61. 番外編 「宮廷近衛騎士と宰相は秘密の塔で愛を語る」は絶版です!
噂になっていたあの二人の周辺状況です。
「ああ!やっぱり創刊号は手に入りませんのね!?」
「プリシラ様、そうなの。どこにも ≪秘密の塔≫ が無いのですわ!残念ですけど・・・」
とある貴族のお屋敷で、年頃のお嬢様達がお茶をしながら悶えている。悔しそうにハンカチを噛んでいるのは、青みがかった黒髪の美少女だ。
「初版本でなければ!なんて贅沢はこの際言いませんわ。流石に何年も前に出回っただけですもの、持っている方が少ないのはわかりますけど」
明るいストロベリーブロンドをツインテールにした少女が、可愛らしく頬に手を当てて言った。
「そうですわ、メルジー様。人知れず探すのにも限界がありますわね。ここは一つ年齢層を上げてお姉さま達に探りを入れましょう」
眼鏡を掛けた栗色の髪の少女が、思案顔で呟いた。
「テルシーヌ様、それ良いお考えですわ」
彼女たちが囲むテーブルには、何やら本が数冊置いてある。緑色の表紙に、金色の縁取りがされているシンプルな装丁だ。そんなに厚くは無い。むしろ、普通の本のサイズよりも少し大きくて薄い。
金色の文字で書かれた背表紙には、
『宮廷近衛騎士と宰相は秘密の庭で愛を語る』
『宮廷近衛騎士と宰相は秘密の森で愛を語る』
とある。なぜか、同じ本が3冊づつ。
「そう言えば、アリシア様はどうしたのかしら?今日はいらっしゃるはずよね?」
「勿論です。主催者のアリシア様無くして ≪愛と美しき者を愛でる会≫ はありませんもの」
にっこりと微笑みながら、花柄のティーカップを優雅に口にする。一口サイズの色とりどりの菓子は、夢のような色合いで食べるのが勿体ないような愛らしさだ。口に含めば甘くシャクシャクとした歯触りで、中のクリームは果物やナッツのクリームがたっぷりと詰められている。
「このマカロン、とっても美味しいですわ。侯爵家の菓子技師の作でございましょう?」
「ええ。アリシア様が今日の会合にと、お届け下さったのよ」
「さすがですわ。私達の好みを知り尽くされているわ」
「ところで、アリシア様がいらしたらお目に掛けようと思っていたのですけど、我慢が出来ませんわ。ご覧になって頂けるかしら?」
「何ですの?メルジー様。見せて頂戴な」
「プリシラ様、テルシーヌ様、ご覧になって!!これ、最高じゃありません事?」
メルジー嬢が取り出したのは、数枚の絵だ。厚い上質紙に丁寧に描かれた色鮮やかな絵だ。
「「「きゃぁああああ♡♡♡」」」
豪華な金髪にすらりとした濃紺の宮廷近衛騎士の制服。サファイアブルーの瞳に優雅で華麗な美貌の男性の姿絵だ。片足を窓枠の桟に掛け窓辺に座っている。ポーズも完璧な細密画だ。
「「「似てるー!!」」」
お嬢様達は顔を近づけて絵姿に見入っている。高揚した頬は3人とも薔薇色に色づいていて、何とも賑やかだ。
「皆さん!それだけでは無いのですわ!こちらもご覧になって?」
二枚目の紙には、栗色の髪に銀色のモノクルを掛けた青年の姿があった。神経質そうな、冷たい美貌の彼は、白いドレスシャツをしどけなく着てソファに腰かけている。少し乱れた襟元が何とも艶っぽい。こちらも細かな筆致で見事な出来だ。
「んまぁあああ!コレ最高!!イイ!!」
「本当ですわ!!まるで、≪秘密の森≫ のあの場面の様ですわ!!」
「これは・・・ストーリーを良く判っていらっしゃる方がお描きになりましたわね?」
プリシラ嬢がメルジー嬢の肩をバンバン叩き、テルシーヌ嬢は眼鏡を掛け直してじっくり見ている。
「遅くなって申し訳ありませんわ。皆さん!!」
バンっと扉を開けて、ミルクカフェ色の髪をした少女が入って来た。少し上気した頬はピンク色で、喜色に溢れた瞳は、大きな鳶色の瞳だ。
「お待たせ致しましたわ。さあ、≪愛と美しき者を愛でる会≫ を始めましょう?」
アリシアは胸に抱いていた二冊の本をテーブルの上にドンっと置くと弾む声でこう言った。
「≪宮廷近衛騎士と宰相は秘密の塔で愛を語る≫ の手掛かりがありましたの!聞いて下さいます!?」
お楽しみいただければ幸いです。
そのうち、「宮廷近衛騎士と宰相は秘密の塔で愛を語る」を
書くかもしれません。
お分かりかもしれませんが、アリシアちゃんはタンザール侯爵家のお嬢様です。妹でーす。




