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SKY  作者: RUI


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26/44

Sky26-世界の盤面-



 その週は、 ニュースがやたらと “世界”の話をしていた。


 司令室でも、 食堂でも、 待機室でも。

 テレビをつければ、 いつものキャスターの後ろに、 いつもより警戒表示が増えた地図が映っている。


『⸺帝国支配地域で、 レジスタンス活動がいっそう活発化しています』


 食堂のモニターから、 淡々とした声が流れた。


 壁にかけられた画面には、 焦げた補給車両の列と、 その近くの壁にスプレーで描かれたマークが映っている。


 弧の上に、 斜めに走る一本の筋。


 ⸺ARC LINE。


『自らを “ARC LINE アークライン ”と名乗るレジスタンス組織は、 帝国軍の補給線を各地で襲撃。

 一部地域では、 占領行政に対する小規模蜂起も⸺』


「うわ、 本格的にニュース乗ったな、 レジスタンス」


 ラルフが、 トレイを片手に立ち止まって、 モニターを見上げる。


「前は “武装集団”とか “治安の乱れ”とか言ってたのに、 名前出たぞ名前」


「名前出たら公式って感じありますよね~」


 ジンが、 ストローをくわえたまま同意した。


「“ARC LINE”かあ。 なんかロゴおしゃれだな。 ステッカーにしたら売れそう」


「お前はすぐ物販の話をするな」


 隣の席でマルコが、 スープを啜りながら切り捨てる。


「でもまあ……マジで戦力になってきてるってことなんだろうな。 帝国も補給線やられて本気で困ってる顔だ、 あれ」


 画面には、 煙の上がる鉄道橋と、 炎上するトラックの列。

 その手前で、 ヘルメットをかぶった帝国兵が慌ただしく動いている。


『一部情報筋によれば、 ARC LINEの作戦には特殊部隊の存在が確認されているとのことです』


 テロップが、 またざらざらと流れた。


 《ARCLINE特殊部隊》

 《単独行動で帝国補給拠点を次々と破壊》

 《詳細は不明》


「出た、 “正義の味方”枠」


 ジンが半笑いで言う。


「絶対こういうの、 新聞とかが勝手に名前つけて盛るんですよ。 “白銀の獅子”とかさ」


「それは実在しただろうが」


 マルコがジンの頭を軽くはたく。


「正義の味方かどうかはともかくさ。 ……帝都側からしたら、 あれもただのテロリストなんだろうな」


ジンがマルコに目をむける。

「うわ伍長、 急に大人なこと言った」


マルコはニュースに再び目をやりながら答える

「うるせえ。 実際そうだろ。 うちから見りゃ“帝国の侵略軍”だけど、 あっちから見りゃうちは “反乱側”だ。 レジスタンスも同じ構図だよ」


「でも、 帝国の補給線ぶっ壊してくれるなら、 うちらとしちゃありがたいですよね~」


「そこもまた事実なんだよな……」


「なあ、だったらさ」

 マルコがスプーンを置いて、 声を潜める。

「SKYもうちょい前線に回してくれりゃいいのにな。地上も全部あいつらに守らせりゃ早くね?」


「降ろせるわけねえだろ」

 ジンは新聞端末から目を離さないまま、 ため息混じりに言った。

「オルタイト積んだ鉄の怪物同士、 地上で殴り合ったら、 大陸ごと穴あくわ」


「大げさだなあ」


「大げさじゃねえから“条約”になってんだよ。

 地上で本気出すなって、 上がやっと決めた枠だ」


「……へいへい。じゃあ俺らは、 その下で雪かきしながら頑張りますかね」

 

マルコは、 肩をすくめてスープを飲み干した。


 あすみは、 少し離れた席でトレイに肘をついたまま、 そのやり取りを聞いていた。


 ARC LINE。

 レジスタンス。

 特殊部隊。


……レジスタンス


 言葉だけが、 頭の奥のどこかに、 小さく引っかかる。


 中立圏に避難してくる人たちの中にも、 「もともと帝国側の街に住んでた」 っていう人は多かった。

 そういう人たちの口から、 ときどき “レジスタンス”って単語は出ていた。


 略奪、 襲撃、 報復。

 「助けてくれた」 って言う人もいれば、 「あいつらのせいで町が焼けた」 って言う人もいた。


 どっちも、 同じ単語を使っていた。


単純に片方だけを持ち上げる話じゃないんだろうな


 自分でも驚くくらい、 冷めた考え方をしていると気づいて、 少しだけ苦くなる。


 画面の中で、 落書きされたARC LINEのマークがズームされる。

 弧に走る白い筋。 その下に、 小さく何か文字が描き足されていたが、 画質が荒くて読めなかった。


『帝国当局は、 ARC LINEを “治安を乱す違法武装勢力”と非難。

 一方、 連合側は公式コメントを控えつつも⸺』


 コメントやら専門家の解説やらが続く。


「正義の味方か、 テロリストか、 ねえ」


 セリが、 横からぽつりと呟いた。


 いつの間にか隣に座っていた彼は、 空になったコップを両手で挟んだまま、 モニターをじっと見ている。


「どっちって決めるのは結局、 生き残った側なんだろうな」


「セリ」


 呼びかけると、 彼は 「あ、 ごめん」 と小さく笑って肩をすくめた。


「なんか、 それっぽいこと言った?」


「あんまりセリが言うと、 説得力あるから困る」


「褒めてる?」


「半分だけ」


 そう返して、 あすみはコップの水をひと口飲んだ。


 セリの横顔は、 いつもより少しだけ硬かった。

 でも、 その理由を尋ねる言葉は、 喉まで出てきて引っ込んだ。


 ニュースで流れるどの単語も、 自分にはただの “世界の話”でしかない。

 そう、 思っていた。



 夜。

 格納庫には、 整備班の気配がもうほとんどなかった。


 メンテを終えたばかりのSKYが、 天井のライトを受けて静かに影を落としている。

 コクピットの中は、 ひんやりしていて、 機械の匂いが落ち着く。


 あすみは、 シートに座って、 メンテ後の簡易チェックを一通り終えたあと、 ふう、 と息を吐いた。


 ふと、 マルチディスプレイに手を伸ばす。


 テスト用のマップ画面を開くと、 世界地図の簡略バージョンが出てきた。

 北方。 西方。 帝国本土。 中立圏。 海。


 ニュースで見たのと同じような警戒表示が、 そこにも重なっている。


ここが北方第七基地


 マーカーを一つ置く。

 自分のいる場所。 雪と風と狼と、 避難集落と、 ナイルとハルと、 グレイ司令のため息がある場所。


ここが、 西方会戦


 ニュースで何度も映された海域に、 別のマーカーを置く。

 艦隊がひしめいて、 大きな矢印がぶつかり合う場所。


ここが、 帝国支配域


 広い面積が、 一色で塗りつぶされる。


……この辺が、 レジスタンス活動域


 さっきの特集で赤く丸がついていた場所。

 補給線が焼かれていた鉄道。 ARC LINEのマークが描かれていた街角。


 マーカーを置けば置くほど、 自分のいる点が小さく見えた。


私が守ってるのは、 この北のほんの一角だけだ


 雪原のはじっこ。


 地図の端っこ。


 自分が飛んでいる空域は、 世界全体から見れば、 指先で触れた程度の広さしかない。


それでも、 この一角を誰かが守ってなきゃ


 ナイルとハル。

 避難列。

 中立圏の小さな集落。


どこかの誰かが、 もっと簡単に死ぬ


 自分が今、 守れている命の数は、 きっと世界のどこかで失われている命の数より、 ずっと少ない。

 それでも、 その少しを守るために自分はここにいるんだと、 何度も自分に言い聞かせてきた。


 その地図の上に、 新しく増えた 「ARC LINE」 のマークを、 指先でなぞる。


レジスタンス。 帝国の中で、 守ろうとしてる人たちもいる


 正義の味方か、 テロリストか。

 どっちなのかは、 あすみには分からない。


 ただ⸺自分の知らない空で、 自分と同じように空を飛んでいる誰かがいる。


 ニュースの中の “ARC LINE”という単語が、 ほんの少しだけ、 胸のどこかをくすぐった。


……世界って、 広いな


 今さらみたいな感想が浮かんで、 自分で苦笑する。


 広くて、 面倒くさくて、 血の匂いがして、 まだ動き続けている。


 たぬき司令あたりが見たら、 「配置」 って言葉を使いそうだな、 とも思った。



 そのころ、 本当に地図を見ている人が一人いた。


 司令室。

 夜勤の通信兵と最低限のオペレーターだけが働いている静かな部屋で、 ハイルトン・グレイ大佐は机に広げた世界地図を片肘で押さえていた。


 地図の上には、 小さなマーカーがいくつも置かれている。


 北方第七基地。

 西方前線艦隊。

 帝国本土。

 最近報告が急に増えた、 ARC LINE活動域。


「……やっと、 世界が本気で動き出したか」


 大きな欠伸を噛み殺しながら、 彼はぼそっと呟いた。


 赤いマーカーも、 青いマーカーも、 黒いマーカーも。

 どれも “人間が乗っている”と分かっていても、 こうして並べないと、 全体が見えない。


 地図の端っこ、 北方の境界線のところに、 小さなマーカーを二つ並べて置く。


 一つには 「SKY」。

 もう一つには、 小さく 「A」 とだけ書いてある。


「……さて」


 ハイルトンは、 その 「A」 を指先で軽く弾いた。


「どこまで世界に引っ張り出されるかねえ、 お前ら」


 眠そうな目の奥で、 その答えをまだ出さないまま。


 世界情勢の更新は、 ニュースだけじゃなく、 北方第七基地の空気にも、 静かに入り込んでいく。


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