第2話 家族喧嘩
霜月雪乃の家庭環境は最悪だった。
雪乃が幼い時に、身体の弱かった母親が癌で亡くなり。
その後は、雪乃の父親が男手一つ雪乃を立派に育てて来たが、雪乃が中学2年の頃に父親が妻を失った悲しみを埋める為に別の若い女性と再婚した。
最初は上手くいっていた。雪乃。父。再婚相手の新しい母親の3人暮らしは上手くいっていたが。
日に日に大人の女性へと成長していく雪乃の姿を間近で見ていた新しい母親の様子が可笑しくなっていった。
「お義母さん。なんで私の小学生の頃のアルバムを捨てたんですか?」
「あら? あれ、雪乃ちゃんのだったの? 汚かったからゴミと勘違いして捨てちゃったわ」
「つっ!……そんな!」
このように、雪乃は父親が仕事で居ない時は度々嫌がらせを受けていた。
そして、それは時間を経過する事にエスカレートしていった。
「あのね。雪乃ちゃんが、このお家に居ると迷惑なの。だから出てってくれないかしら? 貴女にこの家に居られると迷惑なのよ」
「そ、そんな! 元々、ここは私のお母さんとお父さんのお家だったんですよ」
「チッ!……貴女のお母さんなんてとっくに死んでるじゃない。俊明さんの今の妻は私よ。私!」
「そ、それは……そうですけど」
「海外出張中の俊明さんにはもう伝えてあるから。明日には出ていきなさいよ。はい、これ貴女が新しく住むマンションの地図」
「……分かり…ました。(こんなのめちゃくちゃ過ぎる。なんで私が産まれ育った家を追い出されないといけなのよ?)」
義母は雪乃の父親がたびたび家を留守にする事を利用して、家の中で好き放題していた。
勝手に雪乃の部屋の私物を捨てたり。雪乃を産んだ母親の悪口を日常的に雪乃に聞かせて嫌がらせを受けた。
(あの人の事を、お父さんに言ったら迷惑をかけちゃう。ここは大人しく従わないと)
「返事はまだかしら? 私午後からエステに行きたいから。荷物をまとめてさっさと出ていってくれないかしら」
「……はい。分かりました。お義母さん」
こうして、中学2年の頃、母親に家を追い出された雪乃は、近衛夕凪と言う昔からお世話になっている女性がオーナーの近衛マンションへと引っ越し。これまではなんとか無事に暮らす事ができていた。あの日までは――――
◇
《真実を知る日 雪乃の部屋》
「えっと……あの。お義母さん。今なんて、仰ったんですか?」
【だから。俊明さんが海外から帰って来るのよ。それで、今までみたいに高い給料が貰えないらしいのよ。それで、雪乃ちゃんの1人暮らしのお金も払えなくなるから、今日のうちに荷物をまとめて部屋を出てってね】
「あの。それじゃあ、私は家に戻れば良いんですか?」
雪乃は、一抹の不安を覚えながら。母親へと質問した。
【家に戻る? 何を言ってんのよ。俊明さんには、貴女は寮に住んでて、連絡も取れない状態って伝えてあるのよ。だから。もう家には戻って来なくていいわよ。貴女が家に居ると邪魔だし】
「そ、そんな! そんなの横暴過ぎます!」
【は? 横暴? ふざけんじゃないわよ! 横暴なのはアンタの顔でしょう。私よりも良い顔しやがって。ムカつくのよ】
(……意味が分からない。なんで、そんな意味不明な理由で私の家に帰れないの?)
母親の本音を電話越しに聴かされた雪乃は、茫然自失してしまい。頭の中が真っ白になっていく。
【……たく。本当は3年前に追い出した時に、私の友達に襲わせる計画だったのに。近衛夕凪の奴。私の邪魔をして……いつもいつも……まぁ、途方に暮れてる時にでも、たっくんに頼んで連れ去ってもらえばいいわね】
(たっくんって誰? もしかして、この人。浮気してるの? それに私が無言だから、話を聞いてないと思って独り事言ってるし……この人ヤバい。……お父さんにどうにかこの事を伝えてなくちゃ!)
【あぁ、そういえば。アンタのスマホやらマンション契約も全部解約するから、もう何もできないわよ……こんな状態で誰かに拉致されたら。アンタ、行方不明になるかもしれないわね】
「そ、それってどういう意味ですか?」
【うるさいわね。アンタには関係ない話よ……それよりもさっとその部屋から出て行きなさいよ。あぁ、アンタの大好きな。近衛夕凪に泣きついても無駄よ。アイツは今、ハワイで仕事してるもの。それじゃあね〜!】
「ま、待って下さい。お義母さん! そんな一方的な事を言われても。困ります!……電話切れてる」
一方的に切る着信。あまりにも突然の出来事に、雪乃は放心状態で、しばらくの間に立ち尽くしていた。
「ど、どうしよう……お父さんに電話。いえ。そもそも、私はお父さんの電話番号をあの人に教えてもらってないし……今、外に行ったら拐わる……どうしよう。とりあえず荷物まとめて出て行かないと。でも、住む場所は? どこ?」
放心状態の雪乃は、正常な判断ができないまま。数少ない荷物を、《《机やテーブル代わりに使っていた》》大量の段ボールの中へと入れ始めた。
「住む場所……でも外に出たら誘拐されちゃう……どうしよう……どうしよう……誰か助けてくれる人…夕凪さんに事情を話して……あぁ、今、居ないし。迷惑かけちゃう……どうしよう……お父さん」
母親からの本音を言われた為か、正常な決断が下せなくなっている。雪乃。
「……他に頼りになりそうな人……!……お隣さん?!……いつも。会ったら挨拶してくれる藤村君……彼なら私を助けてくれる。彼は優しい人に見えるもの」
追い詰められた末。雪乃が導き出した答えは彰を頼る事だった。
◇
《現在 彰の部屋》
「これが今までの経過の話なんです。私、この部屋に住まわせてくれる藤村君には、一生感謝します」
新たな住む家を手に入れた雪乃は安心仕切ったのか。満面な笑顔で彰にお礼を告げる雪乃。
(重すぎんだろう。色々と……つうか。誘拐とか絶対に嘘だよな? 霜月さん。真面目過ぎるから騙されてるだろう。絶対)
「藤村君。どうかしましたか?」
「あ……いや。少し待ってくれ。今、色々と考えてる」
「は、はい。」
(それでも。それが本当だった時が怖いな。マジでマンションの外へと出た瞬間に攫われて行方不明になんてなったら――――隣人の俺が真っ先に疑われるじゃないか)
ちなみ。2人が通う千歳高校では、雪乃は学園のマドンナで、同じくマドンナの藤乃紫陽花に並ぶ。千歳高校三大美少女の一角を担っている。
そして、彰は……あまり目立たない一般生徒の1人。
(もしかして、このまま。俺が霜月さんを見捨てたら。社会的に俺が死ぬパターンだよな? 片や学校のマドンナで、俺はどもにでも居るモブ生徒……俺の選択権ないな)
「ふ、藤村君!」
「は、はい。なんでしょう。霜月さん」
雪乃は突然立ち上がると彰の両手を手に取り、距離を詰めた。
「私をこの部屋に住まわせて下さい。家事でも何でもしますから。なんなら……私の……」
雪乃の口がこもった。そして、何か言いづらい事でも考えてる様な素振りをし始めた。
(……これ。俺が霜月さんの身体を目当てにしてるとか思われてるのか?……俺はもう女の子なんて別に)
一瞬だけ。彰の頭の中で幼少期頃の記憶がフラッシュバックした。
【彰君なんて大嫌い。もう会いたくもないんだから!】
「……つっ!」
「藤村君?……な、なんなら私の全財産を……痛い?!」
雪乃は鞄から財布を取り出しお金を取り出し彰に渡そうとしたその瞬間。彰のデコピンが雪乃の額に襲いかかった。それにより、雪乃の艶やかな黒髪がフワッと舞った。
「アホ。良いよ。そんな事しなくて。とりあえず、霜月さんの事情は理解したし。色々と落ち着くまでは、俺の部屋に住んでて良いよ」
「……藤村君。ほ、本当ですか?! ありがとうございます!……痛い?! な、なんでまた私の頭にデコピンするんですか? 藤村君!」
「……馴れ馴れしいわ。さっきまで俺達はただの隣人さんだったろうが」
「そ、そんな〜! 酷いですよ。藤村君」
「ふん……」
雪乃は涙目になりながら、彰を軽く睨みつけた。まぁ、そこに恨みとかはあるわけではなく。
お礼の筈のハグを拒否された事への不満があった為なのだが。




