ネームドモンスター
「んじゃ、どんな名前にするかな……」
虫、虫かぁ……改めて迷うな。
そういや仮に英語とかで『虫』を意味する言葉を言ったら自動的に翻訳されてしまうのだろうか?いや、でもビックスパイダーを大蜘蛛とは翻訳しないしな……。
「なあ、スパイダーと蜘蛛って何か違うのか?」
「呼び方ではないでしょうか?」
成る程、別の呼び方に変換されるらしい。なら大丈夫だな。俺は虫だし、インセクト?
後は、虫の王か。正確には魔蟲族という最弱種族。
最弱……シュヴァハでいいか。
「俺はこれからシュヴァハと名乗る。よろしく」
「弱さですか……慢心せずにいられる良い名かと」
「?無知で申し訳ありません。名の意味を理解できませんでしたが、よろしくお願いします」
俺の記憶を覗き見れるリリィには意味が分かったらしいが他の連中には解らなかったらしい。因みに俺がドイツ語を知っているのはそういうお年頃に調べたからだ。別に黒歴史になるほど重症では無かったが。
「そういやお前等の名前は?」
「ありません」
あ、そうなの?リリィにはあったのに、全員にあるわけじゃないのか。
「なら、お前等の名前も決めとくか」
「………よろしいのですか?」
ハイヴァンパイアが恐る恐る聞いてくる。
「ダンジョンモンスターは名前を持たない者が多いのですよ。というか基本的に名前を持たないのが普通です。名前を持つ者はネームドモンスターと呼ばれ、通常より高い力を持ちます。我を得るから、と言う説があります」
名前があるから集団から個と認識するってことか?気の持ちようで強くなれるのか。まあ純粋な生物じゃなさそうだしな。
「野生はどうなんだ?吸血鬼なんか、ダンジョンから離れた後増えたなら名前とか持つんじゃないか?」
「ダンジョン生まれのモンスターだけですよ」
そうなのか。やっぱり生まれが特殊だからなのかね?
「名前をもらえるというのはそれだけ特別なのですよ」
「へえ……じゃあ、どうしたら良いと思う?」
「デメリットとしては眷属をはずした後に命を狙われると厄介、ですね。現状マスターのCPは多いですし、特に問題ないかと」
じゃあ問題ないな。
「どんな名前が良い?」
「お、何だ名前もらえんのか?強そーなら何でも良いぜ」
と、ヴェアウルフはからから笑う。強そうな名前、ね……。
「ベートはどうだ?」
何時だったかテレビで見たジェヴォーダンの獣の通称。人を恐れず100を越える人を殺したと言われる狼の名だ。まあ狼じゃないって説もあるけど。
「へぇ、良いじゃねーか!気に入ったぜ我が王よ!」
ゴッ!と莫大なオーラがヴェアウルフ改めベートの体から溢れる。ネームドモンスターになったから?
ひょっとして俺の中にあるベート=強い狼って言うイメージも関わっているんだろうか?
「じゃ、じゃあラミアな……そうだな、えっと……白娘子……ハクジョーシかな。ハクって呼んで良いか?」
中国の民話、白蛇伝に登場するヒロインにして蛇の精の名だ。炎を操るらしい。
「ハクジョーシ……その名、確かに受け取りました」
と、ハクの髪が白く染まっていく。これもやはり俺のイメージの白娘子=白蛇というイメージが反映されたおかげかね?
「ハイヴァンパイアはやっぱりアルカードだな、うん」
ドラキュラの綴りであるDraculaはひっくり返しただけの簡単な名前。解りやすい。
今度は見た目に対して特に変化は現れなかった。
「他のモンスターはどうしますか?一応言葉は理解出来ますが、我を認識するほどの知能があるかどうか……」
なら、良いかな。そういやゴキも名前付けたけど特に今回みたいな変化は無かったし。
「アルカードは何か変化はあるのか?」
「そうですね……多少魔力が上がった、でしょうか」
それは何より。
「それで、我々は何をすれば?侵入者の排除?」
「いや、まだ呼び出したばっかなんだ。取り敢えずダンジョンが広くなってモンスターや罠が増えるのを待ってくれ」
「後は時折狩りに向かってもらいますかね。暇だというなら、私が修行相手になってあげてもよろしいですよ?」
俺の言葉に続いたリリィの言葉に新人三人と一匹がピクリと身を揺らす。何だ?
テンタクルスライムとビックスパイダーは我関せずだが…………。
「おいおい女、聞き間違いかぁ?『修行相手になってあげても』、だぁ?先輩だが何だか知らねーが女淫魔風情が偉そうに……」
「そうですね。王はともかく、配下である我らは実力で地位を決めるべきだと思います」
「まあ、ネームドモンスターとして得た力も確かめたいしね」
『ギィィィィ』
へえ、リリィってサキュバスだったのか。だから魅了系のスキル大量に持ってたんだな。成る程成る程。
で、多分だけどサキュバスって戦闘向きじゃないんだろうな。だから上から目線に腹が立つと……って──
「おいお前等!何を勝手に!」
「構いませんよマスターダンジョンモンスターとは、ダンジョンマスターを守る盾であり敵を滅ぼす剣であり策を生み出す頭脳である。生まれた順は関係ない。正しいですよ……敵が攻めてきているわけでもない現状、マスターの側近に相応しいかは力で決める。解りやすくて良いですね」
リリィはそう言うとテンタクルスライムを呼び寄せ、俺を結界で包み込み渡す。
「危ないので離れていてください」
『……………』
テンタクルスライムはゴポポと音を立てると結界ごと俺を飲み込みズリズリ距離をとった。気を使ってから、俺がリリィ達の方向を見たまま。
「ハンデです。封印状態のまま、魅了もなしに相手してあげますよ。生まれたばかりのクソガキども」
うわぁ、相変わらずの罵倒。
リリィの言葉に青筋を浮かべた三人と、ギチギチ唸ったスコロペンドラゴンが一斉にリリィに向かって駆け出した。
魔蟲王 DL5 Lv8 魔結晶0
HP 58/58
MP 45/45
CP 最大10524
DP 2712