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34. シリウス・スタンフォードという男

ちょっと、間が空いてしまいました。

次話でクラウスお兄様を書いてから、

いよいよ、パルマン辺境伯も

王都に着きそうなのでそちらの話に移る予定です。

幼い頃から周りは大人ばかりだった。着飾った貴婦人に恰幅の良い紳士達、頭を撫でられ、頬を撫でられ、膝に抱かれていることもあった。


「「「なんて、お可愛らしい!」」」


 公爵家の嫡男にして只一人の直系のため、大事に扱われていたことは自ら認める。それが、居心地が良かったかどうかは別である。


 生まれて物心がついた頃は、公爵夫人である母親のヘレンに良く似ていると評判になっていた。

 結婚前はヘレン・スタンフォード公爵夫人、現在のステーシア王妃、マデリン・グランデルク伯爵夫人の3人で ≪社交界の三色の薔薇≫ と言われた美貌の持ち主であり、その黄金色の髪に華やかな美貌は ≪黄薔薇姫≫ と称されていた。ちなみに、黒髪の王妃は ≪紅薔薇姫≫ プラチナブロンドのグランデルク伯爵夫人は ≪白薔薇姫≫ と呼ばれていた。


 シリウスは、そんな公爵夫人に良く似た黄金色の髪に、白く滑らかな肌、そしてスタンフォード公爵家特有の深いサファイアブルーの瞳の美しい少年だった。大きな瞳は賢そうな輝きを宿し、桜色の唇はまるで少女のように艶やかだった。


 公爵夫妻は貴族社会には珍しい熱烈大恋愛で結ばれた。シリウスは両親の一粒種として、有り余る愛情に包まれて育った。見た目も天使のように愛らしく、聞き分けの良い礼儀正しい少年は特に貴婦人たちに可愛がられていた。その振る舞いは、筆頭公爵家としての矜持を持った父である公爵の教育の賜物であった。

 ≪女性には敬意と、いわたりの振る舞いを≫ というのがスタンフォード公爵家の ≪男≫ の気構えである。




 シリウス8歳の時、クラウス、セーヴルの二人と共に、アレッド王太子の学友としてメルト王立学園に入学した。筆頭公爵家と由緒正しい伯爵家に侯爵家の息子達は、王太子の将来の側近として教育を受けることになっていた。同い年ということから、親しくなるのに時間は掛からなかった。4人ともタイプの違う美少年振りに、学園中の女生徒と一部の男子生徒が色めき立ったが、如何せん地位も最高ランクであったため、むやみに声もちょっかいも出せなかった。しかし、4人を取り巻く秋波は相当な物だった。1人分でも強烈なのに4人分なのだから。

 それ故、シリウスとクラウスは無表情で交わす様になり、セーヴルは早々に婚約者(レチル)を公表した。そして、アレッドはフワフワと誰にでも平等で、()()を作らないというスタンスに落ち着いた。


 因みに、在学中のシリウスは、≪黄金の皇子≫ クラウスは ≪緑の皇子≫、セーヴルは ≪鳶色の皇子≫、アレッドは ≪漆黒の皇子≫ などと渾名されていた。言われている当人たちは全く気付いていなかったけれど。


 学園では8歳から14歳までを過ごす。幼さが残る少年から瑞々しい少年に成長した彼らは、学力ではクラウスを筆頭に常に主席争いをする優秀さであった。剣ではシリウスが抜きんでて優れていたため、3人は早々に剣術での主席を諦めた。また、シリウスは馬術も得意であったことから、学園主催の剣術や馬術大会では上級生もいる中で一、二を争う能力の高さを見せた。



 14歳になる頃には、王国中の貴族の令嬢からの視線が尋常では無かった。


 婚約者のいるセーヴルさえも、その余波を受けて、婚約者(レチル)との仲が揺らいでしまった位だ。セーヴル狙いの令嬢があることないことを広めて、既成事実を作ってしまおうとしたことから大騒ぎになってしまった。もっとも、最初は不審に思った婚約者(レチル)が最終的には機転を利かせてセーヴルを救ったことになった。それからセーヴルは婚約者(レチル)に頭が上がらなくなったけれど。


 とにかく、女性の嫌な部分を垣間見て嫌気が差したシリウスとクラウスは ≪無表情で無反応な氷の表情≫を仮面にして過ごすことにしたのだった。



 15歳になると、4人は王立学園から大学へと進学した。そして、それと同時に社交界へのデビューが待っていた。王室主催のデビュタントで15歳の少女達がお披露目されるが、同い年の少年達も舞踏会に招待されている。エスコートするのは、姉や従妹などなどの親族が大半だが、セーヴルのように同い年の婚約者がいる場合はそのまま婚約のお披露目も兼ねて婚約者を連れることが多い。婚約者も年回りの丁度良い相手もいなかったシリウスとクラウスは、うんざりする程の申し込みを受けていたが、アレッド王太子の姉であるアルテシア姫の一言によって解決した。



「私が、二人のパートナーになってあげてよ?両手でエスコートされてあげるわ」


 かくして、前代未聞の姉姫の右手をシリウス、左手をクラウスがエスコートするという三人での入場となった。(アレッド王太子は姉の申し出をばっさりと断り、従妹の姫をエスコートした)


 ダンスは勿論二人と1曲づつ踊り、王族への挨拶も一緒に済ませた。そして、いたずらを成功させた子供のような顔で二人に振り向くと、ヒラリと壇上の王妃の隣に腰かけた。


「ガ・ン・バ・レ!」


 そう言って、片目を瞑って美しい顔に笑みを浮かべた。

 その後、パートナーが王室の()に戻ったため、()()()()()()()シリウスとクラウスがどんなことになったかは想像して欲しい。(そう、お嬢様方の体力は侮れない)


 それからの二人は最低限の社交界行事以外は出ないことを心に決めた。それほど過酷な時間だった。


 


 17歳になるとシリウスは大学在籍中に騎士団に入団した。

 両親が大恋愛で結婚したことから、シリウスに婚約者を決めなかった。出会うべくして出会うか、奪うかは本人の気持ちに委ねられていた。もっとも、両親からすれば息子が筆頭公爵家として王国からの責務を担うことを理解していると思っていたので、的外れに選ぶことは無いと考えていた。


 が、騎士になるという選択をしたことで少しばかり思惑が変わってきた。国の(まつりごと)に関わる宰相の後継を選ばず、騎士の道を目指す息子の()()は、両親が思っていた()()と違い過ぎたからだ。 ≪男ばかりの世界≫ 一人息子が身を置く場所に選んだのは、そんな世界だった。



 1年間の訓練期間を終えて、正式に宮廷近衛騎士に配属されると、宮廷行事や王国の特務で表立って動くことが多い。幼い頃は天使のようだと称されていた少年も、凛々しい青年騎士になっていた。濃紺に金色の刺繍の縫い取りが美しい制服、黄金色の緩く波打つ髪が一つに纏められている。サファイアブルーの瞳は冷たく無表情で、その美しい顔を更に近寄り難くさせている。


 未だに女性の影が見えてこない騎士には、毎日のように釣り書きが届けられた。すでに公爵家を出て騎士団の宿舎にいる息子にこの状況を訴えても、


「今は考えておりません。お断り下さい。」


 と、一言で捨て置かれる。

 さすがに、20歳近くなると公爵夫妻も心配になってきた。もしや、王宮で噂になっている()()()は本当なのだろうか?


「だって、旦那様。クラウス様もお一人ですし、もしかしてやっぱり?」


「まさか。そんなことは無いだろう(焦)」


「判らないですわよ。あの二人は特別仲が良いですもの。もしも、噂が本当だったら・・・」


「とにかく、公爵家存続のためにもあの子(シリウス)には素敵なお嫁さんを見つけて貰わないと!!」

 

 公爵夫妻はそれからしばらくは、シリウスを社交界に引っ張り出していたが、無表情、不愛想、朴念仁と三拍子揃った息子の対応に溜息をついていた。そのシーズンは、かつてない以上にお嬢様達の盛り上がりがあったことは今は語り草になってる。


「シリウス様が舞踏会にいらっしゃる!!!」


 王都のオートクチュール店や宝石店は未だかつてない以上の繁忙期を迎えて、≪シリウス特需≫ として嬉しい悲鳴を上げていたという。


 そして、シリウスが20歳になり宮廷近衛騎士団において異例の速さで副団長に就任した春。アレッド王太子の命により、隣国への特使として任務に付いていた。


「思ったより、早く済んだ。このまま速やかに帰国する」


 隣国から馬を駆けても10日近くは掛かる。しかし、宮廷近衛騎士である自分が王宮をいつまでも空けている訳にはいかない。それに、王室主催のデビュタントの舞踏会も予定されているため、ゆっくりとはしていられない。二人の部下を従えると、シリウスは自国を目指して愛馬に騎乗した。




 そして、この日から10日後、人生の伴侶(リリ)と初めて会うことになり、自分がこんなに甘々で溺愛系になることを・・・・



 彼・は・ま・だ・知・ら・な・い。


誤字脱字は気づき次第修正します。

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