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スノーボードクラブ  作者: 木田駿一朗
9/15

セッション8 -グラトリとパウダーは相容れない-

新キャラ登場。

 11月中旬の放課後での部室。ここ最近急激に冷え込み、厚手のコートも必要になってきた。既に標高1500M前後の山中では積雪も観測され、このまま行けば、下旬にはメートル単位での積雪が見込まれるらしい。

白馬エリアのスキー場である五竜、八方尾根、栂池も山頂部でのオープンがもう間もなく迫っている。


 俺達の初滑りも今月第4週の土曜日に決定した。場所は栂池高原スキー場だ。

部室では、そんな当日の予定を話し合いながらも、俺達は妙にテンションが高い。というのも、その日は先日カービングセッションで購入した俺達のギアが部室に納品されたからだ。


 購入決定後、雅がアルバイトの作業として、ワックス掛けやバインディングの調整などの初期メンテナンスを行っていた。この店に限らず多くのプロショップでは、購入した商品をいったん店が預かり、無料でメンテナンスをするというサービスを行っている。


「うわぁ〜綺麗。雅ちゃんが仕上げたの?」

ビンディングが装着されて運ばれたギアを、由香がまざまざと眺めている。

由香の板であるLOTUSとピンクのバインディングは、色鮮やかなピカピカで部室全体の色を明るくさせている。

「そうだよ〜!もっとほめて〜!」

「はいはいすごいですね。」

由香に媚びる雅に対して、智香は全く感情がこもっていない賛辞を送る。

「え〜、ともちゃん冷たい〜。」

雅は智香の右肩に両手をのっけて揺さぶるが、相手にしてくれない。

「僕の板とバインディング格好良いな〜。みんなで滑るの楽しみだね。」

歩夢の板であるダークブラウンのVDCにオレンジのバインディングが力強く存在感をアピールしてくる。

「その格好良いあゆむんのギアを仕上げたのは誰かな〜?」

「それは勿論、FANATICとUNIONの開発と製造のスタッフだよ〜。」

歩夢は雅に面と向かって笑顔でほめ讃えた。FANATICとUNIONのスタッフに。雅を誉めるかのように、本人と関係ない所を讃える。お前鬼やな。

「もおぅ!あゆむんも酷いよ。ユーキは何か良いたい事ある?」

急にというか、案の定俺に振って来た。


 雅の仕上げた初期メンテナンスも素晴らしい。ワックスもムラなく丁寧に磨かれ、バインディングの調整もブーツにしっかり合わせて、ネジも頑丈に締めている。事前に調整を頼んでおいた項目もオーダー通りだ。今俺の目の前にいる、こんな調子付いた先輩が、俺達の見えない所で、丁寧に熱心に作業をしている事を伺わせる。


 思えばスノ部を立ち上げ、メンバーみんなの為に一緒にギアを買う時に色々考えてくれて、バイトの一環とはいえ、丁寧にメンテナンスされたギアを俺達に提供してくれた。本当に素敵な人だなと心から思う。彼女には、まだまだ俺の知らない魅力が沢山あるのではないか、そう思わせてくれる存在だ。


「ねぇ、ユーキってば、私の仕上げた板どうなのよ?」

「え、こんなの普通だろ。自慢する事じゃないだろ!?」

本当なら心から感謝と賛辞を贈りたいところだが、今のこいつは調子に乗ってウザイので、あえて褒めないでおこう。


「へぇ〜?!誰のおかげで、ピカピカの板が手に入ったと思っているのかな〜生意気なユーキ君♥」


 次の瞬間、俺の頭に雅の右腕が巻き付いた。と思ったら更に巻き付いた腕の勢いに押されて、俺の頭は雅の深緑生い茂げるブレザーと山頂の雪化粧のように白いブラウスに身を包まれた2つの山の谷間に強制ダイブさせられた。

あ、これやばいやつだわ。

左頬から側頭部にかけてクッションにぶつかったかのような衝撃。右の側頭部には雅の右腕から圧力が加えられ、じりじりと痛む。


 でました雅流ヘッドロック!

ただ、今回は割とまともなヘッドロックだ。右側頭部はちゃんと痛いし、鼻孔も口も塞がっていない。取りあえず、俺は右側頭部の痛みに耐え、普通に左側頭部でおっぱいの感触を味合わされている。

前回顔面一杯に受けた時はおっぱい対して、トラウマレベルまでの絶望を味わった。窒息死させられる恐怖を。

あれからグラビア雑誌での水着の写真ですら、恐くて見れない。見るとフラッシュバックするからだ。

正直言うと、今このヘッドロックをかけられている瞬間も左頬と側頭部にめり込んでいる恐怖に耐えるのに必死だ。

更に目の前には雅の左おっぱいが迫ってきて、今にも潰すぞと脅迫されているような気分だ。取りあえず、俺の右後頭部も痛みに耐えられないという訳ではないが、それなりに痛いので、ひとつ参ったとでも言って解放してもらおう。相手に優越感を浸らせるのは悔しいが、これも一つの防衛策。安全を確保しよう。戦略的撤退だ。


「雅痛い。俺が悪かった!雅のおかげで良いボードが手に入った。本当に感謝している、ありがとう。ダカラ、オ願イ離シテクダサイ、降参デス。」


 俺は必死に降参するフリをする。

「アッー!オネガイ、死ンジャウ!」

「…うーん、ユーキ、本当に参った?」

「はイ、参リましタ!」

雅の右腕の力が弱まりかけた。どうやら聞き入れてくれたみたい?これで一安心だ?!


 と思った瞬間再び力が加わった。さっきより強い。更に眼前に止まっていた雅の左おっぱいが俺の顔面にめり込み、見事に顔にジャストフィットしてしまった。当然鼻孔も口も塞がる。恐怖のおっぱい再び炸裂!!

「ユーキ、もっと演技力磨こうよ?!そんな芝居臭い降参じゃ逆効果だよ〜♥」


 なん…だと…?

 演技バレてた?おかしいな、俺の迫真の演技力は中学の文化祭やった演劇で、ゴールデングローヴ賞受賞レベルのクオリティってだって賞賛されてたんだぞ?!あれ、ゴールデンラズベリー賞だったかな?

そんな事はどうでも良い。この顔面に吸い付くおっぱい地獄から脱出しないと本当に死んでしまう。しかも今回は純粋にヘッドロックも決まり、右側頭部も痛みが増している。まずい、意識を持って行かれる、俺は死ぬ!

せめて今シーズンのパウダー滑りたかったな。それも叶わず雅のおっぱいの中で死ぬのか…。あぁ人生とはなんと儚いものなのか…。

覚悟を決めた俺はこのまま雅の暖かく柔らかい懐のなかで安らかに…。


「すいませーん!スノーボードクラブ入部したくて来たんですけどー!」

「パウダースノー布教しにきました。」


 永眠しかけている俺の耳に聞き慣れない2人の女子の声が聞こえる。1人は妙にテンションの高い早口な声。もう1人はやけにクールでゆっくりと一定のトーンの声だ。

「新しい入部希望者〜?待ってて〜、入部届け持って来るからね〜。」

先生が入部希望者の対応をする。

「やぁやぁ、こんにちは〜。私が部長で、2年の湯沢雅だよ〜。んでこっちの胸の中で死にかけているのは副部長の神楽友基だよ〜。」

おい、自己紹介する前にまず俺を離せ!と言いたい所だが、口も鼻も塞がっていては言葉を発する事が出来ない。

「わぉ!なんか部長さんと副部長さんが大胆なプロレスしているぞー!」

テンションの高い早口の方が、実況に入る。ノリが良いのは構わないからレフリーに入って、試合終了させてくれ。

「なるほど、そちらのおっぱいの大きい方が部長さんで、おっぱいに顔を埋める変態が、副部長さんですか。」

おい、なんかクールの方が聞き捨てならない言い方して来たぞ!俺は好きでこんな目に合ってるんじゃない!見て分かるだろ!それに俺は変態じゃない!



「あの…雅ちゃんそろそろ友基君離してあげた方が。新しく入った人達にも自己紹介しないと。」

「そうね。いい加減離してあげたら。友基本当に死んじゃうかもよ。色んな意味で。」

由香と智香が雅を止めに入る。智香の「色んな意味で死ぬ」てのがなんか気になるけど。

「友基なら、このまま死んでも大丈夫だよ、きっと。」

歩夢、後で犯…じゃなかった殺す!

「とにかく〜、雅ちゃんと友基君が〜、仲良しなのは〜良い事だけど〜、今はお茶でも飲みながら〜、新しく入って来た人達とお話を〜、しよ〜。」

先生、今の俺達って仲良しに見えます?


 ひとまず、無事解放された俺は、この世に酸素が存在する事のありがたみを心から噛み締め、新たに入部したメンバーの自己紹介を聞く。

テーブルには各自で用意したマグカップやティーカップに紅茶がそそがれ、小皿にはアルフォートやブランチュールチュールなどのチョコレートクッキーが並べられている。

 

 新しいメンバーの姿をざっと見てみると、ハイテンションの早口の方は、黒髪ストレートのセミロングで前髪パッツン。大きすぎず小さすぎずのややキレ長がかったアーモンドの目だ。終始どこか笑ったような形の目にも見える。身長は150cm代半ばといったところだろうか。スクールバックには、アニメキャラクターとおぼしき缶バッジやキーホルダーのたぐいが飾られている。ほとんどが女の子キャラクターと見るに腐の付く人では無さそうだが、アニヲタの雰囲気はありそうだ。


 もう1人の俺を変態呼ばわりした方は、髪型は栗色のカジュアルショート。歩夢の髪型にも似たような感じだが、こちらの方がボリュームと長さがあるか。大きめの目だが、ジト目っぽい形で、クールな印象を持たせつつも、何を考えているか分からないような雰囲気がある。身長は160越えるくらいで、席に着く前に思ったが、割と足長だ。智香に負けず劣らずのモデル体型をしている。


 雅と先生が軽く自己紹介を終えて、新しく入った2人が行う。

 

 まずはハイテンション早口からだ。

「えっとですねー、1年の勝山良菜カツヤマラナと言います!ボードスタイルはグラトリとパークです!ボード以外の趣味はアニメ見たりー、ゲームするのとー、そのイラストを描く事です!痛板も自分で描きましたー!」

「いたいたって何ですか?」

由香がほわっとした雰囲気で質問する。

「痛板ていうのは、アニメやゲームのキャラクターのイラストが描かれたボードですよ。通常は公式絵や版権絵をコラージュするんですけど、うちは自分で描いてます!」


 良菜はドヤ顔でびしっと敬礼した。痛板と言われる板は俺もたまに見た事がある。あれってどこで売っているのだろうと思っていたが、自分で作るものなんだな。デザインセンスが良ければ、スノ部のイメージキャラクターやロゴマークなんかも作って欲しいかもしれない。ホームページを作成してみたいし。


「あ、痛板て1月に47(ヨンナナ)でやっているあのイベントの事?!なんか、凄いアニメキャラのボードとそれ乗って滑べってるコスプレ集団が沢山いてビックリした。」

雅が思い出したかのように話題をふった。

「そうです!私もそれに毎年参加しているレイヤーですよー!日本最大の痛板イベントなんです!」

白馬五竜と隣接するHAKUBA47スキー場だ。日本最大級のパークで有名だが、そんなイベントもあるのか。


 良菜の紹介も一段落して次は俺を変態呼ばわりした方の紹介だ。

火打麻美ヒウチアサミと言います。良菜と同じクラスの1年です。ボードスタイルはフリーランで、特にパウダーライドが大好きです。オフシーズンはサーフィンしてます。」

見た目はインドアっぽそうな雰囲気だが、結構アウトドアな性格のようだ。

パウダーライドとサーフィンも両方を趣味としているボーダーも少なく無いし、冬はスノーボードショップ、夏はサーフショップとして経営している店も数あると聞く。


 全員一通り自己紹介をして、雅から一言告げられる。

「あっそうだ、スノ部では先輩に対しても、敬語使わなくていいから、タメ語で話してね。あと下の名前で呼び合おうよ〜。」

雅はその「掟」を徹底的に拘る。俺達と初めて会った時にも思ったが、上下関係が厳しい部もある一方で、雅は全くの逆パターンで徹底的にフランクな付き合いを促している。もはや彼女のポリシーだ。


 そんな彼女の教えに従い、良菜は早速実践しはじめた。

「それじゃ、遠慮なく普通に話すねー!えっと、雅?雅ちゃん?ミヤビン?どの呼び名が良い?」

雅に対して全く遠慮の無いタメ語。ミヤビン…そう言えば雅とか雅ちゃんと言う人はいるが、ミヤビンはいないな。

「え〜?なんて呼ばれようかな〜。ミヤビンて呼んでもらおうかな〜。ラナラナ?」

ミヤビン…雅は両手をあごの前にきゅっと置いて、ウザイくらいのぶりっ子キャラを演じながら、その呼び名をリクエストした。え?ラナラナ?

「うぉう!ラナラナ?!それじゃよろしくね〜!ミヤビ〜ン?」

「うん、よろしくね♡ラナラナ〜!」

うわ、うっざ!

とにかく、どう反応すれば良いか困るやり取りだ。この2人は似た者同士なのか?まぁいいや、しばらくやれせておけ。ここで俺が下手に茶々入れれば雅になにされるか分かったもんじゃない。


 2人の茶番を適当に眺めていたが、もう1人の新入部員、麻美がこの光景にしびれを切らしたのか一言水を差して来た。

「こんな会話のやり取り見ていると、本当はお互い内面のどす黒さを探り合う、醜い女の争いに見えますね。」

おうおう、いきなり酷い事言うじゃないか麻美は。但でさえジト目が特徴的なのに、更にその眼力が増したぞ。

「え?酷いよ〜、いきなりそんな事言うなんて〜。ていうかタメ語は話さないの?アサミンは?」

雅はぶりっ子キャラのうるうる目で麻美を煽る。

「ボクは常にこの口調なので気にしないで下さい。別に敬語を意識している訳ではないのでおかまいなく。それより、アサミンてなんですか?!」

「敬語っぽい話し方しているけど、もの凄く口が悪い人だから、気をつけた方が良いよー、ミヤビン。」

すでに最初の一言でお察ししております、良菜さん。


 ところで、2人とも既にボードの経験者だが、よく一緒に滑りに行っているのだろうか。揃って入部して来たし、仲も良さそうだ。

「2人はよく一緒にボード行ってるの?」

俺は何となく聞いた。だが返って来たのは意外な答えだった。

「何を言ってるのですか?一緒に行く訳無いでしょう?話を聞いていたんですか?ボクと良菜は滑走スタイルが違いますよ。ボクはスノーボードの醍醐味である、パウダースノーを立派に堪能してますが、良菜はジブとかグラトリとかいう、チャラい無法者のお遊びをしているんですよ。そんなスノーボードの名を語ったジャンキー、ヒッピー、DQNと一緒にしないで下さい。」


 …えっと、何を言っているんだ、この麻美とか言う奴。確かに良菜と麻美は滑走スタイルが全く異なる事を自己紹介で聞いた。良菜のスタイルであるジブやグランドトリックは、圧雪して固めた緩斜面で楽しむスタイルだ。スピードを出す訳ではないが、パフォーマンスとして面白い滑りを追求するスタイルだ。


 一方麻美は非圧雪、人の手が加えられていない、フカフカの天然雪の急斜面を楽しむスタイルだ。まるで空を飛ぶような浮遊感と風を切るスピード感。パフォーマンスとしては皆無だが、確かにスノーボードの醍醐味である事に変わりはない。


 だけど、良菜は勿論、ジブやグラトリの愛好家に対して酷いdisりようだな。

「相変わらず酷い言うねーおい!こんなパウダー厨じゃ相性悪くて一緒に行けたもんじゃないよー!てか、こいつパウダー狂いし過ぎて、付いて行けないんだよ!雪崩に巻き込まれて死ぬレベルだわー!」


 良菜は麻美のdisりに反論する。そりゃ怒るだろうな。確かに、一緒に行けるわけないな。同じボーダーとはいえ、いや違うボーダーだからこそ、相性が悪過ぎる。

「パウダーこそ最高のボードスタイルです。スノーボードはなんのためのボードですか?雪山を滑り降りるためのボードですよね?そしてその究極がディープパウダーですよ!自然の英知が作り出した神秘の世界で、一体となる!それが本来のスノーボードです!ジブとか、なんで鉄の上を滑らなければならないんですか?!」

なんか、凄い熱弁だ。その場に立って身振り手振りしながらの演説。まるで政治家の選挙活動みたいだ。街宣車の上からこんな風に喋ってるおっさんを見た事がある。


 だがその勢いは良菜も負けてはいなかった。

「スノーボードは自由に縛られる事無く、雪上であらゆる楽しみを構築するスポーツだよー!ジブやグラトリだって、雪は振れど、山が少ない街の中で、先人達がスケートボードをヒントに知恵を絞って見つけたスタイルだしー。わざわざ険しくて危険な雪山に縛られず、雪さえあればどんな環境でも遊び場に出来る、人類の英知なんだよーー!!」

今度は良菜が選挙演説モードだ。


 スノーボードのルーツは諸説あり、スタイルによっては起源は様々だ。麻美のスタイルはサーフィンから雪山に視点を向けた起源があり、良菜のスタイルはスケートボードから、どこでも遊べるストリートに視点を向けたものだ。

ちなみに良菜はパウダーの危険を示唆したが、ストリートだって一歩間違えれば大事故に繋がるし、下手をすれば犯罪者となってしまう。どちらも最低限の知識とマナーが必要だ。


「で、2人はこの部で何をしたいの?」

智香が呆れ口調で2人に質問した。

「勿論、パウダーです!」

「いいや、グラトリだよー!」

まぁそうなるわな。

そして2人の熱弁は止まらない。

「みんなで、天然のパウダー味わいましょう!北アルプスの大自然と一体となり、ボク達は人間の新しい可能性を開くのです!」

麻美、変な宗教の演説みたいだぞ!お前はどこの教祖様か?!

「こんなシミったれた世の中に一石を投じるべく、うちらは何にも縛られず、ただゲレンデを狩り尽くすぜー!」

良菜、ロックミュージシャンのMCかな?


「残念だけど、私はテクニカル専門よ。それにここは部活、遊びじゃないの。」

智香は2人の意見を一蹴した。

「ボクだって遊びじゃありませんよ!これはスノーボーダーとしての、神聖で崇高な行事ですよ!登山家が己の心と向き合い、山に登るのと同じように、ボクは己の心とぶつかり合い、山を滑り降りるのです!良菜はともかく、ボクのパウダーに対する想いは、遊びで片付けられるものでは到底ありません!」

「遊びでは無いのはうちも同じだよー!なんか知らんけど、グラトリとかジブがチャラい奴らの変な遊び扱いされているけどー、もともとそういうレッテル貼る奴らが、自分たちの価値観を無理矢理押し付けて、決め付けているだけじゃないかー!グラトリやジブだって、自分たちがどれだけ、己を表現出来るか、体を使った創作なんだよー!体操や美術やダンスと一緒で、良い滑りを披露するためにどれだけ練習が必要だと思ってるのー?!」


 正論なんだか屁理屈なんだか、よく分からないが、2人のこだわりは本物だという事は分かった気がする。

「そ、それは悪かった。そうね…どちらもそれなりに、技術はいるよね。」

智香が若干押され気味だ。しかし、智香にも本人なりの強いこだわりがあるようで、2人に対して、自分なりの意見を主張する。

「だけどね、ここは好き勝手にする場所じゃなくて、皆で学ぶ所なの。それに私や雅は既にそれなりに腕を持っているけど、由香は完全な初心者。友基と歩夢も未知数で、今の2人の想い通りになる所じゃないよ。」

智香は更に続ける。

「だから、ここはまず基本から立ち返るべきだと思うの。私のスタイルはテクニカルだから、基本は熟知している。それで皆で初心に返ってちゃんとした滑りを学ぶべきだと思うの。」


 普通に考えれば智香の言う事が最も正論だ。学校の部活としてやっている以上、また俺も生徒会長に宣言した以上、智香の言う通り基本から学ぶ姿勢に取り組むべきだと考える。そこから各々得意とするスタイルを極めて行けば良いかも知れない。

だが、こうした意見にも2人は難色を示した。

「え〜、今更ですか?そんな基本基本言っていたら、あっという間に雪が溶けて、ボード本来の醍醐味が無くなりますよ!」

「そんな、ガチガチの縛り付けじゃん!ボードはもっと自由にやるべきだよ!」

全く譲らない2人。

「何を言っているの?!そういう基本も出来ていないような人が、パウダーだとかグラトリだとか言って無謀な滑りをするから、怪我や事故に繋がるんでしょ?貴女達はどうか、知らないけど。」

智香も譲らない。3人とも声を荒げて、我こそはという主張合戦だ。


 このままじゃラチが開かないので、他の人の振ってみよう。

「先せ…さっちゃん?さっちゃんは、この部は、どのように進めるのが望ましいと思いま…思う?」

先生に振ってみたが、未だに言葉遣いが慣れない。ただ教育的観点から先生の視点も聞いては見たい。

「うむ〜、先生は〜、皆が納得して〜、楽しく〜、活動してくれれば〜、それで良いかな〜。皆の部活なんだし〜。」

相変わらずのんびり、マイペースな口調だ。そして最初に自己紹介した時のように、自らは口を出さない方針だ。

意見の食い違いでも鶴の一声では決着させたりしない、みんなで議論を尽くすべき、遠回しにそう言っているように思えた。


 ただこのまま言い争いをしても不毛なので、悪いが仕切らせていただく。


「3人とも、ちょっと静かにしてくれないか?俺は3人それぞれの意見は間違いだと思っていないし、尊重するべき意見だと思う。でも想いがそれぞれ強過ぎて、完全に平行線だ。だから一旦他のメンバーの意見も聞いて、俺にまとめさせて欲しい。その上で皆が納得出来るようにプランを練るから。良いか?」


 俺は全員に承諾してもらい、話を進めて行く。


個人的な持論を述べるなら、

仲間に注目されたいなら、グラトリを極めるべし。

己の心を解放させたくば、パウダーを極めるべし。

と勝手に思ってみるw

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