夢見る科学少年
突然の出会いは昨年おノーベル物理学賞を受賞した時任教授、デジャブの話から飛鷹なことで教授の専門分野である素粒子の話となる。
焼肉屋にいたお客もこの会話を聞いて時任教授の存在に気づき少し騒ついたが、しばらくするとすぐに通常の様相を取り戻した。時任教授は翔達の横の4人席に一人で座り、日本酒を飲みながらロース肉とキャベツの千切りが山盛りに乗っているサラダをつついていた。
『時任教授はどなたかと待ち合わせなんですか?』翔が興味深そうに尋ねると、
『今日は稲葉教授と飲む予定だったのだけど、学生たちのレポートの確認に追われているようでこの時間に来れないとなるとちょっと今日は難しいのかな? 』と日本酒で少し赤くなった顔に癒される様な笑顔を浮かべて話す。
『うちの稲葉教授とはよく飲むんですか?』と今度は大地が尋ねる。
『そうだなぁ、頻繁ではないが、年に2、3回くらいはご一緒させていただいてるよ。彼は九州出身だからよく芋焼酎を飲むんだよなぁ。酔っ払ってくと鹿児島弁になってよく桜島の灰の話を聞かされたよ。』と楽しそうに話す様子が稲葉教授との仲の良さを伺わせる。すると突然大地が思い出したように話始める。
『そういえば、さっきの翔子のデジャブ話だけど、あの家が時任教授の家だとするとテレビとかのニュースで見た記憶がそう思わせてたんじゃないかなぁ。』
『そう言われるとそうだったのかもしれないかなぁ? なんかちょっと自信がないなぁ。』と烏龍茶のグラスを口にあてながら、座っている椅子に沈み込む様に小さくなる。
『デジャブですか、私の家がテレビではあまり写ってはいなかったと思うけど、、、。でも、私も全ての映像を把握しているわけではないので、それはちょっと分からないなぁ』と七輪のうえのロースを裏返しながら話を続ける。
『でも、デジャブは私も経験ありますけど、過去の記憶だけでは説明できないこともありますよね。私は素粒子の研究をしていますが、素粒子の世界はまだまだ解明されていないことが沢山あるのでそれを思うといずれ物理学できちんと説明できる日がくるのではないかと私は思ってますよ。なにしろ、有るってこと証明するより、無いってことを証明することの方が遥かに難しいですからね。』と笑顔で細くなった目をさらに細めて楽しそうに話す。すると翔が興味深そうに身を乗り出して尋ねる。
『教授はタイムマシーンとかはいずれ実現するものだと思いますか?』すると突拍子もない質問に少し身をのけぞる様にしながら答える。
『タイムマシーンかぁ、個人的には実現して欲しいと思ってますが、現状の技術レベルではまだまだ空想の中の世界ですよね。私は質量がある限り、時間の束縛からは逃れられないのではないかと考えてますね。』すると、大地が食いつく様に質問する。
『すると、もし質量がなければ時間を飛び越えることが出来ると?』
『ははは、そうかもしれませんね。ただ、今のところ、質量が全くない物質が存在することは科学的に証明はされてないんですよね。だけど、先ほどももうした様に、無いことを証明することは非常に難しいのでそこはなんとも言えません。』すると立て続けに大地が質問する。
『光は質量はないですよね?』
『光は電磁波というのは知っていますよね? 電気と磁気の波と書く通り音と同じ様な波なんですよね。音は空気が振動して伝わって行きます、でも空気自体は移動せずに一定の空間を振動するだけで、音が静まれば元の場所に戻ります。電磁波も同様なものだと考えていただければ分かっていただけると思います。ただ、電磁波の場合は波の周波数にプランク定数を掛けてエネルギーとして表すフォトンの性質つまり光子としての量子の性質も持っていますが、質量は0だとされてますね。ただ私自身は今世間で言われている様な考えとは少し違って、その真空の中に空気の様な役目をするものが実は隠れているのではないかと考えてます。簡単に言うと音波で言う粗と密が電磁波での電と磁に当たると。』と時任教授も自分の専門分野の話に近くなると自然と力が入り少し口早になっていた。
『ちょっとまってください、電気というと電子が頭に浮かぶのですが、電子自身は質量がありますよね。電磁波の「電」の部分はその電子とは違うのですか?』と翔が訝しげな表情で時任教授に詰め寄ると時任教授は待ってましたとばかりの表情で、
『そう、いい質問ですね。電子は質量を持つ素粒子の一種ですが、私が考える電子のイメージは普段真空の中に隠れている「電」の部分を常に身にまとう性質のある素粒子というものです。その「電」と「磁」の間には常に密接な関係があるので、「電」の性質を身にまとう電子が動くと常に「磁」の部分の乱れが発生して磁気が発生するのではと考えてます。電子には波の性質があることは工学部で勉強している君達には常識だと思うのですが、私のその「電」の部分と「磁」の部分が電子が動くことで波の様なものが発生して、その影響が波に近いもしくは波その物の性質として観測できるのではという仮説も考えているんですよ。まぁもちろん、有力は仮説は他にもあるので私の考えが正しいとは限りませんが、でも私は科学者として常にこういる仮説を多くたてて自問自答を繰り返すのが好きなんですよ。』とおもちゃを与えられた少年の様な表情で、時任教授は楽しそうに話しているとふと我に帰った様に腕時計に視線を落とし慌てた表情になった。
『いかんいかん、思わず楽しくなって喋りすぎてしまったよ。あなたたちにとってはつまらない話だったかもしれませんが、私は楽しかったですよありがとう。でも、ちょっとこの後約束があるのでこれで失礼しますよ。ありがとう。稲葉教授によろしくお伝えくださいね。』と早口で話し終えると、自分の机の伝票をひょいと摘んで会計を済ませて足早に出て行った。
『時任教授ってテレビでの会見だとちょっと無口な印象だったけど、よく喋ってたね。なんか夢見る科学少年って感じだった。年を取ってもあんな面を持っている人ってなんか素敵だな。』と翔子が少し照れた様に話した。
『時任教授かぁ、なんかすごくわかりやく説明していただいて良くわかったよね、うちの大学の教授もあんな教授ばかりだったよかったのになぁ。』と翔がジョッキのビールを飲み干すと大地が
『そろそろ俺たちも帰ろうか?明日も授業があることだし。』と言うと翔子が
『そうだね、私明日1限の授業があるしそのための予習もちょっとしたいし。』と言うとびっくりした様に大地が
『翔子ちゃん予習ちゃんとしてるんだ、翔とは全く違うんだなぁ。』と言うとその大地の発言が少し癇に触ったのか
『なんだよ、全くは違わないよ。俺は既に知っているから予習なんかしないけどな。』と他愛のない話をしながら3人は伝票をもってレジの店員に会計をお願いすると。
『ありがとうございます。お会計合計で7,350円ですのでお釣り2,650円になります。』とお金も渡していないのにお釣りが帰ってくる事態を飲み込めずに3人でぽかんとしていると店員が。
『あ、先ほどのノーベル賞の方がお客様の分までと1万円札を置いていかれたんです。』というと3人は驚いた様に顔を見合わせ、しばらくした後に翔が。
『そうだ、明日稲葉教授のところに行って事情を話してお礼とお釣りを渡しに行こう。』
と3人は納得してお店を後にするのだった。
この出会いがきっかけとなって、翔たち3人を待ち受ける未来が大きく変わる。
この物語の真髄となる部分へと徐々に迫るが、、、果たして展開やいかに。




