46. お茶会は波乱がいっぱい
ああ、シリウスの××が見つかってしまいました。
そして、ルシェール(ルイ)には何か危険なことが
起きそうです。
皆さんへの贈り物を手に席に戻ってきた私達は、王妃様付の侍女に手籠を渡します。皆様がお帰りになるときにそれを手渡しする予定です。皆さんが喜んで下さると良いのですが。
「それでは、ルシェール様。ご案内いたしますわ」
私はルシェール様の方に向き直すと、ニッコリ微笑みながら声を掛けました。シリウス様が私の手をルシェール様にお預けになります。あくまでも新妻を労り、宜しく頼むという感じにです。
「わが妻はこう見えて、そそっかしいところもあります。転ばぬようご注意頂きたく願いします。まだ、結婚式も済んでいない妻をお預けするのですから」
「まあ。シリウス様、そんな、 ≪あわてんぼう≫ のお世話をお願いする言い方、失礼ですわよ」
シリウス様のノロケ?に乗っかった感じで拗ねたように言います。
「そうでしょうか?とにかく、ルシェール殿にご迷惑をお掛けしないように。ルシェール殿、わが妻の事、怪我などさせないように、どうぞよろしくお願い致します」
シリウス様は、私に注意を促すように言いながら、ルシェール様にも牽制をしましたわね。私は、ルシェール様と初めて会ったことになっていますからね。
「シリウス様は心配性ですのね?でも、ご安心ください。ルシェール様とご一緒であれば大丈夫ですわ。それでは参りましょうか?」
一部始終を黙って見ていたアレッド殿下は、うんざりしたような表情でしたが、その口元は明らかにこう言っていました。
(この、バカップルめが!) 殿下!声にならない心の声がダダ洩れですわ!
ルシェール様の腕に手を掛けて、中庭をご案内します。お茶会が行われているのは、中庭の東側で王宮内の出入り口に近い場所です。そこは花壇と芝生でガーデンパーティーも行える広いスペースになっていますが、中庭の東西南北はそれぞれのコンセプトに沿って造園されています。滝や小川、池も配置されていて、季節に合わせた花々が咲けるように趣向を凝らされています。とにかく王宮自慢の中庭なのです。
「こちらが、 ≪メルトの滝≫ になります。王宮の地下深くから汲み上げた水で作った滝だそうですわ」
この中庭のシンボルの様な滝の前で、ご説明します。
「・・・・・」
「ルシェール様?」
半歩前にいた私は、振り返ってルシェール様を見ます。ルシェール様のアクアマリンの瞳と視線がぶつかりました。
「ルシェール様?どうかされまして?」
何か言いたそうなその表情に、胸がどきりと波打ちます。
「ああ、すみません。滝の水しぶきの煌めきでとても美しく見えたので・・・」
「本当ですわ。キラキラして美しいですわね」
「貴方がですよ?」
「!?」
「顔が真っ赤ですよ?」
イキナリ何をおっしゃるのでしょう!?ルシェール様は、私を見詰めながら柔らかな微笑みを浮かべています。
「もう、ルシェール様。揶揄わないでくださいな。初めて会った人妻にそんな事をおっしゃると、誤解されますわよ?」
「・・・ああ、そうですね。失礼しました。つい、思ったことを言ってしまいました。でも、美しいと思ったのは嘘ではありません」
「それは、ありがとうございます・・・。ルシェール様のような方から、そのようにお褒め頂くなど畏れ多く感じますわ。ルシェール様が、これから社交界に出られたら大人気でしょうね?お茶会にいたお嬢様達が、うっとりしていらっしゃいましたもの」
「物珍しさからでしょう?この銀髪もそうですし。仮にも王族の末端ですから」
ルシェール様が自虐気味にお答えになると、私の手を引き滝の前を通り過ぎます。さっきまでのにこやかな雰囲気から変わりました。何でしょうか、少し投げやりというか、そっけない感じというか。
「ルシェール様は、いつからパルマン辺境伯の所にいらっしゃるのですか?」
「もう随分長くなりますね。5年ほどになります」
「まあ、そんなに長く。随分長く、お国を離れていらっしゃいますのね?ご家族と離れて、お寂しくありませんの?」
私は、ルシェール様とオーキッド様との繋がりを知るために質問をします。でも初めて会ったのですから聞き方には注意を払います。
ルシェール様は、小川に面したベンチにエスコートして下さると、お隣に腰を掛けました。ベンチの傍にある大きな柳の木陰が涼しくて、爽やかな風に木の枝がさわさわと揺れています。座ってフーッと息を吐くと、彼はぽつりと口を開きました。
「もう、会いたい家族もおりませんから・・・」
抑揚の無い言葉は、彼が自身に言い聞かせる様な言葉に聞こえました。そして、無表情な顔からは何だか、言いようのない悲しさが感じられたのです。
私の気のせいでしょうか。
しばらく、目の前に流れる小川を二人で並んで見ています。吹き抜ける風が気持ち良くて、眠くなりそうです。ルシェール様はあれから何もおっしゃらず、黙ってお隣にいますけど・・・・
(寝てる・・・?)
まさか!?ルシェール様は、腕を組んだまま目を閉じていらっしゃいます。まさか、寝ていらっしゃるのでしょうか?隣から身を乗り出して、お顔を覗き込みます。長い銀色の睫毛が、目元に淡い影を落としています。白い肌も細い鼻梁も、女性的というよりは、少年の様な硬質さを感じる美貌ですわ。そこは2年前と
「変わらないですわね」
つい、口に出てしまいました!!
ルシェール様はハッと気が付かれると、覗き込んでいた私の顔の近さにびっくりされたようです。
「すみません。余りの気持ちの良さに一瞬眠ってしまったようです。こんな気分になったのは久しぶりです。ところで、今何をおっしゃいました?」
「い、いいえ!?何も言っていませんわ」
私は慌てて否定すると、ベンチから立ち上がろうとしました。が、ツンと垂らした髪が引っ張られてそれ以上立ち上がることができなくなりました。
「ええっ!?」
垂らした私の髪が、ルシェール様の肩飾りのモールに絡まっています。心地よい風に髪も靡いていたのでしょうか。
「ああ、絡まっていますね。少しそのままでいて下さい。解きますから」
ルシェール様が髪とモールの絡みを解いて下さるということで、私は仕方なくそのままの姿勢で固まっています。ルシェール様の息遣いが聞こえる距離に、ドキドキしてしまいます。垂らしていた髪を寄り分けて、絡んだ部分に指を通された時でした。彼の指先が一瞬止まりました。
「随分、シリウス殿に愛されていらっしゃるようですね」
いきなり、ルシェール様がそうおっしゃりました。は?何で?
「ここに、印が付いています」
そう言ってツイっと耳下を撫でられました。ざわわっと背筋が震えました。
ひええええっ!? 思い出しました! 馬車の中でのシリウス様とのデキゴト。
「あの方は、見た目と随分違いそうですね」
私は真っ赤になって俯いていました。体中から汗が噴き出てくるようです。よりによって、ルシェール様にこれを見つけられるなんて!!もう、顔を上げられません。顔を押さえたまま、ルシェール様から離れると柳の木の陰に隠れました。少し、落ち着かなければ顔を見れませんもの!!
「失礼します。ルシェール様、お手紙をお預かりして参りました」
私が真っ赤な顔を鎮めている間に、騎士様が近くまでいらっしゃっていました。
全く気が付きませんでした。今日の中庭は、限られた男性しか入れないのですが?どちらの騎士様でしょう?少なくとも宮廷近衛騎士団の騎士様ではありませんわね?
「?」
強い違和感を感じるのは、気のせいでしょうか?
ルシェール様は、騎士様から手紙を受け取ると数歩離れてから封を切りました。私は、顔を出すタイミングを逃してしまい、そっと木の幹の影から覗いていました。そろそろ、出て行けるかしら?と思った瞬間、
「お覚悟を!!」
いきなり、騎士様がルシェール様に剣を向けました。不意を突かれたルシェール様ですが、手紙を相手に向かって放り投げると、
「リリ!!逃げて下さい!!」
私に向かって声を掛けると、騎士と私の間を遮るように立ちはだかりました。
「なに?何が起こっているの!?」
私は、ネックレスから貰った小笛を取り外すと、思いっきり息を込めて吹きました。
そう、2回です。
シリウス様、早くいらして!!!
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