カイナル様の番は私です
生徒会から手を引こうって思っていたけど、やっぱりというか……なし崩し的に雑用係を継続することになったよ。とはいえ、正式な生徒会役員ではなく、準生徒会役員って感じかな。放課後残れないからね。
意外にも、引き止めた一人が副会長だったんだから、驚きだよね。平民関係なく、いざこざも無視して、ちゃんと見てくれたことにも驚いた。もう、自己中男と悪態吐けないよね。
基本的に、私と副会長は性格が合わないから、ちょっとした小競り合いはあるけど、挨拶のようなものかな。だから、概ね平和だったんだよ。
あの女が来るまでは――
ことの発端は、季節外れの転校生。
噂では、中々な問題児らしい。その問題っていうのが、病的に思い込みが激しいの。
その対象者はカイナル様。
元クラスメイトの伯爵令嬢のように、カイナル様の番は自分だと、ずっと、あちこちで公言していたんだって。全然、知らなかったよ。ゴルディー公爵家から散々抗議されているのに止めなかった強者のようね。
学年は一個上だから、向こう側が仕掛けて来ない限り接点はないと思っていた。正直、面倒くさい気持ちの方が強かった。
カイナル様は超モテるからね。ファンクラブもあるし。いちいち、気にしていたらきりがないよ。だから事前に、アジル殿下とスノア王女殿下に転校生の事を聞いても、特に深く考えてはいなかった。
亜人族って聞いていたのも、その要因だと思う。今まで、私に行き過ぎたちょっかいを掛けてきたのは、皆人族ばかり。亜人族の血を引いていても、もう人族に近い人だった。いくら公言してきたとはいえ、相手に番が出来たと知ったら、亜人族なら身を引くと思っていた。気持ちは別としてもね。番がどういうものか、一番理解してるって考えていたの。ましてや、王族の血を引くのなら、獣人性も強いと思うでしょ。
なのに、蓋を開けたら全く違ったの。人族よりも質が悪かった。
「あの〜仕事の邪魔しないでくれますか?」
(この注意、何回目よ。マジ、イラッとするんだけど)
「あら、邪魔なのは貴女でしょ。カイナル様の番と称している貴女が、雑用しかさせてもらえないなんて、さすが、元平民だこと」
頭ごなしに喧嘩売ってくるこの女は、アジル殿下とスノア王女殿下の従姉。侯爵家に国王陛下の妹が嫁いだの。その従姉が、二か月前まで隣国に留学していたんだって。理由は分かるよね。
そして困ったことに、元生徒会役員。
在任していたのは、一か月程だったらしいけど。戻って来て早々、当然のように、生徒会室に顔を出しているの。面の皮が厚いと思わない? 仕事は全くしてないのに。
(お茶飲んでる暇があれば仕事しろ!! しないなら、出て行け!!)
アジル殿下もスノア王女殿下も席を外しているから、余計に絡んでくる。マジでウザい。
「元ではありません。今も平民ですよ、ラメール侯爵令嬢様」
(ちゃんと、訂正しないとね)
偽証罪に問われる可能性があるから。この女の前で、隙は一切作れない。毅然な態度で接する私が余程気に食わないのか、やけに高圧的な態度で抑え付けてきた。
「それは、失礼したわ。まさか、こんな小さな平民の子供が、レシーナ様の誕生祭の儀式に参加なさるとは、とんだおませさんね。それとも、ご馳走や華やかな世界に目がくらんだのかしら。でも確か……参加年齢は成人してからでしたよね。違ったかしら?」
(つまり、無効だって言いたいのかな。それに、小さな平民の子供? 華やかな世界に目がくらんだ? 平民を馬鹿にするのもいい加減にしろ!! 歳も一歳しか違わないでしょ!!)
副会長の時のように怒鳴りたいけど、グッと我慢する。相手は仮にも、王族血縁者。それに、今更だけど、感情的になるのは貴族令嬢としては未熟だもの。
それに丁度いいわ。これまで、誰にも訊かれなかったけど、この女のように疑問に思っていた人もいたはず。聞き耳立てなくても聞こえるでしょ。
「別に、参加はしていません。ご存知だと思いますが、私の実家は中央区で食堂を営んでいます。レシーナ様の誕生祭には、店を休んで、私一人が店の大掃除をしていました。六歳の子供だから大丈夫だと考えて。ですが、まさか、カイナル様に求婚されるとは思いもしませんでした」
にっこりと微笑みながら答えた。そのすぐ後、拉致監禁されたことは、カイナル様の名誉のために言わないでおくわ。
「そ、そうなの、そんな偶然があるのね」
顔引きつってますよ、ラメール侯爵令嬢様。
「人族の私にはよく分かりませんが、亜人族の方々は番を得ることは奇跡であり、夢だと聞き及んでおります。ならば、私とカイナル様の出会いは偶然ではなく、運命なのではありませんか」
今までで最高の笑顔で言ってやった。見よ、ゴルディー公爵家の教育の成果を。
「運命!! 私は認めませんわ!! カイナル様の番は、この私なのだから!!」
(仮にも、王族の血を引く侯爵令嬢がヒステリーを起こすなんて、平民相手に滑稽よね。不様)
「御冗談を。カイナル様の番は私ですよ。既に、ピアスも頂いておりますし、カイナル様の御両親にも認めてもらっています。これ以上の戯言は、非常に迷惑ですので止めて下さい、ラメール侯爵令嬢様」
左耳を観せながらそう否定すると、侯爵令嬢なのに、聞き取れないような奇声を発して出て行った。
「やれやれ、これで、仕事が再開できますわ」
邪魔者がいなくなったので、仕事を再開しようとしたら、アジル殿下とスノア王女殿下が戻って来た。
「さっき、もの凄い形相をしたシルクとすれ違ったけど……あ〜なんとなく、理由が分かったわ」
苦笑いをしながら、スノア王女殿下は察してくれた。
「あれは、もう病気だな……」
アジル殿下の呆れた台詞に、私は大きく頷いた。
亜人族からしたら、まず考えられない異常行動らしいから。そうだよね、番を一番だって考えている種族なのに、その大事な番を、同族である亜人族が否定するなんてあり得ないわ。本当に亜人族なの?
「ユリシア嬢、暫く、生徒会の仕事を休んだ方がいいんじゃないか?」
生徒会長が心配して、そんな提案をしてくれた。だけど、私は首を横に振る。
「……生徒会長のお気持ちは嬉しいのですが、なんか、負けた気がして嫌です。あと、ラメール侯爵令嬢様を出禁にして下さい」
私がカイナル様の番だと胸を張りたいの!! だから、逃げはしない!!




