし」

「私は大丈夫。皆は王様に知らせに行って」



青髪と黒髪が声を荒げ緑髪は声を出さずに慌てたような様子だ。

いや、大丈夫って何が大丈夫なのかと。



「…行こう。彼女は強い女性(ひと)だ。何か考えがあるんだろう。

 僕達が早く行動しなければ要らない被害が出てしまう」

「アーク?……分かりました」

「チッ、何かあったら覚悟しろよテメェ…」

「…」



…えぇ…。


何か納得したかのように聖女一人を置いて勇者の一団は王への謁見に向かっていく。

こっちは承諾した覚えはないんだけど…。


目の前で繰り広げられた寸劇の意味が分からない。

え?聖女殿が一人だけ残るの?他は誰か残らないの?


トーマが関わりたくないって言ってたのはこういう事かと腑に落ちる。


そうして何故か残った聖女殿と僕とバーナード達。


聖女殿は少し躊躇うように俯いて、何か決意したように頷き一つ。

顔を上げてこちらをきちっと見据え、



「貴方は、魔獣と仲良くできる人なのかしら?」

「え?ええ、まあ。知らぬ人に見られるとよく驚かれますが」

「私も、仲の良い子がいるの。…出てきて」



そう聖女が言うと彼女のカバンの中から拳程度の大きさの鮮やかな翠色のネズミにも似た生き物が顔をのぞかせる。


…あれは。



「この子は草食でこんなにもおとなしいのに何故か皆目の敵にするの。酷いと思わない?」

「…そうですね」



聖女のカバンから顔を出したその生き物は僕の後ろに控えるバーナード達に気づいて即座にカバンの中にもぐりこんだ。


あの()()はまさか…いや、増えなければ問題ない、か?



「貴方はそんなにも、その…個性的な魔獣と仲良くなれるなんてすごいと思うわ」

「そうでしょう?こんなにも愛らしく頼もしいのに虐げられ狩られてしまう。

 それはとても悲しい事ですが」

「そ、そうね」



仕方ないのだと言いかけた言葉を飲み込み、バーナード達の頭をそれぞれ撫でる。

うん、今日も良い毛並みにいいヌメりだ。


結局の所、僕も仲良くなれる子達としか仲良くなれない。

…僕自身の嫌悪で仲良くなれないと思い、切り捨ててしまった子もいたな。


結局、僕も自分勝手な人間だ。と内心で自分を嘲笑うような気分。


狩らねばならない。そう言う時もある。

しかし同時に彼らには彼らの生きる領域があってそれを尊重する心を忘れてはならない。


独善の自己満足であろうと自分の出来る限りを。


しかし聖女は意外と、話の分かる人なのだろうか。


教会は魔獣と見ればすぐに狩らねばと声高に語る人間が多い印象だが

彼女のような人間が先頭に立つならばその方針を多少なりとも変えられるのでは。


そう心において姿勢を正し話を聞く姿勢を作る。



「まずは先程はごめんなさい。あの時は本当に、衝撃的で冷静になれなかったの」

「ああ、なるほど。お気になさらず。こちらは特段気にしてはいませんので」

「でも、本当に勘違いしないで欲しいの。彼は、勇者様は優しかったから本気になれなかった」



………うん?



「彼も自分が気付かないまま手を抜いてしまって、貴方の友達と戦って不意を打たれてしまった。

 その勝利が自分の強さのおかげだと勘違いさせてしまったみたいだから…」



……何言ってんのこいつ。



「ああ、そうなのですか。では彼の勇者殿の優しさに友人の代わりに感謝を。

 ありがとう。僕の友人の為にあの舞台で無様を曝してくれて。

 あの勝利のおかげで彼は本懐を遂げる事が出来ましたから」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」



……何言ってんだこいつ。



「私達がした事は悪い事だったわ。納得出来ない事を抑えきれず貴方達を脅してしまったんだもの。

 本当はそうでなかったとしても、他の人達にはそう見えたのでしょう。貴方達にも」

「それ以外の何物でもないと思うのだけれどね?」



取り繕っていた言葉が乱れる。言っている意味が分かるけど分からない。


あのまま乱闘になれば一瞬で勇者一団が壁のシミになっていただろうけど。

石造りの通路でトーマと戦うなんて悪夢以外の何物でもないよ?



「でも、だからと言って、その後のしかえしはいただけないと思うの」

「仕返し?」

「マシューが居なくなったの。貴方達でしょう?」

「はぁ?」



マシューって誰…?

いや多分、さっきいなかったあの橙髪の男の事だろうか…。



「つまり、僕達は君達に脅された事を逆恨みして君の仲間の一人を拐かしたと?

 流石にそれは想像力が豊かすぎるのでは?」

「いいえ、貴方じゃないわ。今のでわかった」



遮るように言葉を重ねる聖女殿の言葉に頭が痛くなってきた。



「私は、聖女に選ばれた。そしてその証拠として二つ、女神様に力を授けてもらったの」



酔ったように言葉を紡いでいく。



「一つは魔族を消滅させる力。そしてもう一つ目の前にいるの人の言葉の真偽を見分けられる力。

 だから、今のでわかった貴方は関わっていないのね」

「へぇ…」



それは初耳だ。


そして肯定も否定もしない返答で真偽がわかるとはすごいね。


だから、と何かを察したかのように聖女は言葉を溜め、



「貴方、あの男に脅されているのね?」

「…は?」



予想外の言葉が来た。



「だって貴方、ずっと、苦しそうだもの。

 無意識だろうけれど、何度も胸に手を当てて苦しんでいる」



胸に手を当ててるのは単に…いや、どうでもいい。


こら、どんぶり丸甘く放電発光しながら浮くんじゃない。

リンリンは日当たりが良いからって伏せて寝るんじゃないよ。

バーナード、キリッとしてるのはいいが尻尾のワクワク感をもう少し抑えるんだ…!


いかん、意味が分からなさ過ぎて一瞬現実逃避してしまった。



「…それは随分な侮辱だと理解しての言葉かな?

 ああ、胸に手を当てて、の事ではないよ?君は想像力がたくましいようであるし」

「無理しなくてもいいわ。あんな力を振るえる人に逆らうなんてきっと無理だもの」



ついと、足先をこちらに向ける聖女。



「私、貴方を助けたいの。だって貴方は魔獣とお友達になれる人だもの」



胸に手を当て、自分のカバンとこちらの後ろを見やる。



「もちろん私だけじゃ、あの人をどうする事も出来ないだろうけど。

 勇者様達もさっきは非常事態で気が立ってて険悪だったけれど、

 事情を知れば必ず貴方を助けてくれる。私達きっと仲良くなれるわ」

「…はッ」



鼻で笑うような吐息に眉をひそめる聖女殿。


友人を、トーマを訳知り顔で貶められて腹が立った吐息が漏れた。

どうにもこういった話題では沸点が低くていけないね。



「自分達がどんな人間にも何かしら気にされてないと気に入らない性質かな?」

「…?どういう意味?」

「目線がお高くいらっしゃる、という話さ。どうでもいい話だから気にしなくていい」



トーマが何かの腹立ちまぎれに誰かを襲うだの人質にとったりする?


…そんな事するんなら「いっけなーい地獄地獄!」とか言いながら

気に入らない連中にかち込んでまとめてドスコイぶちかますと思うが。


そういえばアトリエでよからぬ事をしようとした奴らを

大通りに岩ブロックに埋めて疑似さらし首してたし微妙に陰湿な事はするだろうか。


無駄を考えて、頭に間を置く。


聖女の言葉は彼女からすれば気遣いと友愛の言葉なのだろう。


だがそれ以上に僕が誰かに何かをしてもらわないと

立ちあがれない人間だと見下されているようで些か腹が立つのさ。



「お気遣いどうもありがとうございます。だけど、彼とは昔からの友人でね。

 そんな事をやらかすような人柄とはとてもとても」



友人になろうという話だけなら別に良かった。

魔獣を認めてくれる人が増えるというのはもろ手を挙げて歓迎すべき事柄だ。


だがそれが人の友人の人となりを見切った気になって貶めて、

勝手に決めつけた人間ならちょっと僕としては遠慮したいね。



「だってそんなの格好悪いじゃないか」



そんなあり得ないトーマも。そんな聖女と友達になるあり得ない僕も。



「え?」

「あのバカはね。格好良く成りたがりなんだ。

 この世で一番を本気で目指してる。だからあり得ないのさ」



友人を軽く馬鹿にするよう口ぶりで自分の友人を誇る。

愉しさに口の端が上がる不敵の笑みを得る心持ち。


僕が知るトーマは少なくともそういう人間で。

僕は愚かな子供のように馬鹿なトーマを信じているのだ。それでいい。


そんな馬鹿だから並んで立ちたいと願い、隣に立って居ようとそう決めた。


僕は父上やレイア殿やトーマのように戦場に立つ並外れた人間ではなく。

母上のように人の心を動かす服を編み上げる事も

ゼーマさんのように屁理屈で色々あくどい事も出来ない。


ある日突然何もなかった土地に星を落として湖造成したり

森を一夜で荒野に変えて次の日には農地に改造したり

豪商口八丁で誤魔化して商会乗っ取り未遂とかクランズ家はちょっと自重して欲しい。


その事後処理で借りを作れるのは悪くないんだけどさ。


何ら秀でる所の無い人間なのでそれなりに以上に頑張らないといけない。


知ってるさ。意地を張りながら生きてるんだ。



「だから僕としてはこう言うしかないね。

 そんな小細工するわけがないだろめんどくさい、と」

「…そう、なの」



何やらショックを受けたような顔で聖女は俯く。



「あんな人の為に、どうしてそんなに苦しむの…?」

「君がアイツの何を知っているかは知らないけどね。

 僕はアイツの為に何かをした事はないよ?」



この聖女殿の中では何故かトーマが極悪人で固定されているようで。

目の前の人間が道化と理解すればもう怒りすら沸かない。


僕と聖女殿が会うのをトーマが危惧してたのはこういう事だったのかな?

気に入らない人間を見下したがる自分の器の小ささに辟易するね、全く。



「僕は僕の為にあいつを助けるのさ。

 僕の行動の理由は全て全て僕が、僕の心の納得の為だけだからね」



誰かの為になんて他人を理由にするのは僕の心が納得できないんだ。

僕は僕の心に心残りが残らないように好きなようにしたいだけ。


遠い日の、心に疚しさを残してなお隠そうとした恥を思い出す。


あの時から、なのかな。

それともその後の何事もなかったような一言だろうか。


それとも。


それとも。


それとも。


…どうでもいい事か。

幾度も重ねた小さい出来事のどれが起点だなんて考える事に意味はない。



「なぜ苦しむかって?そんなの単純だ」



聖女にとって僕が苦しむ理由は彼女の中の、

よく分からない納得できる整合性がトーマを悪者にすれば通るというだけなのだろう。


僕が苦しんでるのは別段、トーマのせいではない。


そう、ただの、



「ただの、僕の趣味さ」



正しく。本当に、それだけ。




深夜テンションで書き上げはしたけれど自分の中の納得がいくまで書き込めない事を悔やむ出来

だが私にこれ以上を書き込む想像力がないせつなさみだれうち

聖女と勇者達は犠牲となったのだ…

3年近く放っておいた事も反省すべき点


そんな拙作ですがどなたかの暇つぶしになる事を願って

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品めちゃめちゃ好きです。 更新楽しみに待ってます。
[一言] アトリは大きい方なんですね(意味深)。
[一言] コウシンウレシイヤッタ-! 勇者一行外に出ていざ魔獣討伐って思ったらトーマ達の戦闘に巻き込まれて魔獣討伐終わってそう。 次回は理不塵と紅灰の戦闘風景になるか楽しみです
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