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第七章 罪悪の定義1

 『仮面児』が飛び去った後、俺は何か行動をするわけでもなく、ただ、冥界の空を見上げていた。もし、この空が人間界と同じように青かったら、ここが死者の集う世界であるとは、誰も思わないだろう。自分たちが普段見上げている空だと思い込み、あの先には広大な宇宙が広がっていると勘違いするはずだ。

 冥界の黒い空は、人間界の夜の空に酷似していながら、この世界に住まう者の思惑の集合体のようにも思える。何故なら、この空は渦を巻いている。常に、ゆっくりと、着実に、空を構成するものが、中心部分に向かって動いている。

 いつかは、すべてが中心部に集まり、冥界の空は消えてしまうのだろうか……。

 そしてもし、この空が消えるのなら、その奥はどうなっているのだろうか。今の空とは対照的に、白い空間が広がるのか、さらに黒い空が広がるのか、あるいは、消えた部分が人間界と繋がるのか……。

 あの渦は……一体何を求めているのだろう。一点に集まる事によって、一体何を得るのだろう。何も求めていないのかもしれない。何も得られないのかもしれない。ただ、空自体が流れていくことに抵抗せず、流されているだけなのかもしれない。実際どうなのかは、空だけが知っている。

 我ながら意味不明なことを考えている。だが、今は『仮面児』やケルベロスの事を考えていたくない。

 何故だろうか……つい最近まで、宿命の輪廻に決着をつけることだけを考えていたのに、いつの間にか、たまには息抜きをしたいと思うようになっている。

 少し……フィアラに影響されたのかもしれない。

 彼女はついさっきまで寝ていたようだが、レイディルがいなくなると同時に目を覚ましたらしい。寝ぼけた顔でこの庭きていた。フィアラは、レイディルが去ってしまったことに、大してショックを受けていなかった。ある程度、そうなる事を予想していたのだろう。

 問題なのは、フィアラよりもレイトの方だ。フィアラの話によれば、ずっと俯いたまま、何かを呟き続けているらしい。フィアラが寝ている間に、何があったのか……。

 ともあれ、そう言う事は本人に任せるしかない。今まで通り、軽いノリで部屋から出てきてほしいものだ。

 それを待つまでの間に、ずっと気になっていた事を考えてみるとしよう。宿命の輪廻についてだ。

 俺たち関係者は、今回の戦いのことを『黙示録』の舞台、もしくは宿命の輪廻と呼んでいる。『黙示録』の舞台については簡単だ。戦いの中心に『黙示録』という台本がある。俺達は、舞台の上に立つ役者のようなものだ。『黙示録』を扱っているつもりだが、実際は『黙示録』に扱われている。そういう含みを持って、『黙示録』の舞台と呼ぶ。

 だが、宿命の輪廻については説明がつかない。

 『黙示録』によって定められた宿命……それが何故、輪廻なのか。現状で俺が考えつくのは、俺たち関係者全員を相関図にしてみると、ちょうど円形に繋がっているのではないか……と言うものだ。

 とりあえず、俺から道を繋げてみよう。

 まず俺と『神術の仮面児』……わかりにくいから名前で考えよう。神崎達哉と神崎祐は、兄弟と言う事で、繋げる事ができる。それから神崎祐からレイディル・ニアスへ、主従関係を繋げられる。レイディル・ニアスからフィアラ・レヴィジットへは、旧友として繋げられる。そしてフィアラ・レヴィジットから……誰に繋げる?

 失敗した。フィアラから繋がるものがない。しかも、このままでは、レイトが完全に孤立してしまう。もしかしたら誰かから繋げられるのかもしれないが、俺はレイトについて、詳しいことを知らない。本人から話し出したりしない限り、この輪廻を繋げる事はできない。

 しかも、俺や神崎祐からゼヴィルへ……など、複数繋がる者もいるので、さらにややこしい。

 完成はしなかったものの、この仮説は、なかなかいい線をいっているような気がする。また今度考えてみよう。



 気が付けば、レイディルはいなくなっていました。神崎さんのお兄さんが迎えに来ていたそうです。

 起きた時は本当に驚きました。

 レイディルのことじゃありません。彼女の事は、すぐにいなくなってしまうだろうと、何となくわかっていましたから……。驚いたのは、レイトさんの事です。

 私が目を覚ました時、レイトさんは床に座って、小さく何かを呟き続けていました。寝ている間に何かがあったとすれば……レイディルが関係していると見て間違いないと思います。それを聞くべきなのかどうか……さっきからずっと悩んでいます。

 知らなくて良い事もある……そんな言葉を聞いたことがあるけれど、本当にそうなのでしょうか。

 全てを知るなんて無理だと思うし、知っている事全てを理解する事もできないと思う。けど、知らない事を知ろうとして、理解しようとする事はとても大事だと思う。きれいごとのように思われるかもしれないけど、私はそう思っています。知るタイミングは、考えなくてはならないですけど。

 レイトさんから話してくれるのを、待った方がいいのでしょうか……。



「!……レイト」

「悪いな。お前とフィアラを驚かせちまって」

 意外と早く、レイトは顔を出した。いつもよりテンションは低いが、当然の事だろう。レイディルと話でもして、昔の辛い思い出を掘り起こされてしまったのだろうからな。

 どうでもいいことだが、庭にやってきたレイトは、眼鏡をかけていなかった。伊達眼鏡だったのか……。眼鏡をかけていないほうがまともでは……。

「俺は別に驚いてはいない。だが、どういうことがあったのかは説明してもらいたい」

「わかってるって。けど、しばらくここにいさせてくれ」

 いい眺め……とは言えないが、今冥界に、心地よいそよ風が吹いている。心の闇を洗い流してくれる……そんな感じのする風だ。

 その風が吹いているから、この庭も居心地が良い。寝転がっていれば、そのまま寝てしまいそうだ。こういう落ち着いた場所は嫌いじゃない。

 多分、レイトも同じ意見だろう。

「……なあ、『邪砕靭』」

 適当な場所に座って、レイトは俯いていた。

「どうすれば、自分に罰を与えられると思う?」

「自分に……罰?」

 考えもしなかった問いだった。己が罪を犯し、それを己で浄化する方法……そんなこと、わかるはずがない。むしろ聞きたい。どうすれば……己の罪は消える?

「どう思う?やっぱ、自分の命を絶つことか?」

「……断言はできないが、それは違うだろうな。死ぬと言う事は、己の罪から逃げることだ。己の肩にのしかかった罪から、己を解放する為、追い詰められた人間が行う逃走だ。何をどうすれば、罪は償えるのか……それは俺にもわからない。いや、わかっている奴はいないだろう。わからないから、逃げる方法を選ぶ奴もいる。別の方法を選ぶ奴もいる。それぞれが、それぞれの罪を償う方法を探して、迷走する。そしていつか、これが自分の償いだと思うものがあったら、それがそいつの償い方だ。結果的にそれが死ぬことだったら、それがそいつにとっての償いなのかもしれない。どんな方法を償いとするか……それはお前次第だ。お前がこれなら償えると思える何かを見つけたら、それがお前の償いになる……すまない。最初に言った事と違うな」

 命を絶つことは償いにならない。これはあくまで、俺個人の意見だ。他の人間がどう考え、どう行動するかはわからない。

 それぞれの意志を持っているから、人間は己を確立し、世界をややこしくするのだ。

「結局は……自己満足の世界ってことか」

 その通りなのだろう。

 例えば、誰かを殺してしまったとしよう。殺された被害者が、どんな償いを求めているか、そんなことはわかるはずがない。

 親族か何かがごちゃごちゃ言ったりするだろうが、それもそいつらの自己満足でしかない。

 罪を償う気があるのなら、自分でそれが何かを見つけ、自分で実行し、自分で償った気になる以外、方法はない。死人の意志など、わかるわけがないのだから。

「仕方ねえ。自分で探すしかないか」

 レイトはそれっきり何も言わなくなった。俺は、黙って館に戻った。



「紅茶はいかがかね?」

「あ、いただきます」

 レイトさんの事を、私はゼヴィルさんに相談しました。一人で考えていたら、頭がこんがらがりそうだったから。

 ゼヴィルさんは、私の話を黙って聞いていてくれました。それだけで、安心します。私の周りには、私の悩みを聞いてくれる人がいる。家族みたいに接してくれる人達がいてくれているんだって。

「フィアラ……ここにいたのか」

 ゼヴィルさんが私に紅茶を渡した直後、部屋の扉を開けて、神崎さんが入ってきました。

 レイトさんが庭に行ったはずですから、きっと彼に気を遣って戻ってきたのでしょう。神崎さんって、意外と優しいですし、空気も読めるんですよ。

「達哉君、ちょうどいい。茶を入れるところでね。君もいかがかね?」

「……あ、ああ。もらっておく」

 私も神崎さんも、ここに来てから紅茶を飲むのは何回目でしょうか……。もう覚えていません。

 出してくれる紅茶が美味しいので、困りはしないのですが……。

「ところでフィアラ君、さっきの話だがね」

「は……はい?」

 ゼヴィルさんは紅茶を入れるための準備をしています。作業をしながら、私に話しかけてきました。

 余談ですが、ゼヴィルさんは私達全員の事を君付けで呼びます。最初は戸惑いましたが、だんだん慣れてくると、そんな言葉遣いも、ゼヴィルさん自身を表現しているように思います。

「昔の事は、本人が直接言い出すのを待ったほうが良いだろう。こちらから問い詰めても、彼を傷つけるだけだ。少しの間待っていれば、彼のほうから話してくれるだろう」

 やっぱり……そうですよね。

 私は心の中で納得しました。もしかしたら、この意見が聞きたくて、ゼヴィルさんに相談したのかも。

「!……どうやら、待つ必要はないようだな」

「え……?」

 ゼヴィルさんの目線を追うと、そこにはレイトさんがいました。

 まだ元気ではなさそうですけど、レイディルのいなくなった直後よりは、目つきもしっかりしていますし、健康そうに見えます。

 心の整理は……ついたのでしょうか。

「……待たせちまったか?」

「ああ。おかげで『真冥王』の入れる紅茶が一杯分多くなった」

 珍しい事に、神崎さんが笑いながら冗談を言いました。

「うむ。紅茶を入れるのも、なかなか手間がかかるのだよ」

「そいつは悪かった!許してくれ!」

「…………………」

 ゼヴィルさんも少し笑いましたし、レイトさんもニカッと笑顔を見せました。神崎さん本人も、僅かに笑っています。私だけが、ただ驚いていました。

「どうかしたかね、フィアラ君?」

「あ……い、いえ!」

「ふむ……。ならば良い。早速だが、本題に入ろう」

 レイトさんは頷き、レイディルさんとの事について、話し始めました。

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