撒き餌は豪快にまかないとね
反撃開始!!
昼休みが始まると同時に、私と両殿下は予定通り食堂に向かった。少し早いのか、生徒はまばらだ。でも、あと十分もすれば、かなりの生徒数で賑わうはず。
食堂の一番隅に置かれている場所を陣取る。一番目立ちにくい場所だ。敢えて私は、その場所を選んだ。これはちょっとした時間稼ぎ。でも、奴らは必ず気付く。
「今日は、私の我が儘を聞いて下さりありがとうございます、アジル殿下、スノア王女殿下」
私は二人に軽く頭を下げる。
「構いませんわ。言ったでしょ、私はあの輩たちには迷惑していると」
「僕も迷惑していたから、助かる。ほんと、最後の方はなりふり構わないようになってきて、心底、うんざりしていた」
嫌悪感露わのスノア王女殿下と消耗し切っているアジル殿下。発端は私だから、申し訳ない気持ちで一杯だよ。特にアジル殿下に対して強く感じる。
「私たちの盾になってくれましたから……」
そう、途中から来訪が減ったのは、アジル殿下が窓口になってくれたから。
「それが、アジルの仕事だから、ユリシアが気にすることはないわ。でも、頑張ったわね。ご褒美にこれあげます」
そう言って、スノア王女殿下はチキンソテーを一切れアジル殿下の皿に移した。私もあげたいんだけど、たぶん、カイナル様の地雷を踏みそうなので止めた。
双子だからかな、特に両殿下は仲がいいの。ほんわかしながら、私は両殿下を眺めながら昼ご飯を食べていると、騒がしい声と、荒々しい複数の靴音が近付いて来た。
(意外と早かったね)
撒き餌で雑魚は釣れた。さて、雑魚を使って、上手く本命を釣り上げないと。なら、活きが良いように、雑魚に跳ねてもらいましょうか。
「ここにいたのか、ユリシア嬢。探していた、早速、一緒に来てもらおうか!!」
生徒会役員かな、五人いる内の一人が、厳しい声で命令してきた。
(はぁ!? 怒鳴る前に、両殿下に挨拶が先でしょ!!)
声に出さずに怒鳴り返す。
生徒会役員たちがかなり苛ついているのが、手に取るように分かる。感情の乱れは隙を作る。カイナル様から教わった通りだわ。一気に場が制御しやすくなった。
「お断りしますわ。今、昼ご飯を食べているのが見えませんか? それに、怒鳴らないでくれます、汚いので」
きっぱりと断った。ついでに、煽るのも忘れない。失礼な事など言ってないわ。だって、色々飛んで来たら汚いでしょ。食べる気失せるよ。
「昼ご飯なら、後で食え!!」
(またしても、命令ね……)
「何故、貴方たちに命令されないといけないのです?」
コルディー公爵家で礼儀作法、叩き込まれててよかった。毅然な態度と有無を言わさない淡々とした口調。たじろいでる、たじろいでる。
私の台詞を無視して、生徒会役員の一人が私の腕を乱暴に掴もうとしてきた。あろうことか、無理矢理連れて行こうとしたの。
だが、生徒会役員の手は私には届かなかった。アジル殿下が彼の手を掴んで止めてくれたの。
両者いがみ合う中、新たな怒号が割り込んできた。生徒会長だ。彼は「止めないか!!」と声を荒げ、生徒会役員とアジル殿下の間に入った。
(よし!! 撒き餌〈二〉がきた)
因みに、撒き餌〈一〉は私。
「何を騒いでいる!?」
生徒会長が役員に問いただすが、彼らは聞き流し、生徒会長の制止を無視した。
「生徒会長は黙っていて下さい!! これは、副会長の命令です!! 貴方がしっかりしてないから、こんなことになっているんですよ!!」
その台詞に、私はニヤリと笑いそうになる。
「あらあら、おかしな事を言いますね。この学園において、最高責任者である生徒会長を一役員が理由もなく非難し、命令を聞かないとは? アジル殿下、スノア王女殿下、この学園は生徒会長よりも副会長の方が偉いのですか? ならば、副会長が会長職を就けばいいのに……それとも、就けないのですか?」
私の煽りスキル、確実にレベルアップ。
現に、私の台詞に、生徒会役員たちは真っ赤になって、怒りで全身が震えている。
「この学園は実力主義だから、学年首席である生徒が会長職に就く決まりだ」
アジル殿下の台詞に、私は知らない振りをして頷く。
「そうなのですね、知りませんでした。では、この方々は学園の主義を認めていないのですね」
「そうなるな」
アジル殿下がそう認めた時、彼に腕を掴まれた生徒会役員が怒鳴った。
「なら、何故、お前は生徒会室に来なかった!?」
(お前呼びね……こいつ、馬鹿だわ)
「命令されておりませんもの。お願いはされましたが、お願いならお断りしても問題はないでしょ」
「それは詭弁だ!!」
(よく吠えるわね)
「ならば、私のクラスメートに訊いてみてはどうです? 生徒会長はいつも、こう仰っておりました。来てもらえないだろうかと、それは命令ではありませんよね」
悔しそうな表情で私を睨む、生徒会役員。あとの四人も彼ほどでは無いが、似た表情を浮かべていた。
「話を戻しますが、貴方がた以上に、学園の主義を認めていないのは副会長のようですね。自分は一切表には出ず、生徒会長を己の駒のように扱っていますよね。正直、不愉快ですわ……そもそも、私に対し暴言を放ったのは副会長です。謝罪するのなら副会長なのでは? 生徒会長が何故、謝罪を代弁しなければならないのですか? 頭を下げなければならないのですか? それだけならまだしも、私が許せば、両殿下の生徒会入りが確約されると思い込む。あまりにも、浅はかですね。高位貴族だから、この学園の主義は無効だとお考えですか?」
淡々と、声のトーンを変えずに言い放つと、益々生徒会役員たちは怒りで顔を赤らめる。
黙って成り行きを見ている生徒たちは徐々に増え、雲行きは私の方が優勢だった。
(この流れになるのは、読めていたわ)
私は間違った事は何一つ言ってはいない。平民としての常識と貴族としての常識からも、外れてた事は何一つしていないの。
反対に、生徒会側は動き過ぎた。
それが、この結果を作り出したの。なるべくしてなったと言っていいわ。
(一生徒を訪ねるだけ。そう考えていたかもしれないけど、甘いのよ)
自己中男の発言に盲目的になるのは一部の生徒だけ。人気はあっても、結構、皆シビアな目で見ているのよ。甘い言葉にうっとりしていても、その言葉全部を無条件に信じ切る人は少ない。当然でしょ、この学園の生徒たちは、いずれ人を導く立場に就く人が多いのよ、聞く耳と、真実を見ようとする目を養っていて当然よね。
「……ユリシア嬢、そこまでにしてくれないか?」
生徒会長が生徒会役員のために頭を下げる。
「生徒会長とはいえ、一平民に貴族が頭を下げる。部下の不始末のせいで。それを見て、何故、貴方がたは当然のように受け入れているのでしょう。私はダクリス様が首席だからではなく、人格の面も優れているから、なるべくして生徒会長になったと思いますわ」
(さぁ、持っていた撒き餌は全て投げ終えたわよ。どうするの?)
食堂内は、私が優勢。その私が生徒会長を擁護した。プライドの高い自己中男の貴方は、決して、それを許さない。
「何をしているんだ!? 食堂で誰かが騒いでいると聞いて来てみれば、会長が率先して、何をしているのです!!」
(なるほど、そう来たか……あくまで、生徒会長が悪い体でいくつもりね。どこまでも、卑怯な奴)
隠れて聞いていたくせに。まぁでも、こういう形でしか登場出来ないか。
(やっと、本命が釣れたわ)
撒き餌を豪快にまいてあげたんだから、盛大に食らいついて放さないでね。




