リリィの実力
リリィは魔法を使う素振りも見せずに構えをとる。それはベートのプライドを刺激した。
身体能力に優れたヴェアウルフ、つい先ほど王より名を賜った自分に、魅了スキルが優れたモンスターが肉弾戦で挑もうというのだ。
サキュバスは魔力も高いが、魔法適正は魔法に秀でたモンスターの中でも下の中、人間にさえ同格がいるが、それでも肉弾戦よりは魔法を使った遠距離攻撃の方がまだ勝機はある。その勝機をミスミス捨てたのだ。
「なめんなこの阿婆擦れ!」
「…………」
地を蹴り鋭い爪を伸ばすベート。並大抵のモンスターでは反応できない速度だ。ネームドモンスターは伊達ではない。が──
「………あ?」
気がつけば空中にいた。
慌てて体制を立て直し地面をズザザ!と滑るベート。
──何が起きた?
ヴェアウルフの胴体視力を持ってして、見えたのは一瞬、自分の腕にリリィの腕が絡み付いた瞬間だけ。次の瞬間には空にいた。
「何、しやがった!」
「……技」
今度は飛ばされないように姿勢を低く、それこそ本物の四足獣のように駆ける。
狙いは足──!
「甘い」
リリィの足首が振り抜いている途中のベートの手首に添えられ、グルリと視界が廻る。
「ごべ!?」
頭から地面に激突したベート。起き上がる間もなくリリィの靴が眼前に現れ、次の瞬間意識を失った。
「串刺し公!」
と、そこへアルカードが叫び腕を振るう。アルカードの足元から太く鋭い杭が飛び出し、それは本数を増やしながらリリィに迫る。
リリィはチラリとテンタクルスライムの中にいるシュヴァハを見る。
「……成る程」
どうやらヴラド・シュペシェと言うのは彼の世界で吸血鬼と恐れられた英雄の名らしい。
名前付けによる際、シュヴァハのイメージはしっかり反映されていたのだろう。何が多少魔力が上がっただ。
「ハンドレッド・プレッシャー」
百倍の重力が地面から生えようとする杭を抑えつける。リリィから、逆再生のようにアルカードに向かって杭が沈んでいき等々アルカードもその重力に捕らえられ地面に押しつぶされる。
「この!」
『ギチチチチ!』
と、今度は津波が迫ってくる。
ラミアは本来水辺や湿地帯のモンスター。故にその能力は水辺でこそ真価を発揮する事が多いはずだが、これは随分……。
異界とはいえ仮にも伝承に名を残した者の名を与えられただけはある。
「ごえぇ!?」
リリィは足元のベートを蹴り飛ばし退けると迫ってくる水に向けて指を向ける。その指の前に青い魔法陣が現れ、ピシッと硝子に罅が入るような音と共に津波が凍り付く。
『キシャアアア!』
と、気泡を大量に含み白く染まった氷を砕きスコロペンドラゴンが大きな口を開けて迫る。
「…………!」
そして同時にリリィを閉じ込めるように杭が周囲から生え、枝分かれするように杭から杭が生える。
リリィは身体を回転させ杭を破壊する間にスコロペンドラゴンはリリィに向かって顎を閉じていく。
「リリィ!」
慌てて叫ぶシュヴァハだが不意に気づく。歯を打ち合わせる音が聞こえてこない。どころか、スコロペンドラゴンがリリィに噛みついた瞬間、頭の動きが止まり長い身体が浮かび上がっていた。
「単独では適わないと判断しとっさの連携。悪くもない。まあ、良いでしょう」
リリィはスコロペンドラゴンの牙に両手で触れながら言う。完全にスコロペンドラゴンの咬合力を上回っているように見えた。
「か、怪力?」
「違います……いえ、通常より力があるのは否定しませんが。これは時間魔法の応用です」
リリィはそういってシュヴァハの言葉を不機嫌そうに否定していると、スコロペンドラゴンの口内に光が溜まる。
「虫とは言え龍の力を持つモンスター。まあ、プライドもあるのでしょう……が」
ドガァ!とスコロペンドラゴンの身体が上に打ち上げられる。
「真龍どころか龍神や覇龍、龍王ですらない龍が私の相手になると思わないことです」
『……カ───』
ズウゥン!と音を立て倒れるスコロペンドラゴン。その土煙に紛れてハクとアルカードが迫る。
「…………」
リリィは足下に魔法陣出現させると踏みつけ地面に押し当てる。水溜まりに石を投げ入れたかのように衝撃波が広がりハク、アルカード、気絶しているスコロペンドラゴンとベートを纏めて吹き飛ばした。
「……弱い」
リリィは倒れた新しい眷属達を見てそう切り捨てる。いや、俺にはお前が強すぎるだけの気がするんだけどね。
「まあ別に、貴方達が弱いのは良いんですよ。負けて死ぬのは貴方達なのだから。ですがマスターの眷属が弱いのは許しません。
貴方達はマスターの剣なのだから、牙なのだから、爪なのだから。貴方達の弱さはそのままマスターの弱さにされる。
貴方達はマスターの壁で、盾で、守護者だ。貴方達が弱ければマスターが危険に晒される」
気絶した者達に容赦ないリリィ。スゥ、と息を吸い──
「起きなさい」
───ッ!!
それはゾワリと耳の奥から直接脳を刺激するような声だった。思わず従ってしまいそうになるほど。 恐らくこれが魅力の声なのだろう。
直接向けられたわけじゃないのにこれだ、やはり俺は相当弱いな。
などと考えていると直接スキルを食らった三人と一匹がフラフラ起き上がる。
「意識は奪っていません。起きろと命じただけですから……さて、実力差は解ったと思います」
悔しそうな顔をするばかりで誰も何も言わない。あれだけ一方的にやられれば当然か。
「貴方達は弱い。少なくとも私よりは。だから鍛えてあげましょう、強くしてあげましょう。我が主の役に立つようにしてあげましょう。文句はありませんね?」
一同が頷いた。もう危険はないと判断したのかテンタクルスライムが俺を外に出してくれた。
魔蟲王 DL5 Lv8 魔結晶0
HP 58/58
MP 45/45
CP 最大10524
DP 2712




