倉島ゆうな編 -そのいち-
平日の朝というのは憂鬱なものだが、今日は特にそうだった。
布団を払いのけるのも億劫なもんで、学校をずる休みするのが良い考えに思えた。
(昨日のは夢の出来事だったなんて都合のいいことはないだろうか)
身体を起こして、机の上を見てみる。
そこには黒い手帳が置いてあって、表紙には”ふらんそわ”と子供が書いたような字が躍っていた。
俺はため息とともに、布団に沈んだ。
(ま、夢じゃねえわな)
そのまま天井をぼうっと見ていると、視界の左で仕切りのカーテンがのろのろと開いた。
妹の遥がその隙間から顔を出す。いつも通りの困った表情だ
「お兄ちゃん……そろそろ起きないと」
そして、いつも通り俺を起こしに来た。
―遥、お兄ちゃんな……
体調が悪くて、と言おうとして止まる。
遥を心配させるのは俺の本意では無い。
寝ぼけ頭では他に言い訳を考え付かなくて、俺は後ろ頭をポリポリと掻く。
これはもう起きるしかなさそうだ。
立ち上がって、カーテンをピシャリと開けると、制服姿の遥が赤面しておろおろとし始めた。
なにかおかしなところでもあるのかと、俺は自分の全身を見渡した。
ーなんかおかしいか?俺
「いえ、お兄ちゃんが急に出てきたから……」
なんじゃそりゃ。ずっとここに居るだろうに。
ー今日の朝飯は、何?
「納豆トーストとサラダだよ。ベランダで採れたプチトマトを使ったの」
ーあー、そういやこの前苗木を買ったよな……
俺は、欠伸交じりにそう返す。
遥は他にもキュウリやえんどう豆をベランダで育てている。
すっかり記憶に薄かったが、流石は遥だ。ちゃんと毎日世話をしていたのだろう。
俺が、何の気なくパジャマを脱ごうとすると、遥が慌てた様子で、カーテンを閉めた。
兄妹なのだから、そんなに気を遣う必要はないと思うのだが。
少し寂しい気持ちで、手早く着替えを済ませた。
再びカーテンを開けると、食卓に遥が座って待っていた。
食卓と言っても、木目調の小さな丸テーブルで二人でも少し手狭だ。
ー別に先に食べててもいいんだぞ。
俺がそう言うと、遥は首を横に振った。
「いいの。一緒に食べたいから」
遥は控えめに微笑んだ。




