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line22.負け組同士

 校門から数百メートル下った所で、俺は美紀夫が後ろにいない事に気付いた。少し待ってみるが、校門から出てくる気配もない。


「あいつ、どこ行ったんだ? 」


 面倒だが、そのまま置いて帰る方が面倒になりそうだ。俺はもう一度坂を上り直して、校門をくぐった。部室の前まで戻ると、外の椅子に長谷川先輩が目をとじて座っている。俺に気付いたのか、目を開けて立ち上がった。


「……よぉ」


 先輩はゆっくりとした動作で、グラウンドに出ろと手で合図した。よくわからなかったが、ここは先輩の指示に従う。


「先輩、美紀夫見かけませんでしたか? 」

「久瀬なら及川と部室を掃除している」何故か悲しそうに目を伏せた。「お前、最近元気ないな。どうした? 」


 先輩の方が元気なさそうに見えたが、俺達はゆっくりとトラックラインに沿って歩き始めた。


「すみません、ちょっとプライベートでいろいろあって……」


 みおの表情を思い出す。まだはっきりと心に残っていた。


「もしかして河村、お前もふられたのか? 」


 先輩のストレートな質問に、俺は動揺を隠せなかった。思わず足が止まると、先輩が「まぁまぁ」と軽く背中を叩いて歩行を促す。


「……ふられました。いえ、傷つけました」

「そうか。こういうのは、男の方が結構引きずるとも言うしな」


 苦しそうに顔を歪める。お前もってことは、先輩も及川にふられた事になる。


「……先輩も、ふられたんですか? 」

「ああ、たった今な」


 そう言って部室の方をちらっと見た。そうか、及川の奴、美紀夫に告白でもしたのか。鍵を渡して欲しいだなんて。まさか部室でエッチな事まではしないよな。


「河村がどんな風にふられたかは知らんが、もう少し元気出せ。みんなお前を心配している。部長のお前がへこたれていちゃ、他の部員にも示しがつかないだろ」


 ばしっと、気合を注入されるように強く叩かれる。その手の平から無理にでも、俺を励まそうとしてくれているのが伝わった。


「……出来るだけ、早く立ち直れるように頑張ります」

「そうだ、この経験を次に生かせればいいんだ。それなら失敗しない」

「そうですね」


 先輩自身も及川から立ち直ろうとしている。俺達は、仲間を見つけて互いを慰めるように歩いた。その場に留まれば、どちらかが泣いてしまう気さえした。男二人、肩を並べてグラウンドを歩く。傍から見たらさぞ滑稽に見えるだろう。やがて足は駐輪場の方へ行く。


「ここまで付き合わせて悪かったな。俺、自転車通学だからさ」

「いえいえ」


 何だか先輩に同情している内に、校門とは正反対の所まで来てしまった。先輩が自転車のカゴに荷物を入れ、俺に乗れと顎で指す。


「駅まで乗せていってやるよ。久瀬はもう諦めな」


 確かに二人の邪魔は出来ない。美紀夫にもようやく春が来たか。俺は先輩のたくましい肩をがっちり掴むと、寒空の下二人乗りでみかん畑を突っ切った。






「何でそうなるのさ。あんた、頭腐ってんじゃないの! 」


 及川の一言に久瀬が真っ赤になって立ち上がり、鞄を持って部室の入口へと向かった。

がちゃがちゃと力尽でドアを開けようとする。


「ごめん、今のは言い過ぎたわ、謝る。でも、礼二の事でどうしてそんなに怒るのよ。久瀬君も変よ」

「…………」


 無理だと判断したのか、今度は窓を開け、そこから出ようと窓のさんに足をかける。


「全く……こっちの身にもなってよ。別に及川さんの気持ちに文句を言うつもりないけど、これ以上話をややこしくしないで」鞄を抱え、悲しそうに振り返る。「この話は無かったことにしよう。僕も少しむきになりすぎた」

「……わかったわ。私も久瀬君に喧嘩売るつもりもないし。ただ、礼二が早く元気になって欲しいだけよ」

「じゃあ、お互い友達想いと言う事で」


 久瀬は勢いよくさんから下の地面に飛び降りて、そのまま振り返りもせずに走って行ってしまった。流石にさっきの発言は言いすぎたか。及川は開けっ放しの窓を閉めると、静かになった部室を見渡した。湿っぽく、空気がひんやりとして肌寒い。


 久瀬が礼二の事、好きな筈もないか。久瀬は可愛い顔をしているが、一応男の子だ。特に女扱いを毛嫌いしている彼が、男を好きになるとは思えない。きっと、男性恐怖症の姉に攻め寄った礼二に対して、弟として不満を抱いていたのだろう。

 及川は一人椅子に腰を下ろした。さっきまで久瀬が座っていたので、ほんのりと温かい。


「告白、かぁ」


 先程言われた久瀬の言葉が頭を過ぎる。悔しかった。先を越された悔しさ、所詮友達止まりでしかない自分が憎たらしかった。涙が浮かび、慌てて指先ですくう。それから鏡を取り出して、自分の姿も確認した。今日は黄色の花の付いたピン止めで、可愛くしてきたつもりだった。


 告白、してみようかな。久瀬に単純に見透かされ、言われっぱなしで悔しいのもあるが、考えてもみれば礼二はふられたのだ。今がチャンスなのかもしれない。もう一度前髪を止め直すと、簡単に部室を整理整頓し始めた。

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