50. ルシェール・サウザランドという男(2)
さて、ルイ君がメルト国に来た頃が判ってきました。
次話は、何でリリちゃん誘拐をしたかになります。
「リリちゃん。記憶戻ってるでしょ?」
そこにいた全員の視線がリリに向いた。
「・・・はい?何の事でしょう?」
「トボケてもダメ。今、彼の事、≪ルイ様≫ って呼んだよね?」
オーキッドが悪戯を見つけた子供のような目をしている。
「ルシェールの愛称は、ルイなの。普通ならルシェとかシェールだけど、私達だけルイって呼ぶようにしていたんだ。リリちゃんはいつ知ったの?」
「そ、それは、さっきオーキッド様が・・・」
「うん。さっき彼が怪我していたのを見て慌ててしまったからね。でも、リリちゃん私の顔見て驚いていたよね?前にあった時と違うからかな?」
「・・・・」
リリが返事に困って固まっている。
「もういいや。知ってるんでしょう?2年前にリリちゃん攫ったのが私達だって」
オーキッドが、シリウスを見つめて言った。挑戦的で高慢、狡猾な表情でじっと見ながら。
「シリウス君、君たちが動いていたのは知っているよ。思ったより、早く見つかっちゃったけどね」
話を続けるオーキッドは、ソファに深く座り直して足を組んだ。
事件発生時、ルイと母親はトウレンブルク王家の離宮に幽閉されていた。その時はまだ父が生存していて、獄中で無実を訴えていた。
父の人となりを知っていた兄王は、第二王子派の主犯者の粛清には躊躇しなかったが、第八王子の処置に迷っていた。しかし、状況証拠は押さえられていて、同派の支援者を押えることは困難を極めた。その迷いに気づいたルイの父は、これ以上の国の混乱を避けるため、家族の助命を嘆願して自らの命を絶ったのだった。
弟の第八王子の真実を証明できなかった兄王は、隣国の辺境伯に弟の息子を託したのだった。
「フレッド殿と奥方が亡くなって、ルイが私の領地に匿われたのは、クーデター発生から三ヶ月後の事だった。まだその時は、フレッド殿の無実は証明できていないから、離宮でちょっとした火事を起こしてその騒ぎに紛れて連れ出した」
「あっ。大丈夫。跡形もなく燃やしただけで、死人は出ていないから。でも、その火事でルイは死んだことにした。万が一、逆恨みした輩が出てくるとも限らないじゃない?。でも、結局5年経った今になって、こんな所まで刺客が来るなんて想定外だった。第二王子派の残党かな」
オーキッドが思い出した光景にうっとりとするように目を細めたが、ルイの姿を見てすぐに厳しい表情になった。
「パルマン辺境伯には感謝しています。私を匿って頂き、父の汚名を晴らすことに奔走して頂きました。でも、領地に来たばかりの頃は、流石に心も身体も弱っていて、特に心はとても不安定になっていました」
ルイが当時を思い出すように言う。そして、父の残した薬学と心の治療
を自らで実践したたこと、特に薬の開発、暗示や催眠術の研究を続けたことを明かした。
リリが声にならない声を上げた。口の形が(そうでしたの!?)と言っているようだ。
「とにかく、まだクーデターの熾火が燻ぶっていたし、粛清された第二王子派の残党がルイを裏切り者扱いし兼ねないしと、彼の安全を確保するために色々考えていたわけ。僕としては、彼の医術や知識をこのままにしては勿体ないし、何とかそれを伸ばせないか考えた」
話を聞いていたアレッド王太子が、ふと思い出したように口にした。
「トウレンブルクとの学術都市計画か?」
オーキッドが、にんまりと頷いた。
「その通り。本来だったら5年前には進められていたはずだけど、クーデターのせいで3年遅れてしまった。アレッド殿下は、トウレンブルクに2年前に親書を送ったろう?学術都市計画再開の実行文書」
「ああ。そこにいるシリウスに頼んだのだ。父王でなく、王太子である私が指揮を執ることを了承してもらい、具体的に着工を始めるために」
アレッド王太子は、当時の事を思い出しながら続けた。
「あの時、トウレンブルク王国からは医術大学の新設が提案されていた。当然、我が国の医術進歩にも貢献できると思い同意したのだ」
「・・・・それは、トウレンブルク国王からのお詫びだね。第八王子への鎮魂の意味もあるね」
ルイの目が涙で潤んだように見える。亡き父を思い出したのか・・・
オーキッドが、そんなルイの肩を優しく抱くと明るい声で言った。
「国王も学術都市計画を成功させて、第八王子のフレッド殿の名誉回復させたいんだ」
オーキッドは、そこまで話し終わると自らお茶を淹れに席を立った。リリとカルバーンがそれに気づいて手伝おうとしたが、やんわりと片手で制された。皆のティーカップにお茶を淹れ直すと、紅茶の良い香りが広がった。
「いい香り。さすが王室御用達だねぇ」
目を瞑って紅茶の香りを堪能している。
「ところで、パルマン辺境伯。貴方がリリの誘拐をしたのはなぜですか?それに、その半年前に父に求婚というか、妾の申し出をしに来たのは何故ですか?」
一呼吸着いたタイミングで、クラウスが尋ねた。そこまで忙しく、隣国との交渉やルイの身の振り方を考えていた人間が、何故そんな無謀なことしたのか疑問でしかない。
「妾の申し受け?何それ?そんなことしてないけど?」
「いや、そこにいる貴方の従者が、私の父に名前も言わずに、リリを寄越せと言ったそうだ。名乗れば断れない。社交界になど出入りさせるなと」
ああ。とオーキッドが思い出して手を打った。そして、リリに視線を移すと悪戯っ子のようにニッと唇を上げて言った。
「ああ!!あの時は、私のことでは無いよ?」
「「貴方の事ではない?」」
そこにいる全員が、オーキッドの顔を見た。ルイもカーンもだ。
「そう!ルイと結婚して欲しかったんだ!」
そこにいる全員が、オーキッドの顔を見直した。もちろん、ルイもカーンもだ。
誤字脱字は気づき次第修正します。
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初めての投稿を何とか、最終話まで持っていければと
思っています。
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