第3部 「傭兵団始動」
これは、幼い頃に森で拾われたギム・マイスターが人との出会いを通じて成長する物語
前回までのあらすじ
エドガー・フェルディナント“暁の軍師”の後継者として、世界を導くために、ローレンから森を出て世界を見るように言われた主人公ゼム。ゼムは道中、商人のトムと出会い城塞都市ガルタンに到着した。冒険者ギルドで異例となる銅等級に当てられ、日銭を稼ぐ日々。ある日人を捜していたところ、ゴブリンの巣穴にたどり着く。ゼムがどうしようかと考えているとき、ジェイと出会う。ジェイと共にゴブリンの巣穴を攻略し、人質を救出した。その夜、ジェイと酒場で飲み明かし、意気投合し傭兵団の設立を約束。領主の勧めにより、サリイ、ダンクを仲間に迎え、教会において魅惑的なシスターであるクララを迎えた。そして、宿屋の片隅で“暁の傭兵団”の設立を宣言した。
ここまでの登場人物
ゼム・マイスター
本作の主人公。幼い時に森でローレンに拾われ賢者の弟子として修行に励む。ローレンから渡された“世界の兵法”という書物などを読み、知識は豊富
魔法は黒の光球以外は生み出せるが、威力については今一つ
ジェイコブ(通称ジェイ)
黒の光球の使い手であり、自身を影にしたり、闇の魔法が得意。陽気で軽薄な口調が目立つがかなりの観察家。
傭兵団では斥候、諜報及び裏工作を担当
サリイ・アイバーン
金髪の女騎士。身長は155センチ前後。剣術に自身を持っており、実力は高い。性格は曲がったことが大嫌いで猪突猛進タイプ。乗馬も得意。
傭兵団では、中衛を担当
ダンク・ダンストン
身長は約2m前後で恰幅がよく、巨漢。大きな大盾を装備して敵の攻撃を受けながら、その大盾を振り回して敵を圧倒する。性格は臆病で謙虚。自信を得るため傭兵団に参加する。
傭兵団での役割は前衛での敵の阻止及び拘束
クララ・アルセーヌ
シスターとしての実力はトップクラスで白と青の光球が得意。体つきは非常によく、豊満な胸を強調している。シスターにもかかわらず信者を誘惑するなどが問題視され、教会から破門されたところを傭兵団に拾われる。
傭兵団での役割は、後方支援及び回復を担当
トム・ポート
異国を渡り歩く商人。魔物に襲われているところをゼムに助けられた。ゼムとジェイの傭兵団に共感し、出資する。
傭兵団での役割は、非戦闘員ながら兵站及び会計を担当
リサ
宿屋の女将、恰幅の良い女性。陽気で頼りがいがある。
ゴルドー
城塞都市ガルタンの冒険者ギルド長。大剣を得物としている。
ソルティ
冒険者ギルドの無表情で受け答えをする受付嬢。密かにファンが居るとか居ないとか
サンドレイク・ガルタン
城塞都市ガルタンの領主。サリイとダンクを紹介した。
第1章「傭兵団の初依頼」
暁の傭兵団の旗揚げをし、意気揚々と走り出したゼム達であったが…
ゼムは宿屋の食卓に頭を落としていた。
ゼム「依頼が…こない…」
トム「旦那…まだ知名度が低いんですよ。」
ゼム「そんなわけない!あれだけ、ビラ配りや理念とかを広場で話したのに!民衆は困ってないのか!平和過ぎるのか!」
クララ「まぁいいじゃ~ん。冒険者業もやりつつ気長に待てば」
ゼム「ぐぬぬ…」
宿屋の扉が開く。大きな巨体を屈めて入ってきたのはダンクだった。ダンクは小さい声で言う。
ダンク「依頼…見つかりました…」
ゼム「今日も無かったのか…って依頼か!」
ダンク「近くのフリード村が魔物に襲われてるそうです…」
ゼム「よし!暁の傭兵団初仕事だ!全員を集めろ!」
トム「わかりました!」
クララ「ようやくね〜♡」
ダンク「皆を呼びに行ってきます!」
ダンクは走って外に行こうとして頭をドアの縁にぶつけうずくまっていた。
サラ「あらあら…大丈夫かいあんた?」
ダンクは頭を抱えてうずくまっていた。
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しばらくして、傭兵団のみんなが集まってきた。
ジェイ「ようやく初仕事か!腕が鳴るぜ!」
サリイ「どんな魔物が来ても私の剣で打ち伏せてやります。」
ゼム「みんな、集まったな!依頼の内容をダンク、説明を頼む!」
ダンク「はっ…はい!依頼の内容は魔物退治、依頼主はフリード村の村長です。フリード村は城塞都市から南に約30キロぐらいに位置しています。現在確認出来ている魔物は、ウルフ、ゴブリン、オークです。細部は不明です。」
ゼム「なるほど…」
ジェイ「まぁそんなに強くない魔物だし、村だけでなんとかなるもんじゃないの?」
ダンク「でも、わざわざ頼むということは何かあるのでしょうか…」
サリイ「簡単ですよ!片っ端から切ればいいんです!」
クララ「みんな頼もしくて良い感じね♡」
トム「旦那…どうしますか?」
ゼム「とりあえず、現地に行って細部の情報がないとどうにもならん。ジェイ、先に行って情報収集してくれ。俺たちはトムの馬車に乗って前進しよう。」
ジェイ「りょーかい!村の美女の居場所まで全部調べとくぜ」
ゼム「それはいらん!」
ジェイは笑いながら颯爽と宿屋から出て行った。
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ゼム達は3日間をかけて買い出しを済ませ、馬車に積み込む。新しく茶色の馬も手配した。サリイが欲しがったのだ。サリイは馬にメカブと名前をつけていた。
ゼム「サリイのネーミングセンス…」
依頼を受けジェイが情報収集に出かけてから4日目に準備は整った。
ゼム「今より、フリード村へと前進する!道中の危険は少ないが、警戒を怠ることなく前進せよ。」
一同「了解!」
馬車は2台、1つはトムが御者席に座り荷台にはクララとサリイ、もう一つにはダンクが御者席で荷台にゼムが乗る。
ゼム「出発!」
暁の傭兵団は、村へと前進を始めた。その足取りは初依頼への緊張と何が起こるかわからない楽しみで一杯だった。
第2章 「フリード村」
ゼム達はフリード村についた。村の周囲には小麦畑が並び、家がポツンポツンとあるのどかな村だった。
サリイ「ここが、魔物被害を受けてるというフリード村ですか…」
クララ「あらあら?なんか全体的に落ち込んでいるわね」
ゼム「これは只事ではないな…」
そこに、影からニュルッと姿が現れる。
ジェイ「ようみんな!しばらく振り」
一同「ジェイ!」
ジェイ「なんだよ…みんなして!そんなに俺が居なくて寂しかったのかな?」
ダンク「寂しいというか…静かだったというか」
ゼム「ジェイ…首尾は?」
ジェイ「おおっと…すまねぇなぁ。今の状況はこんな感じだな。」
[敵の犯行状況]
夜に村の中に侵入し畑を荒らして去っていく。
畑の作物のみが荒らされる。
小麦には一切手を出さない。
[地形の状況]
村の南に街道が通っており、馬車がすれ違う程度の広さ
村の北から西にかけて森林となっている。
村の東には川が流れており、一部が村の中に流れるように治水されている。
[村の構造]
北と南に物見櫓
東の治水された川の近くに教会
中央には広場があり、その周りをクモの巣状に民家が乱立
畑は村の川沿いに位置している。
小麦畑は村の南東から南にかけて村の外に渡って存在
[村人からの聞き取り内容]
敵はウルフとゴブリンが主力、オークは多くない
村の自警団も対応しているが、人手が足りていない
村の教会に負傷者多数
よくわからないが、統率されている気がする
ジェイ「こんなもんだな」
ゼム「よく調べてくれた。ありがとうジェイ」
ジェイ「良いってことよ。」
サリイ「どうするんですか?とりあえず、森の中に入ってたくさん殺しますか?」
ゼム「いや、山狩りは最終手段だ。戦術の基本は情報収集、敵の傾向が分かれば策を打てるからな」
クララ「悪だくみの悪い顔してるわよ〜」
ジェイ「ゼムは性格悪いから」
ダンク「ゼムさんはそんなことないですよぉ!」
ゼム「頼む…黙っててくれないか…」
ゼムは頭を抱えながらも依頼主の村長に会いに行った。
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村長の家は他の村民の家をやや大きくした程度で応接する部屋が1つ多いこと以外は変わらなかった。
村長の家のドアの前でノックをする。
???「入ってくれ」
ゼムがドアを開くと、そこには村長というからにはしわくちゃと思っていたが、年は30代半ば肌は日に焼け、筋骨隆々の男性が居た。
???「誰だ?」
ゼム「暁の傭兵団です。村長の依頼を確認し、魔物の退治にやって参りました。」
村長は立ち上がり、ゼムの前まで歩いてくる。ダンクよりは小さいが、浅黒い肌が威圧感を出している。
村長は、ゼムの顔を見てニヤリと笑うと手を差し出す。
村長「よろしく頼む。俺の名前はリーダス。一応、ここの村長をやっている。」
ゼムも差し出された手を掴む。その手の平はゴツゴツしており、正に農夫の手だった。
ゼム「よろしくお願い致します。リーダス。」
ゼム「それでは、依頼内容の確認と被害の状況について詳しくお聞きしてもよいですか?」
リーダス「わかった。奥の応接室に案内しよう。」
ジェイ「俺は抜けるぜー、まだ見たい所もあるからな」
サリイ「私も難しい話は…」
クララ「教会に負傷者が居るなら私はそちらに行くわ♡」
ダンク「僕は…ゼムさんと居ます。」
トム「私も残りましょう。報酬の件も話さなければなりませんからね」
ゼム「わかった。じゃあ村長とは、俺とトム、ダンクで話すとしよう。夕方に宿屋で」
一同「りょーかい!」
応接室に通されたゼム達はリーダスから話を聞く。
リーダス「事の始めは約2週間前からだ。狼の遠吠えがするんで、村の自警団とそっちに向かうんだが、何もいなくてな。戻ってくると作物が盗られている。それが数回あった。魔物が統率されている可能性が否定できなかったので、自警団のリーダーのトーマスに畑の警護を任せて、残りは俺とともにウルフの対処に当たったんだ。そして、夜にウルフの声を聞いて南東の方向に行ったんだ。そこでは何も起きず、戻るとトーマス達がやられていたんだ。トーマスはオークとゴブリンにやられたって言ってたな。それで俺は只事ではないと判断して、依頼を出したってわけだ。」
ゼム「なるほど…あくまで野菜とかの作物が狙われて、小麦とかは問題ないと…森には入りましたか?」
リーダス「いや、トーマスが負傷したから村の警戒を強くしているんだ。人員が足りていない。」
ゼム「わかりました。じ後、僕達は調査に入るので、村の調査許可と森の調査許可を下さい。」
リーダス「もちろんだ。よろしく頼む。」
ゼム「あとは、こちらのトムと成功後の報酬について話しておいてください。僕は調査に入ります。」
トム「お任せください!」
ゼム「では失礼します。」
ゼムは村長の家をダンクと共に出た。
ゼム『何かがおかしい』
ゼムのこの違和感は、最悪の形で的中してしまうのである。
第3章 調査と罠
ゼム「ダンク…先に宿屋に戻っておいてくれ。少し考えたい。」
ダンク「わかりました!宿屋に戻って武器の手入れをしておきます。」
ゼム「ああ…よろしく頼むよ。」
ダンクが宿屋に向かって歩き、姿が見えなくなった。
ゼム「ジェイ…居るんだろ出て来い。」
すると、ゼムの影の中からジェイが出てくる。
ジェイ「あれ?バレてた?流石だね相棒」
ゼム「さすがに家の中では影は薄くなるのに濃すぎだ。」
ジェイ「なるほど…それで何で俺を呼び出したんだ?」
ゼム「調べてほしいことがある。村長リーダスと自警団のリーダーのトーマスだ。」
ジェイ「何を考えてる?」
ゼム「おそらくだが、この魔物の襲撃は自作自演だ。何かしらが後ろに居る可能性が高い。その裏付けが欲しい。」
ジェイ「ふーん…確率は?」
ゼム「どちらも黒が15%、どちらかが黒が30%ぐらいだな」
ジェイ「十分だ。任しておけ。」
そう言うとジェイはまた影の中に消えて行った。
ゼム「さて、敵の出方と俺達がすべきこと、作戦を立てないとな」
ゼムはただの魔物の襲撃であってほしいと思いながら帰路に着くのであった。
宿屋に着くと、ダンクは大盾の手入れ、クララはもう酒を飲んでいる。サリイは庭で黙々と剣を振っている。トムは帳簿を広げてニヤニヤしながら計算していた。
ゼム「みんな居るようだな。クララ、負傷者の様子はどうだった?」
クララ「そうねぇ…全員命には別状はないわ、ただ、全体的に傷が浅いのが気になるわね…ゴブリンとかだと得物が荒いからもっと重傷とかになるのだけれど…」
ゼム「そうか…」
トム「報酬については、話し合えましたぞ!ゴブリンの巣を破壊してくれれば、金貨10枚だそうです!最高ですなぁ」
ゼム「そうか…」
ゼム「みんな、今日はよくやってくれた。休んでてくれ」
ゼムはそう言うと、スタスタと自分の部屋に入って行った。
クララ「女の子にでも振られたのかな?」
トム「うーん…何か思い悩むことでもあるのですかな…」
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ゼムは1人、部屋に戻った。部屋の窓から外をみる。静かな夜で、爽やかな風が小麦を揺らしサラサラと音がする。
ゼム『敵の出方の情報が欲しい…今ある情報だと皆を死なせかねない…』
部屋の闇の中からニュルッと出てくる。
ジェイ「良い感じに月の光で男前度が上がってるぜ。」
ゼム「ジェイ…戻ってきたのか…」
ジェイ「おいおい!まだ戦いは始まってねぇんだ。しっかりしろ!」
ゼム「そうだな…報告してくれ」
ジェイ「ゼムの考えてる通りかわからないが、トーマスは黒、村長は半分黒ってところだな…そして、裏には鉄の傭兵団が居る。」
ゼム「鉄の傭兵団?」
ジェイ「悪い噂の絶えない傭兵団だ。戦争に出ては、人を攫い人身売買に手を染めているとも言われてる。」
ゼム「それでトーマスと村長とはどういった関係なんだ?」
ジェイ「物資の供給さ。傭兵団を動かすにも食糧が必要だ。そこで、魔物の襲撃があって作物を盗むことで賄っているらしい。トーマスは鉄の傭兵団の団員だ。リーダスは娘を人質に取られていて、半強制的に従っている形だ。」
ゼム「奴らの狙いまではわかったか?」
ジェイ「俺が調べられたのはそこまでだ。推測だが、こうやって他の傭兵団を誘い出し、魔物の襲撃と見せかけて鉄の傭兵団が襲撃することで捕縛してなんかしようとしているんじゃねえかな?」
ゼム「俺も同じことを考えてた。つまり、奴らの狙いは…」
ジェイ「俺たちだ。」
部屋の中に沈黙が流れる。
ジェイ「逃げるなら今のうちだな。しかし、依頼を途中でリタイアすると信頼は一切無くなるだろうな」
ゼム「つまりは、俺たちは奴らを出し抜いて切り抜けないといけないわけだ。」
ゼムはクククと笑い出す。
ゼム「良いだろう…暁の傭兵団をカモにした償いをしてもらおう。」
ゼム「それで次の納品日は?」
ジェイ「3日後だ」
ゼム「わかった。そこで奴らが罠にはめたと思い込んだ所を逆に罠にはめよう。さぁ、悪だくみの時間だ!」
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次の日、ゼムの指示により森の調査に赴く暁の傭兵団
ゼムは結界を張り、団員にジェイが突き止めた真実を話す。
サリイ「許せません!断固斬るべきです!」
クララ「あらー…物騒ねぇ…」
ダンク「怖すぎますぅ…」
トム「なるほど…だからこんなにも報酬の羽振りがよかったのですね…」
ゼム「このまま逃げてもいいが、逃げてしまうと周りからは依頼から逃げた傭兵団として認識されてしまう。戦って勝つしか道はない。」
ジェイ「面白くなってきたな」
ゼム「まず、皆にやってもらいたいことは、村人の信頼獲得と味方を増やすことだ。今回の件は、リーダスとトーマスの裏で勝手にやってることだ。村人の不満を募らせてこっちの味方を増やすんだ。」
ゼムはそう言うと1人1人に声をかける。
ゼム「ジェイ、お前は村人の不満を煽る役割だ。怪文書を流して村人を不安にさせろ。」
「サリイとダンクは、森の調査を続けて敵にこっちが罠を仕掛けてることを悟らせるな。」
「トムは商人のルートを使って、武器を調達しろ。民衆が蜂起したらその武器を売り払うんだ。」
「クララは教会に通い、負傷者をリストアップしろ。負傷者は全員黒だから、治療は適当でいいぞ。」
「そして、馬鹿な傭兵団のリーダーとして振る舞い、敵を騙しながら、当日の迎撃計画を練る。」
ゼム「全員、頼んだぞ!」
一同「了解!」
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襲撃予定日2日前、村の広場にある文書が張り出される。
[魔物襲撃は嘘?実際は盗まれて横流し?売上金は村長の懐?トーマスのでっちあげ]
と嘘か本当かわからない内容が張り出されていた。
村人A「これが本当ならありえないぞ!」
村人B「誰かのイタズラでしょ?」
ジェイ「フフフ…そうだ。もっと不安になるといい。」
そこにリーダスがやって来て、文書を見て、目の前で破り捨てる。
リーダス「これは全て嘘だ!俺はお前たちなど裏切ってなどいない!」
そこに村人に変装したジェイが大声で叫ぶ
ジェイ「でも、作物が無くなって食糧に困ってるのに何もしてくれないじゃないか!」
リーダス「それは…今交渉中だ」
ジェイ「どこと交渉中なの?村長なら村を救ってくれよ!何か件の傭兵団に莫大な報酬を払うらしいじゃないか!どこからそのお金が出るんだよ!」
村人C「そうだそうだ!何とか言え!」
村人D「でも、あの傭兵団は良い人達よ!農作業も手伝ってくれるし、商人は良い人だもん!」
リーダス「く!」
リーダスは広場から逃げるように村長の家の中に入って行った。
村人「逃げるな!弁明しろ!」
ジェイ『面白くなってきたねぇ…次は、襲撃時に武装蜂起するよう仕向けるか…』
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教会の中に居たのはクララだった。
クララは負傷者の容体を聞きながら、個人情報をどんどんリストアップしている。
クララ「あらぁ?痛そうね?大丈夫ぅ?」
村人?「大丈夫じゃないけど大丈夫です!」
クララ「そう?ちょっと名前とか教えて?生年月日とかも、あと村にはいつ来たの?」
村人?「えっと…話しますので良いことしてくれますか?」
クララ「ふふふ…また今度ね♡」
クララはその容姿を武器にどんどん個人情報をリストアップしていく。
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サリイとダンクは森の中の調査をしていた。
サリイ「アーゴブリンナンカイナイナー」
ダンク「アッチノホウガクニイルンジャナイカナー」
完全に演技は下手だが、真面目にゴブリンの巣を探すことで敵の密偵を騙し続けていた。
襲撃1日前
トムは商人のルートを使い、武器を仕入れる。
ジェイと共に血気盛んな若者に接触し、2日後の武装蜂起を促していく。
トム「武器は差し上げましょう。明日の然るべきときに武器を取り、村長を打倒しましょう。」
村の若者「そんな血なまぐさいことなんてできるか!」
ジェイ「いいのか?このままだと搾取されるだけだぜ?あの広場での村長の行動はあまりに不審だった。お前しか出来ないことなんだ。」
村の若者「わかった…他の仲間にも話してみるよ。」
ジェイ「このリストに載っている者には絶対に話すなよ。」
村の若者「わかった…!」
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ゼムは宿屋に結界を張る。
ゼム「みんなご苦労だった。これで下準備は整った。」
ジェイ「良い感じに民衆を煽れたぜ。」
クララ「意外と鉄の傭兵団は入り込んでるものねぇ…」
サリイ・ダンク「ゴブリンの巣は見つかりませんでした!平和です!」
トム「武器の配布完了してます。」
ゼム「それでは、作戦を話す。」
ゼムの言葉に全員が耳を傾ける。
ゼム「敵はおそらく狼の遠吠えを聞こえるように仕向け、俺をそちらに向かわせて、残りの人員を畑の方に向かわせるだろう。畑の近くには教会がある。そこの負傷者で俺達を囲み殲滅する。俺はリーダスの不意打ちに会い、死亡若しくは拘束っていう筋書きの可能性が高い。」
ジェイ「なるほど…だから畑に近い教会に全員が収容されているのか…」
ゼムは続ける。
ゼム「そこで、俺たちは相手の出鼻を挫く。狼の遠吠えがしたなら、俺は単独で狼の遠吠えがする方へ向かう。狼の遠吠えがしたならば、トムとクララは村の若者を蜂起させ、教会を制圧。負傷者だらけだし、クララの魔法で全員を麻痺させれば不可能ではない。」
クララ「うふふ…明日の夜までに仕込んで置くわね♡」
トム「お任せください。物資なら大量にありますから!」
ゼム「次に、ジェイは狼の遠吠えがして俺が南東に向かったあと、北の森から狼の遠吠えをするんだ。俺は、謀られた!と言いながら北に向かいながら畑に向かう。ジェイもその後、畑に向かい援護しろ」
ジェイ「いいねぇいいねぇ!」
ゼム「ダンクとサリイは畑の警備に回る。恐らく敵は教会の負傷者だけじゃない可能性がある。俺とジェイが行くまで何とか持ちこたえるんだ。サリイ絶対に深追いするなよ!」
ダンク「わかりました!」
サリイ「わかってますよ!私だって頑張れば出来るんです!」
ゼム「頼んだぞ!暁の傭兵団は必ず勝つ!」
一同「おう!」
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場面が変わって村長の家
村長の家の椅子にゴツゴツした鉄の鎧を着た男が座っている。そのまえには正座をしたリーダスが床にいた。
鉄鎧の男「リーダスぅ…おめえヘマしたのか?」
リーダス「そんなはずは…誰かに裏切られたんです。」
鉄の鎧の男は隣にいた女の子を抱き寄せる。
鉄鎧の男「お前の大事な娘がどうなってもいいのかぁ?」
リーダス「それだけは…それだけは…」
鉄鎧の男は女の子を突き飛ばす。
鉄鎧の男「まあいい…あのヘナチョコ傭兵団の様子は?」
密偵「特に変わった様子もなく、村の仕事の手伝い、教会での治療、あるはずのないゴブリンの巣の捜索をしておりました。」
鉄鎧の男「ガッハッハ!滑稽だなぁ!理想だけは高くて、ムカついていたんだ。特にあのシスターと女騎士は高く売れそうだなぁ」
トーマス「いいですねぇ!あのシスターは私が欲しいですね。拘束すればいい声で泣いてくれそうです。」
鉄鎧の男「それもいいな!」
その会話を端で聞いていて、呆れて外に出ていく者がいた。その男は明らかに小柄だが腕には筋肉がみなぎっている。
小柄な男「ドワンゴを出て、この傭兵団に入ったが、もう潮時だな…」
様々な思惑が交差し、夜が更けていく。
第4章「想定外」
襲撃予定日の夜、ゼムは1人で村長の家に赴いていた。
リーダスから話があるそうだ。
リーダスと面と向かって座り合う。
リーダス「それで調査の進捗は?」
ゼム「思ったより難航していますね…」
リーダス「もう4日だぞ!これ以上滞在するなら、報酬金を減らさせてもらうぞ!」
ゼム「そうは言われましても、森が非常に大きくてですね…」
リーダス「ふん!口の減らない奴だな!」
すると遠くから、狼の遠吠えが聞こえる。
リーダス「来やがったか!お前も来い!」
ゼム『さあ…作戦開始だ!』
リーダスとゼムは狼の遠吠えがした南東の方角に走り出す。
リーダスとゼムが村の端の方に行ったのを確認したトムとクララは合図をだす。
クララ「さぁ…痺れちゃいなさい!パラライチャーム!」
クララは白い光球を教会にぶつけると、教会の下に大きな魔法陣が現れる。
クララ「この魔法陣は私が触れてマーキングした相手を痺れさせる魔法よ♡」
クララ「行きなさい!」
クララの合図により、村の若者が武器をとり、教会を襲撃する。そこには鉄の鎧を身に纏ったトーマスと負傷者達が痺れて床に倒れていた。
トーマス「うぅ…いっ…たい何が…」
村の若者「お前達のこと信じてたのに…全員、鎧を剥がし捕縛しろ!」
瞬く間に教会を制圧した。
教会を制圧した同時期、ゼムとリーダスは南東の小麦畑に着いていた。
ゼム「何も気配がないぞ…」
リーダス「そうだな…」
リーダスが手に持った棒を振り上げて、ゼムの頭に振り下ろそうとした瞬間、北の方から狼の遠吠えがする。
リーダスの身体が止まる。
リーダス「なんだと!?」
ゼム「お前らは、やりすぎたな!」
ゼムは黄色の光球を身に纏いリーダスの持っていた棒諸共破壊しながらリーダスを吹き飛ばした。
ゼム「あんたがどんな事情があったかは知らないが、こっちには関係ないね…」
ゼムはリーダスを置いて、北の方に走り出した!
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最初の狼の遠吠えを聞いて、サリイとダンクは作物の畑の方に向かった。
畑に着くと、そこには何もいなかった。
ダンク「やっぱり、ゼムさんの言う通り…」
サリイ「止まって!向こうに誰か居るわ…」
カシャンカシャンと夜の闇の向こうからこちらに歩いてくる音がする。
闇の向こうから現れたのは、黒い鉄の鎧に身をまとった5人の男と縄につながれた女性だった。5人のうち、3人は普通の人間で剣をもっているが、1人は明らかに小柄だが、持っている得物は自分の身長ぐらいある大斧だった。さらに、一番前にいる男は顔に傷があり、大きな槍を軽々と片手で持っている。
槍の男「おいおい…2人だけかよ…トーマスの野郎しくじりやがったな…」
サリイ「本当にゼムの言ったとおりね…」
ダンク「お、お前は誰だ!」
槍の男「声が震えちゃってるぞ?お?名前なんか言うわけねーだろ!バーカ!」
槍の男の周りの男達もせせり笑う。
サリイ「正体はわかってるわよ。鉄の傭兵団さん?」
男達の笑い声が止まる。
サリイ「あら?笑いが止まったってことは、本当なのかしら?」
槍の男「はぁ…正体までバレてるとは、リーダスとトーマスはあとでお仕置きしないとなぁ…正体がバレてるなら隠しても仕方ねぇな!そうとも!俺の名はバルド!鉄の傭兵団の副団長さ!」
ダンク「何のためにこんなことを!」
バルド「えー?そりゃ楽しいからさ!他人を脅して、自分達は欲しい物を手に入れる。最高だぜ!」
サリイ「本当に救えない野郎共ね…絶対にここで殺す!」
バルド「お前らが怒ろうが関係ないね…ここで、男は殺され、女は慰み者になってから売られていくんだからな!」
バルドは槍を前に突き出し、突進してくる。他の男達も剣を抜いて走ってきている。
ダンク「サリイ!僕の後ろに!」
サリイ「殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
ダンク「サリイ!ダメだ!前に出過ぎたらダメだ!」
サリイは一番最初に到達した男を一閃し、首をはねたら、流れるように次の男の喉元に剣を突き刺した。
サリイ「2人目…あと3人…」
ダンク「サリイ!あぶない!」
バルド「遅せぇんだよ!」
サリイは男の喉元に剣を刺して、抜こうとしていたが、そこにバルドが槍をぶん回して男と共にサリイをぶっ飛ばした。
サリイは運悪く畑の柵に頭を打ち、気を失ってしまう。ダンクはサリイの元に駆け寄ろうとする。
バルド「待ちな!木偶の坊さんよ!」
バルドがダンクを止める。
そこに残った男2人がサリイに近付いていく。
ダンク「やめろー!」
ダンクが渾身の力を振り絞ってバルドを圧するが、バルドはびくともしない。
バルド「腰が引けてんなぁ?経験値が違うんだよ!」
バルド「てめぇら!さっさと女の服を破いて目の前でめちゃくちゃにしてやんな!」
サリイに1人の男が近付いて、服に手をかけた瞬間、大斧が男の身体が真っ二つに割る。
バルド「ドンパ!てめぇ何の真似だ!」
小柄な男は黒の鉄鎧を脱いだ。その風貌は立派な髭を生やしていた。ドワーフ族だった。
ドンパ「もううんざりだ…もうお前ら鉄の傭兵団にはついていけねぇなぁ…」
バルド「裏切りやがってぇ!」
バルドはダンクの一瞬のスキを突き、すぐさま離れると縄のついた女性に槍を突きつける。
バルド「おおっと良いのか?こいつは村長の娘だぞ…?お前らが変な真似をするとうっかり刺しちまうかもなぁ?武器を捨てな!」
ダンクとドンパは大盾と大斧を捨てる。
バルド「そうだぁそれでいい…」
バルドは女性に槍を突きつけながら、徐々に後ろに下がって逃げようとしている。
ダンク「くそ!何もできないのか…」
ドンパ「どこまで性根が腐っとるじゃ!」
バルド「ガッハッハ!どんな手を使おうとも生き残れば良いのさ!」
???「そうか…じゃあ俺も色んな手を使わせてもらおう。アイシクルステージ!」
バルドの背後の足元の地形が氷が張る。
バルドは後ろ向きに下がっていたため、氷に気付かず、滑ってしまう。
バルド「くそっ!」
そのとき、バルドと女性の間に闇の霧が広がる。
闇の霧は人の姿になり、女性を抱いてバルドから離れた。
ジェイ「おおっと…レディは丁重に扱わないとね…」
バルド「くそ!想定外だ…トーマスとリーダスの野郎は何してやがる!」
そのとき、夜の闇の向こうから男が歩いてくる。
???「トーマスとリーダスは仲良くおねんね中だ。お前らは俺等を罠に嵌めようとしたが、その罠を逆に利用させてもらったのさ…全ては俺の掌の上だ…」
バルド「誰だ!貴様は!?」
暗がりに月の光が差し込む。そこに居たのは…
ゼム「俺の名は、ゼム・マイスター!暁の傭兵団団長だ!!」
ギム「バルド!俺の仲間に手をかけ、そして村から搾取したことを悔いながら死ぬがいい!」
バルド「てめぇが俺に勝てると思うなぁ!!!!」
バルドは槍を突き出し、ゼムに猛スピードで突進する。
ゼムは青と緑の光球を組み合わせる。
ゼム「さっさと眠れ!アイスコフィン!」
バルドの足元が凍りついていく。突進が止まる。
バルド「なんだこれは!?さ、寒い…」
バルドは凍り付けになって、動きを止めた。
ゼム「暁の傭兵団の完全勝利だ!」
歓声が上がる。そして、夜明けの朝日がまぶしく全員を照らしていた。
第5章「帰還」
夜が明け、広場には捕縛した鉄の傭兵団の団員、トーマス、リーダス、バルドが居た。暁の傭兵団も鉄の傭兵団の近くに居て監視している。その周りを村人達が囲んでいた。
村人から声が上がる!
村人「よくも!だましてくれたな!」「はやく出ていけ!」「村長見損なったぞ!」
リーダスは下を向いて何も言わない。トーマスとバルドはゼムを睨みつけている。
バルド「ゼム!絶対にお前を殺してやる!」
ゼム「悪いが、鉄の傭兵団は城塞都市へ護送し、裁判を受けることになっている。全員奴隷か死刑だよ。」
バルドとトーマスが暴れ始める。そこにジェイが首の後ろを手刀で強く叩き、気を失わせた。
そして、ゼムが村人の前に足を進め、話し始めた。
ゼム「村人達よ。私から全てあったことを話そう。今回の魔物襲撃事件は、ここに居るトーマスとリーダスが自作自演していたことがわかった。トーマスは鉄の傭兵団の一員として、村にスパイに入っていたんだ。そして、リーダスは鉄の傭兵団に娘を人質に取られていたんだ。そのため、悪事に手を貸してしまったのだ。」
村人「そんなこと信じられるか!」
ゼム「そうだろう。だから、重要な参考人を出そう。」
ゼムがそう言うと、女性が前に出てきた。
女性「私はリーダスの娘です。父は私を助けようとしてくれていました。私を助けるために…1人で戦って居たんです…お願いです。父を許してあげてください…」
それを聞いていたリーダスが縄で縛られたまま前に出てくる。
リーダス「村人のみんな、本当に本当に申し訳なかった。しかし、娘を人質に取られていたとは言え、みんなに迷惑をかけたことは真実だ。私は罰せられて当然だ。だから、娘を頼む…」
村人達に向き合い、ゆっくりと膝をつく。
「………すまなかった。本当に……」
リーダスの目からは涙が溢れ、縄に縛られたまま、頭を地面に擦り付けていた。
村人から拍手が上がる。
村人「村長!また一からやり直しましょう!」
リーダス「ありがとう…ありがとう…」
ゼムと暁の傭兵団も拍手を送っていた。
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宿屋の一室、サリイが目が覚める。そばにはクララが居た。
クララ「ようやく起きたのね」
サリイ「あれ?私どうなったんだっけ?」
クララ「よく覚えてないのねー鉄の傭兵団はやっつけたから大丈夫よ」
コンコンとノックがする。
クララ「いいわよー入ってー」
ゼムとダンクがやってきた。
ゼム「身体は大丈夫か?無事で何よりだ。」
サリイ「ごめん…私足手まといだったよね…」
ダンク「その通りです!」
サリイが目を丸くする。
ダンク「あれだけ、ゼムさんが前に出過ぎるなと言ったのに前に出て挙句の果てに気を失うなんてありえません」
サリイ「………」
サリイは視線を落としている。
ダンク「そんなに私は頼りになりませんか?私は皆の盾です!あなたは1人で戦ってるじゃない!」
サリイ「本当にごめんなさい」
ゼム「次からはしっかりと仲間を意識して戦おう。サリイなら出来るよ」
サリイ「ありがとうございます…」
サリイは泣いていたが、傭兵団として団結が強くなった気がした。
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青い空、金色に輝く小麦畑が見える。
トムの引く馬車に暁の傭兵団が乗り込む。
リーダス「本当によろしいのですか?」
ゼム「今回は魔物退治の依頼で来たんだ。魔物を倒せなかったから、報酬はなしだ。」
リーダス「でも、何か受け取ってくださらないと…」
ゼム「なら、浮いたお金で1人でも多くの村人を幸せにしてください。それが叶うことが暁の傭兵団の設立理由なので」
トム「大丈夫ですぞ!鉄の傭兵団には懸賞金がかけられておりますから、損にはなりませぬ」
ゼム「というわけで、鉄の傭兵団の護送ついでに城塞都市に戻る。」
リーダス「お元気で!次に来たらしっかりと歓迎させて頂きます。」
馬車は小麦畑を抜け、街道沿いに城塞都市に向けて出発した。
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しばらく行くと、目の前に人影が見える。見るからに小柄な男性、長いヒゲが似合うドワーフ族のドンパだった。
ゼムは馬車を止め、ドンパの前に降りた。
ゼム「何をしているんだ?」
ドンパ「何、今はもう鉄の傭兵団はやめている。頼み事があってな…」
ゼム「頼み事とはなんだ?」
ドンパ「ワシを暁の傭兵団に入れてくれい。武器、防具の手入れ、罠の作成、兵器の開発、大斧での戦闘まで何でもやるぞ。」
ゼム「なぜ、うちの傭兵団なんだ?」
ドンパ「単純な話だ。暁の傭兵団の設立理由を聞いて最初は夢物語を語ってる若者だと思っていた。しかし、あの鉄の傭兵団に対する立ち回りは見事じゃった。この傭兵団であれば、ワシも理想を追い求めることが出来ると感じたからじゃ」
ゼム「そうか…」
ジェイが馬車の上から会話に割り込んでくる。
ジェイ「大丈夫だと思うぜ!殺気は感じない」
ゼム「よし、現時点をもってドンパの暁の傭兵団への入団を許可する。」
かくして、ドンパというドワーフ族を仲間にして城塞都市へと向かった。
揺れ動く馬車の荷台の中、ドンパが話し始める。
ドンパ「暁の傭兵団に今日からお世話になるドンパ・パンドンじゃ。これからは武器の手入れや罠や兵器の作成を担当する。よろしく頼む。」
ジェイ「ドワーフの手入れが受けられるなんて、最高だな!」
ダンク「よろしくお願いします…」
クララ「漢って感じがするわねー…」
ゼム「ドンパはなぜ、鉄の傭兵団に入っていたんだ。」
ドンパ「俺は鉱山都市ドワンゴの出身だ。自分の鍛冶の腕を上げるために国を出たんだ。そこで出会ったのが鉄の傭兵団さ。奴らは俺の鍛冶の腕を見込んで色々と要求してきた。最初はその通りに作ってたんだが、作った物でやつらがやってることは略奪や強姦、人身売買とかばっかりでな…物作りに嫌気がさしてきたのさ。」
ゼム「そうか…なぜ国に戻らなかったんだ?」
ドンパ「なんでだろうな…贖罪の気持ちだな。お前らのような正当な傭兵団に尽くせば少しは罪滅ぼしができると思っておる。」
ゼム「………」
トム「物作りは孤独ですね…どれだけ良いものを作っても結局は使う人の資質次第…難儀なものです。」
ドンパ「だからって俺に遠慮することはねぇ。俺の作ったものが人を救うことになるなら、協力は惜しまねぇ!」
ゼム「こちらこそ、よろしく頼むよ。もし、自分が道を誤ればその時はぶん殴ってくれ。」
ドンパ「ガッハッハ!任しとけ!」
新しくドンパという仲間を迎えた暁の傭兵団、城塞都市ガルタンへはもう少し…
第6章「新たな兆し」
城塞都市ガルタンに到着した暁の傭兵団はいつもの宿屋“妖精の宿り木”に着いた。
宿屋では、あの名物女将が出迎える。
サラ「お!お疲れさん!風の噂だと、鉄の傭兵団をやっつけたらしいじゃないか!街中ではその噂で持ちきりだよ。暁の傭兵団がボッコボコにしたってね!」
ジェイ「そうなのか!じゃあ街に行ったらモテモテ間違いないな!」
ドンパ「やめておけ…絡まれると帰れなくなるぞ…」
クララ「私のファンが増えちゃうわねぇ」
ダンク「あわわ…まだ自信が持てないです…」
サリイ「関係ないわ!剣の修行を続けるだけよ!」
ドンパ「待て、小娘!剣の手入れが先だ!見た感じ、全然しとらんじゃろ!」
トム「さて、宿屋への支払いと鉄の傭兵団の懸賞金を帳簿に整理しましょう」
ゼムは仲間達がワイワイと騒いでるのを見て、ようやく帰ってきたという安堵の表情を浮かべている。
ジェイが肩を組んでくる。
ジェイ「ゼム!飲もうぜ!」
ゼム「そうだな!サラさん!今日は御馳走で!」
サラ「任しておきな!飛び切りの奴を用意してあげるよ!」
その日の夜は大宴会となった。
大宴会には、ギルド長のゴルドーとギルドの受付嬢のソルティも参加していた。
ソルティにトムとジェイが絡んでいる。
ジェイ「ソルティちゃん!何でいつも無表情なの?照れ隠し?」
ソルティ「やめてください。私はギルド長の付き添いです。」
トム「ジェイ…ソルティちゃんが困ってるだろ!」
ソルティ「どちらもちゃん付けしないでください。」
ソルティが無表情で否定するが、どこか笑っているように見えた。
ダンクはドンパに酒に突き合わされている。ダンクは酒が回って気持ち悪そうだったが、ドンパの酒癖の悪さにより、ずっと説教されている。サリイはクララと酒を片手に飲んで話している。意外にもクララはオレンジジュースを飲んでいる。ゼムはその光景を見て、安心していた。
そのゼムにゴルドーが近付いてくる。
ゴルドー「鉄の傭兵団をやったようだな?」
ゼム「仕方なくな…」
ゴルドー「奴らは強大で狡猾だ。そのうち報復を仕掛けてくる可能性がある。」
ゼム「やっぱりそうなるよな…」
ゴルドー「私の方から領主には伝えておくが、傭兵団同士の話では済まない可能性もあることは考えておけ」
ゼム「そうか…ありがとう」
ゴルドー「礼を言われる筋合いはない。備えておくんだな」
ゴルドーが去っていく。ソルティを連れて外に出て行った。
ゼムは窓から外を見る。
ゼム「まだまだ、荒れるな…」
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ある地方の領主邸
???「鉄の傭兵団団長よ。城塞都市ガルタンの領の侵略はどうなってる?」
団長「万事、進んでおります。フリード村の物資を元に進めております。」
そこに、諜報部員の姿が現れる。
諜報部員「報告します!フリード村で物資の略奪を実行していた副団長バルド以下30名が城塞都市ガルタンに捕縛されたということです!」
団長「なんだと!?バルドがやられたのか!?やったのは誰だ!?」
諜報部員「最近できた暁の傭兵団とのことです!村は解放され、平和になっております!」
???「どうするつもりだ。団長よ」
団長「領主様…逆に好機です。我が領民を不当に逮捕したとすれば、大義名分となります。宣戦布告しましょう。鉄の傭兵団と領主様の私兵であれば、城塞都市ガルタンなど簡単に陥落するでしょう。」
領主「そうだな。あの城塞都市は本当なら我が一族の物…今が好機ならすぐにでも動くとしよう。大義名分として、我が領の領民が不当に捕縛された。解放しなければ、攻撃を開始すると城塞都市のサンドレイクに伝えるのだ!」
諜報部員「はっ!」
諜報部員が部屋をあとにする。
団長「奴らは戦争するしかないってことだ。奴らは鉄の傭兵団が必ず潰す!震えて待っていろ…暁の傭兵団!!!」
第3部 完