60. 妖精姫への償いは
長くなってしまいました。
でも、切りのいい60話なので詰め込んじゃいました。
まずは、誘拐編ということで完了します。
この後は、番外を幾つか書いていきます。
「貴方への償いは、決まったか?」
アレッド王太子様の執務室で、誘拐事件に関わったメンバーが揃っています。一応、王太子様を上座に、左側にオーキッド様、ルシェール様、お二人の後ろにカルバーン様が立っています。この方、どんなに勧められても席に座らないのですわ。そして、反対側にセーヴル様、クラウスお兄様、シリウス様。そして正面に私です。でもね、テーブルの下ではしっかりシリウス様が手を握って下さっています。
大丈夫ですわ。シリウス様に眼でお伝えします。
「その前に、ルシェール様の現在の状況をご確認させて下さいな」
ここは、関係者で共通認識を持ちましょう。ルシェール様に眼を向けると、彼は頷いて口を開きました。
「ご心配をお掛けしておりましたが、抜糸も出来ましたので、これからは今までの様に動けるように訓練を致します。多分、今月中には問題なく完治できるかと思います」
「それは、良かった。慣れない王宮でご不自由をお掛けした」
「いいえ。アレッド王太子様には大変ご迷惑をお掛けいたしました。それなのに、大変よくして頂き、ありがとうございました。感謝申し上げます」
アレッド王太子様とルシェール様は、にこやかに会話をされています。隣国同士の立場がありますものね。お二人ともホッとされています。
「ルイ。傷が治ったらタウンハウスに行こう。皆が待っているよ?」
オーキッド様は嬉しそうにおっしゃいます。この方、本当にルシェール様を大事にされているのですね。
微笑ましい風景ですが、本題に戻しましょう。コホンっと咳払いをしてアレッド王太子様を見詰めます。
「アレッド王太子様。私への償いについてですが、トウレンブルクの国王様にもご相談して頂きたいのです」
そこにいた方全員の目線が、私に集まりました。
「ちょっと、リリ?どういうことだ?」
クラウスお兄様が、少し慌てたように口を開きました。ええ。そうですわね。償いについては、私に一任されていましたので、今日の今日までシリウス様にも、クラウスお兄様にも相談していませんでした。
シリウス様は、貴方が良くお考えなさい。と私の考えを尊重して下さいました。決して、丸投げされた訳ではありません。だって続けて、(私に相談して下さったらメルト王国から永久追放をします。ああ、でも私達の結婚するきっかけを作ってくれた方々ですね?どうしてやりましょう?)なんてにっこり笑っておっしゃいましたもの。
「ええ。一人で決められるものではありませんから」
「リリ殿。どういことだ?」
「リリちゃん。判ってる。どんなことでもお受けするわ」
アレッド王太子様もオーキッド様もごくりと喉を鳴らしたように見えます。というか、オーキッド様の言葉遣いが女装時と混じっています。ルシェール様もカルバーン様も頷いて、言葉の続きをお待ちになっています。シリウス様に握られた手をキュッと強く握り返します。私は、そこにいる方々の顔を見廻してはっきりと言いました。
「ルシェール様には、お父上であるフレッド王子の意志を継いで、学術都市計画で医術大学の設立に尽力して頂きたいです。幸い、お父上とルシェール様の復権も出来るということですもの。良い機会ですわ。そして、その知識や技術を広く生かして頂きたいです。トウレンブルク国王にとっても、復権を知らしめる良いアピールになるのではないでしょうか?それにはアレッド王太子様、オーキッド様のお力が必要なのですけど」
まずは、ルシェール様についてです。ルシェール様の性格や、人となりを知ってしまうと、単純な償いではもったいないと考えていました。だって、物凄く優秀なんでしょ?ご本人は医術の道に進みたいと思っていらっしゃるのでしたら、亡きお父上のご意志を継いで立派なお医者様や研究者になって頂きたいです。この方の知識や技術が、メルトとトウレンブルク両国の何千人の、何万人の命を救うかもしれないですもの。
「でも、それでは、私にとっては良いことばかりで、リリ様への償いになっておりません」
ルシェール様が、静かにそうおっしゃいました。
「そんなことはありませんわ。私個人より、もっと大きな利益を生み出しますもの。ね?お兄様?」
「ああ。優秀な医師は必要だし、薬学ももっと発展させなければならない。現在はトウレンブルク王国の方が進歩しているから、医術大学の発展は我が国にとっても貢献度は大きい。アレッド殿下、ここはトウレンブルク国王に恩を売っておくのも良いかもしれませんね」
クラウスお兄様、流石ですわ。グッジョブ!ですわ。恩を売っておくというのはちょっと・・・腹黒感が出てますけど。
「どちらにせよ、医術大学についてはトウレンブルクに主導権を持って貰うつもりでいたが、ルシェール殿が幹部にいてくれれば色々都合がいいな。判った。国王には内密で話をしよう。オーキッド殿、貴方がその特使になってくれるか?」
アレッド王太子様は、オーキッド様に目を向けました。
「ぜひ、その役目を私にお任せください。リリちゃん。ありがとう。これで表立って私も動けるよ」
「リリ様。本当に宜しいのですか?」
「はい。ルシェール様には、これから長い間償って頂きますわ」
そう言って、私とルシェール様はお互い笑みを交わし合い合いました。
さて、それから、
「オーキッド様にはまだありますわよ」
「えっ!?まだあるの?特使でいいんじやないの?」
「まさか。私の2年分ですもの」
「ぐっ。それを言われると言い返せない・・・・次は何かな?」
オーキッド様とカルバーン様の両方にとびきりの笑顔を向けます。
「学術都市に劇場を造って下さいな」
「「劇場!?」」
鳩が豆鉄砲を喰った顔とは、今のお二人の顔のことですわね。
「ええ。この学術都市の大学には芸術大学もありますでしょう。美術に演劇、音楽とあらゆる芸術分野が揃っていますわね。ですから、その学生の為にも本物を見せる機会があっても良いでしょう?それに、メルト王国の劇場は大きな町にしかございませんけど、学術都市は避暑地にも近く、貴族も庶民も多くが訪れる地域ですわ。風光明媚な場所柄だけが、観光では無いと思います。避暑地の社交に新たな目玉ができるかもしれません。それに、シーズン以外は学生の演目を上映しても良いですわ。学生の親族も裕福ですものね。きっと親族一同様でいらっしゃいますわ」
ここまで、一気にしゃべりました。ふーっと息をついて、もう少しです。
「それでですね、カルバーン様はその劇場の支配人兼俳優になって頂けないかと」
はい。以上です。
「えっと、つまり私が劇場を建てて、カーンに支配人兼俳優をやらせるということだよね?」
「その通りです」
オーキッド様とカルバーン様がお互いの顔を見合わせています。しばらくお二人は言葉に無い何かを確認し合っていたかのように見えました。
「リリ様。申し訳ありません。自分はもう舞台には立てません・・・」
カルバーン様が、苦しそうな表情を浮かべて絞り出すように言いました。どういうことかと、カルバーン様の顔を見詰めます。
「自分には、舞台に立つ資格は無いのです」
とても苦しそうなお声です。そこにいる皆がカルバーン様に目を向けています。
「それ、 ≪アイリス劇場の悲劇≫ が原因?」
じっと聞いていた、セーヴル様がカルバーン様に向かって問い掛けました。
「うっ!?」
思わず、カルバーン様が口元を覆いました。なぜ、そのことを知っているのか?とセーヴル様を見詰めています。何でしょう? ≪アイリス劇場の悲劇≫ とは?
「私の情報網を侮って貰っては困るよ。ここでは、多分私とオーキッド殿しか知らないか?ルシェール殿は知ってる?知らないようだね」
シリウス様に知っているかと目で合図しましたが、ご存じ無いようです。クラウスお兄様も首を振っていますし、アレッド殿下も同じような表情です。セーヴル様が皆に説明して下さいました。
「≪アイリス劇場の悲劇≫ って言うのはね・・・」
今から、5年前、隣国のトウレンブルク王国がクーデターで大揺れになっていた時、メルト王国にもやはり余波は来ていました。当時、カルバーン様は王都の大きな劇場にも出演する人気の舞台俳優でした。彼が所属していた劇団は、固定の劇場を持たずに隣国とメルト王国の両方の国で活動していて、クーデターが起きた当時は運悪く、トウレンブルク王国側の国境近くの都市劇場に出演していたとのことです。
「で、クーデターに巻き込まれそうになるも、何とかメルト側に戻ることができたんだよね?それで、王都から少し離れた港町のアイリス劇場で公演することになった。でも、そこで悲劇が起こった」
淡々と話すセーヴル様に、部屋の中は水を打ったように静かです。
「アイリス劇場で、女優が君に恋慕を募らせて、恋敵になった令嬢を殺そうと刃傷沙汰になった。そして、錯乱した彼女たちは差し違いの様になり、挙句に劇場に火を放った。これが表の事件内容」
「女優と、令嬢はどうなったのだ?」
アレッド王太子様が、掠れたような声で問いました。
「二人とも亡くなったよ。二人を助けようとした君は大怪我をした・・・そして、責任を取るように劇場を去った・・・違うかい?」
カルバーン様は、口ごもっていますが、それは肯定にとれます。自分を巡って二人の女性が亡くなったなんて・・・・それにご自身も大怪我を負っていたなんて・・・
セーヴル様は、椅子から立ち上がるとカルバーン様の近くまで歩み寄りました。そして、肩に手を置くと優しく語りかけました。
「カルバーン殿。私はあの時の事故の事を良く調べたんだ。当時の町の事情と、検分した自警団、担当していた第三騎士団、当時の劇場関係者、そして亡くなった二人の身元について細かくね」
「でも・・・俺のせいで二人も亡くなって・・・止められなかった・・・」
「そうです。止められなかったんです。あの二人は、隣国の第二王子派に連なる家柄だったんです。女優をしていた娘は、第二王子の母方に連なる貴族の家出娘でした。厳しい粛清を逃れるため、親族の逃亡の手助けをしていたのですが、粛清の手は非常に厳しく追手が迫っていた。しかし、隣国の中であればまだしも、我が国に入ってしまえば勝手なことは出来ない。ようやく逃げてメルト王国の港町に落ち着いたけれど、女優である娘は目立つし、簡単に会うことも話をすることも出来ない。そこで、貴方に近づいた」
劇団で共に過ごしていた女優は、貴族出身だったのか。確かに、女優になりたいと家出同然で転がり込んできた変り者だったが、到底庶民とは思えない品も教養もあった。時折見せる寂しそうな表情が印象的だったが、たまに訪れる年嵩の男や女がいたので家族かと聞いたことがった。すると、驚いたような顔をして家族は居ないようなものだと言った。
「彼女らは、貴方に近づいて劇場で連絡を取り合っていた。妹は熱狂的な支援者として劇場にも出入りできたからね。女優である姉の手引きで我が国迄逃れてきたものの、追手の追跡は緩むことなく、近くにまで迫っていた」
「そして、追手に捕まり、粛清されるよりもと心中することを選んだらしい。令嬢と言われていた娘の住んでいた家でも、両親と兄弟と思われる数人の男女が自害していた。多分、先に両親が死んだのだろう。それに悲観した息子達が後追いをしたんだろう。君は巻き込まれただけだ。令嬢に従っていた侍女が涙ながらに教えてくれた。彼女も火事で大怪我を負っていて、話ができるまで随分時間が必要だったらしい」
「君は、隠れ蓑にされたんだ」
セーヴル様がカルバーン様の肩を抱き、近くのソファに座らせました。
「彼女たちは、自分達の家、国と家の事を憂いて死を選んだ。君のせいでは無いんだ。国の混乱は多くの人を不幸にする。関係があっても無くても・・・残酷な歴史だ」
項垂れて話を聞くカルバーン様に、オーキッド様が近寄ります。
「カーン。また、舞台に立つ君が見たいよ。眩しい君の姿をね」
「それでは、皆様、私への償いについては、ご了承頂けましたでしょうか?」
皆様のお顔をぐるっと見廻します。異議なし!というようにオーキッド様は片手を挙げ、ルシェール様とカルバーン様は大きく頷いて下さいました。アレッド王太子様も頷いて下さいました。
「それでは、よろしくお願いしますわ!!」
私は席から立ち上がると、最敬礼のカーテーシーでご挨拶をしました。もちろん、笑顔も最上級ですわ。
「さあ、帰りましょう。リリ、送りますよ」
シリウス様に促されて、改めてアレッド王太子様にご挨拶をして退出しようとした時です。
「シリウス殿!」
ルシェール様が、シリウス様を呼び止めました。何でしょう?二人並んで、扉の前で振り返ります。何だか、ニコニコ顔のルシェール様が近づいてきますわ。
とっても綺麗な笑顔に思わずドッキとしてしまいます。
「シリウス殿」
握手でもするのかしら?と思ったその時です。
「えっ!?」
う、うっそ!!どーしたのっ!?
なんと、ルシェール様が、し、シリウス様の唇にく、口付けをしましたよ!!!!
「なっ!?」
流石のシリウス様も動揺されましたよね!?私も、その場にいた方全員が目を剥きました!!
「お返ししましたよ?」
物凄い笑顔と共に皆さんに聞こえる声で!何てことを言うのでしょう!!
そうです。私とシリウス様しか意味が判りませんわよ!
「リリ様、シリウス殿に返せと言われましたので、彼に直接お返ししました」
シリウス様の冷気が物凄いです!!でも、ルシェール様は全然気にしてないように微笑んでいます。
何でしょうか。もう、他の皆様の視線が痛いですわ!!
ああ、それに、シリウス様がルシェール様の腕を引っ張って部屋から出て行ってしまわれました・・・・大丈夫かしら?ルシェール様はまだ本調子ではありませんし・・・
もう!!、オーキッド様とアレッド王太子様が好奇心丸出しで詰め寄ってきます。説明なんてできませんわよ!シリウス様!早く帰って来て下さい!
この方たちとのお付き合いは、もしかしてずっと続いたりして!?(泣)
とにかく何とか完了しました。
もう少し、このメンバーで番外を書いてから、
タイトルを変えて執筆しますね。
章管理とか、良く判らないのですよ・・・
なので、時々足していきますので、楽しんで
頂ければと思います。
誤字脱字は気づき次第修正します。
別話の「異世界エステティシャンは、王室御用達!」
もこれから頑張ります。




