56 シスコン王子と呪い姫
その王国のお姫様は呪われていました。
姫は白痴だったのです。勿論皆に嫌われています。この国に姫の居場所は無いのかもしれません。
でも姫は今日も笑っています。
***
優れた魔女でもあったお妃様の命と引き換えに生まれた姫。
姫は呪い姫と呼ばれては蔑まれ、王様ですら娘を嫌っていました。
魔力もあまりない、文字が読めない、計算が出来ない、礼拝堂で騒ぐ、ナイフフォークが使えない、器量も良くない、口が軽い……呪い姫と同い年の令嬢はとっくのとうに嫁いでるのに──王様は全てが許せなかったのです。
「とうさま〜」
「ノックもせずに入って来るな馬鹿! あっちへ行けこの呪い姫!」
そうやって虫けらを見るような眼差しを向ける王様を、会議室で、書斎で、家臣達は何度目にした事でしょう。
でも。
その度。
「まあまあ父上、そう怒らないであげてください」
リグナム──12も離れた妹を溺愛している事で有名な第1王子──がその場を諌めるのです。
「あーにいさま〜っ!」
「私が絵本を読んであげよう。ほら、こっちにおいで」
「うん!」
大好きな兄の言葉に呪い姫は元気良く頷き、くるっと部屋から出て行くのです。
「ふう……リグナムが居て助かるな……本当はあんな奴構って欲しくないんだが……あいつの遺言が無かったらあんな奴……」
リグナムは妹と違いとても優秀でした。
魔法の才能は申し分ない。
魔法騎士団長であり眉目秀麗、品行方正で政治能力もある。王様の自慢です。
唯一不満があるとしたら、シスコン王子と囁かれる程呪い姫を溺愛している事だけ。
部屋に2人で良く居て姫の世話を焼いたり。
笑顔が見たいから、と立派なドレスを仕立ててプレゼントしたり。
王様がわざと呪い姫にだけ粗末な食事を出しても、リグナムは自分の豪華な食事と交換してしまったり。
自分を大切にしてくれる兄が、呪い姫は大好きでした。
「本当に。王子はちょっとシスコンすぎますなあ……」
「全くだ」
兄の後をひょこひょこ着いて行く呪い姫。
2人を見ながら王様は息をつくのでした。
「そして見事フェニックスの羽を手に入れたお姫様は――おや、寝ちゃったかい?」
ぬいぐるみだらけの呪い姫の部屋。
血のように赤い表紙の絵本を読み聞かせていたリグナムは、いつの間にか隣で眠ってしまった呪い姫に視線を向けました。
「疲れた顔をしているね……」
机に頬をつけて眠っている呪い姫は、ピクリともしません。まるで死んでいるかのようです。
「……ふふっ」
それを見てリグナムは満足そうに笑い、開きっぱなしだった絵本をパタンッと閉じました。
この絵本はお妃様の遺品です。
そしてこの絵本、実は魔力吸いの呪力があるのです。
この絵本を読み聞かせられると、魔力を吸い取られてしまうと言う。
素質ある愛息の地位を確立させるべく息子と共謀し、禁忌を破って己の命と引き換えに呪いを成功させたお妃様。それもこれも、娘の魔力をリグナムに吸わせる為に。
姫を身篭っていた頃から読み聞かせていた為、呪い姫は白痴になってしまったのです。
「私の可愛い可愛い呪い姫……明日も絵本を読んであげるよ」
リグナムはそうほくそ笑み、機嫌を取る為に次は何をプレゼントしようかと考え始めました。
隣で寝ている呪い姫に、毛布の1つもかけずに。
***
その王国のお姫様は呪われていました。
姫は白痴だったのです。勿論皆に嫌われています。この国に姫の居場所は無いのかもしれません。
でも姫は今日も笑っています。




