セッション9 -スタイル-
気が付いたら一番少ない文字数。
スタイルもバラバラ、気持ちもバラバラのスノ部メンバーに俺は改めて、どんな取り組みをしたいのか、今一度問う事にした。
「まず…歩夢はどうしたい?」
最初に歩夢に振った。特に意味はない。一番振りやすかっただけだ。
「どうしたいっていうと?」
「例えば、どうすれば皆で学んだり、楽しんだりする事が出来そう?」
「そうだね…」
歩夢はしばらく考えて、そっと口を開いた。
「僕はさ、中学の時は完全に遊び感覚でボードを楽しんでいたんだよね。その中で、ジブとかパークが一番楽しいて思った。だから良菜ちゃんが言うように、僕はそれをもっと学んでみたいなて思う。でも友基や雅ちゃんみたいに急斜面を楽しく滑れるようにもなりたいから、やっぱ色んな事が出来た方が良いんじゃないかな。皆すごく上手そうだから沢山教えて欲しいな。」
歩夢はそれまでを思い出すように語った。同時に皆の顔を見ながら、だんだん笑顔になっていった。
「由香はどう?」
「えっと…わたしは…」
言葉を絞り出すのに時間がかかる。
「難しく考えなくて大丈夫だよ。単純な答えでも良いから。」
俺はそっと語りかけた。
「…わたしは、全然やったことなくて…、正直パウダーとかグラトリとかテクニカルとかが何なのかもさっぱり分からなくて…。自分がどうしたいのかも分からないけど…。でも、私は皆と笑顔で滑れるようになりたい!」
声を振り絞るように出す由香。漠然としている答えだが、とても大事な項目だ。
「智香、良菜、麻美。3人の言っている事は、メンバー全員でそれをしたいって事で良いのかな?」
「勿論、皆でパウダーです。」
「皆でグラトリだぜー!」
「当然、皆で1から学ぶことを前提よ。由香も雅も、歩夢も友基もね。」
最後に雅に振る。
「雅、いやあえて部長と言おうかな。部長はこのスノ部の創設者として、どうしたいのか改めて聞かしてくれないか?多分あなたの意見は最も重要になると思う。メンバー全員が納得出来る道を作るために。」
俺は雅に問いかけた。
「いや〜、ユーキ副部長〜、プレッシャー掛けるね〜。そんな風に言われるとふざけた答えは出来ないね…。」
雅は苦笑いをしながら考えた。腕組みをしながら目を閉じ、じっと考えた。
しばらくしてその目を開けて俺を見た。外の光に照らされて碧い目が力強く光り出した。
「私はね、正直皆が楽しければ、それで良いて考えてる。何でも良いし、何でもやりたい。」
雅は続ける。
「スノ部てさ、こうして見ると本当に皆ボード歴もスタイルもバラバラだよね。私はスロープスタイル、ともちゃんはテクニカル、ラナラナはグラトリ、アサミンはパウダー。それにゆかちは初心者だし、あゆむんとユーキはスタイルが本格的に決まるのはこれからだと思うし。」
雅はそっと席を立ち、ゆっくりと俺達のボードの前に立った。俺の板をそっと撫でる。
「私はね、1年の時アルペンスキー部だったんだけど、楽しくなくて辞めちゃったんだ。練習はキツいし、好きな事は何もさせてくれない。上下関係は厳しいし、なにかあるとすぐ怒鳴られて嫌だったよ。私は、スキーにしろボードにしろ、皆で楽しく滑れればそれで良かった。皆で楽しいゲレンデライフを送りたかった。でもそれが出来なかった。だからさ、それが出来る部活がしたかった。」
雅は俺のボードに手を添えたあと、今度は俺の背後に近づいて来た。俺は少し動揺した。
「部活辞めた後は1人で狂ったように滑りまくってたよ。スキーよりボードが好きだったていうのもあるんだけど、やっと自由になれたて喜びが爆発しちゃって。そんななかで、ユーキに初めて会った。」
雅は両手で俺の肩にポンと手を置いた。
一瞬心臓が跳ね上がった。
「ユーキは言ってくれたんだ。色んなスタイルを持った人を沢山集めて、楽しさや可能性も沢山広げたいって。そんな部活があったら良いなて。」
雅の口調と声色から笑顔で話している事が伝わる。
「私もそんな部活が欲しかった。だから、創ろうて決めたんだ!自分がやりたい最高の部活を作るきっかけをユーキがくれた。一緒にあゆむんが付いて来てくれた。ともちゃんも、最初は反対していたけど、ユーキの熱意に心動かされて入ってくれた。ゆかちはまだ未経験だけど、やってみたいって声をかけてくれた。今日は、新たにラナラナとアサミンが入ってくれた。だからね、凄く楽しみなんだ。それぞれ、色んなスタイルを持った、私が求めていた最高の部活が皆と一緒に作って行けるって。」
雅は俺の右肩に置いていた手を今度は、隣にいる由香の右肩に置いた。同時に雅の左手は今度は俺の左肩に置いた。まるで肩を組んでるようだ。
「だからさ、全部やっちゃおうよ!全部!テクニカルもパウダーもグラトリも。何となくやるんじゃなく、徹底的に!もう体がぶっ壊れるくらい全力で楽しんじゃおうよ!スノーボードで出来る可能性があるものは全部だよ!」
雅が力強く語る。ゆっくり視線をやると、笑顔であると同時に自信と期待に満ちた表情が伺えた。
「とまぁ、部長が仰っている訳だし、俺も雅の言う通り可能性を広げて楽しみたいんだ。どのジャンルにも挑戦したい。せっかくこうしてメンバーが揃ったんだ。だから、3人ともさ、ここは一つ部長の方針に従ってくれないか?」
ほんの少し沈黙が流れた。静かで落ち着いた空気だ。皆の気持ちを整理させるかのように。
「まぁ、エキサイトしちゃってたけど、自由と言いながらグラトリやジブに縛られるのもなんか矛盾しているし、ミヤビンの言う通り、それで良いんじゃないー?!」
良菜が返事をした。スッキリとした表情を見せている。
「パウダーは厳寒期の朝一が命です。それは譲れません。ですが、最低限そうさせて貰えるなら、他の選択肢も考えてやらない訳ではありません。」
麻美は強情な態度だが、ひとまず了承と受け取っておこう。
「部長、副部長が言うなら仕方ないね。私一人で勝手に決める訳にも行かないし。ただし基礎練する時間はしっかり確保させてね。それが出来なきゃ、ボードなんてやる資格無いと思うから。」
智香は相変わらず真面目だ。その意志は俺も忘れないでおこう。
「じゃ、部長の意見表明に皆が賛同してくれたって事で良いのかな?」
みな口々にはいと返事したり頷いて、全員が了承した。
「それじゃ、皆の意見を元に今シーズンのプランを考えておくよ。」
頭の中にだいたいのイメージは浮かんだ。それを整理して次回のミーティングで発表する事にしよう。実際出来れば相当やり応えのある内容になるかもしれない。
数日後、ミーティングで自分のプランを発表する日が来た。いや正確には自分と雅と歩夢のプランかな。雅の意見が沢山詰め込まれているし、歩夢とも話す機会が多い。皆で相談して作ったも同然だ。
「それじゃ、スノ部の活動日程を発表するね。あくまで参考程度なんだけど、一通り確認して欲しい。」
俺はエクセルで作ったA4用紙を皆に手渡した。皆黙ってじっくりと目を通す。
色々大雑把だったり、変に細かかったりとムラのある内容になってしまったが、重要視したいイベントは以下の通りだ。
1月4~6日=2泊3日合宿(野沢温泉スキー場)
1月第3週=JSBAバッジテスト(検定)(爺ガ岳スキー場)
1月第4週=大町市民スキースラローム大会(鹿島槍スキー場)
1月第5週=JSBA全日本スノーボードテクニカル選手権中部地区大会(白馬岩武スキー場)
2月第1週=TSUGAIKE NATURAL FREERIDING(栂池高原スキー場)
2月第2週=JSBA全日本スノーボード選手権大会中部地区大会(X-JAM高井富士スキー場)
2月第3週=JSBA全日本スノーボードテクニカル選手権本戦(北海道ルスツリゾートスキー場)
3月第1週=Hakuba Valley Terrain Park Tour 鹿島槍 JIB (鹿島槍スキー場)
3月第2週=JSBA全日本スノーボード選手権大会本戦(HAKUBA47スキー場)
3月第3週=栂池グランドトリック大会(栂池高原スキー場)
「なんか大会がいっぱいありますね…。わたし出れるかな…?」
由香が困惑している。スノーボードそのものが分からない由香にとっては完全に未知の世界だ。俺ですら、大会があまりにも多過ぎて何を目指せば良いか分からなかったくらいだ。
「ひとまず、白馬近辺で開催されるイベントとJSBAの大会をメインにリストアップしみたよ。その前に合宿と検定を行って、大会に向けてのスキルアップを図りたいとも考えているんだけどね。」
「こんなに多種多様な大会に出ようと言うの?そんな事出来るの?」
智香も困惑を隠しきれない。呆れと不安さが微妙に漂って来る。
「絞るのが難しいんだよ。皆それぞれのスタイルがあるし。」
俺も正直作成中は困惑だらけだった。こんな日程消化しきれるのかって。
「まぁまぁ、ともちゃん。難しく考えなくても良いよ。出来そうなのをやれば良いし、出来なさそうなら無理する必要無いと思うな〜。」
雅のフォローが入る。
俺は用紙を眺めながら皆に説明する。
「一応俺としては、皆が力を発揮出来きそうな大会を選んでみたんだ。智香が目指すテクニカルも、良菜が得意とするグラトリやジブも、麻美が熱望するパウダーもね。」
「パウダーって、栂池のですか?」
麻美は興奮気味な口調で目を大きく丸くさせた。今までのジト目からは想像がつかないくらい目を輝かせている。
「私、頑張りますよ!パウダーの素晴らしさ、この大会で皆に知ってもらいますから!」
「おぉ〜!アサミン気合い入っているね〜!」
「当然です!パウダー無くしてスノーボードはあり得ません!」
本当にパウダーが好きなんだな。
「それじゃ、うちは終盤でジブとグラトリガンガンやっちゃうよー!」
良菜も麻美に負けじと気合いを込める。
「んで、私はJSBAの大会でスロープスタイルの優勝を目指すから〜!」
雅も自信ありげな表情で、宣言した。
「あの…JSBAて何ですか?」
「日本スノーボード協会ていう団体よ。」
日本スノーボード協会 Japan Snowboarding Association 略してJSBA。国内の資格検定、プロ公認、大会主催などを手掛ける、スノーボード専門のオフィシャル団体だ。ここが主催するイベントなどによってはプロの道、あるいは世界への道への架け橋にもなりうる。
「学校側としても、スノ部の活動実績が多かれ少なかれ求められるから、JSBAのような、公認の検定と大会は外せない所だと思うんだよ。あと俺も参加してみたいし。」
「大会にスキーてあるけど、わたし達スノーボードの部だよね?」
「鹿島槍のスラローム大会か?スノーボード部門があるから、皆で挑戦してみないかって思ったんだよ。メインはスキーで、ボードの俺達はオープン参加なんだけど、せっかくだから出てみないかと思って。市が主催するイベントだし、そこまでレベルが問われる大会じゃない、基本的なスラロームだから、スタイル問わず、気軽に参加出来る大会だと思うよ。」
「色んな〜、大会が〜。いっぱいあって〜、面白そう!楽しくなりそうだね〜。」
先生もプリントを眺めながらにこやかな表情だ。
「まず合宿、検定、スラロームは全員参加という方向で考えて行こうと思う。それ以降の大会は各々目指せそうなら、それに取り組んで、ダメそうならまた違う事を考えてみたいと思っているんだ。」
俺は説明を続けて、歩夢が確認して来る。
「最初の3つのイベントは、部の全体の交流と意思統一を深めて、4つ目以降は各個人で頑張ったり、それ以外の人は応援したりサポートしたりって感じかな?」
「まぁそんな所かな。後はシーズンオフ寸前とかで、なんか締めとして、全員が参加出来る企画があれば良いかなて思っているんだけど、それはまた今度考えるわ。一応、こんな感じで進めて良いかな?」
俺は全員に確認とる。
「良いよ〜!」
「まぁ、良いんじゃない?」
「…良いと思うよ。」
「僕も異議無し。」
「わかりやしたー!副部長!」
「構いません。それで進めて下さい。」
全員OKの返事が出た。
「それじゃ、こんな感じで進めて行こう。みんなありがとう!」
プランが決まった。すごく部活らしくなってきた。最後に雅が部長らしく皆に声をかける。
「ユーキのおかげで、私達スノ部の目標も決まったし、私からも皆からお願いをするね。」
そう言うと雅ひと呼吸置いて張りのある声で皆に呼びかけた。
「まず、第一に怪我の無いように!怪我しちゃったら何も出来なくなっちゃうし、みんな辛い思いするしね。第二に他人の迷惑にならないように。私も人の事本当は言えないんだけど、スキー場でボード滑る時に気をつけないと、知らない間に他の人の邪魔したり、怖がらせたりしちゃうからね。」
更にひと呼吸置いて続ける。
「そして第3!とにかく徹底的に楽しもう!!検定合格とか大会優勝も大事だけど、やっぱりこの部は皆で楽しく過ごすのが一番の大事にしたいから、それが出来る部活を皆で作って行こう!」
雅の力強い声と笑顔で、みんな1つになれた気がした。
窓の外、11月下旬の大町や白馬は凍えるような寒さだ。北アルプスの山々もすっかり白く染まっている。スキー場ではいよいよオープンを迎える。俺達のスノ部も遂に本格的に活動を開始する。
寒い冬はもう目の前、同時に熱い冬がスタートを切ろうとしていた。
次回からスキー場行きます。やっとだ…。




