4.俺の扱い酷くない?
半分寝ながら書いてたので不自然な点があったら仰って下さい(¯―¯٥)
それではどうぞ!(>ω<)
「ハッ!」
俺が木剣を相対する訓練相手、久保田に振るう。
しかし、俺の渾身の一撃は久保田が少し拳を当てただけで簡単にいなされた。
俺は大きく体制を崩すも諦めずになんとかバランスを取ることに成功する。
「遅ぇんだよ無能が!」
だが当然久保田がその隙を逃すはずもなく、あっさりと殴られ、訓練場の壁に叩きつけられた。
「ごはっ!?」
肺に溜めていた空気が一気に吐き出される。
一瞬息が出来なくなり、激しく咳こみながら無様にのたうち回る俺を見て、クラスメイト達が笑い声をあげた。
久保田が近づいてくる。
ちくしょう!立たないと!
「相変わらず弱いなぁお前。弱い者いじめしてるみたいで胸糞悪いぜ。訓練相手である俺の気持ちにもなってみろよなぁっ!」
「ぐぇっ!」
蹴り飛ばされて派手に宙を舞う俺をまたも嘲笑するクラスメイト達。
俺は内心で久保田を罵倒する。
何が弱い者いじめしてるみたいで胸糞悪い、だ。
散々地球にいた頃からやってたくせに。
それに訓練相手になったのはお前が俺を指名したからだろうが。
お前が言いださなければ俺は今頃誘ってくれた雨宮と組んでいただろう。
そしてお前の気持ちなんて分かりたくもない。
ふざけやがって。
俺達が勇者召喚されてから1ヶ月。
俺はクラスメイト……いや、雨宮を除く全員からひどいイジメを受けていた。
「痛ぇ……」
時刻は午後6時。
最低限の雑な治療を受け、舌打ちとともに治療室を追い出された俺は現在自分に与えられた部屋へと向かっていた。
ここに来てから俺への対応はお世辞にも良いとは言えないものだった。
まず、ほとんどの勇者は俺を名前ではなく無能と呼ぶ。
俺の何が気に入らないのか、会う度に「よぉ無能。相変わらず弱そうだな」などと言ってくるのだ。
はじめのうちはいちいち反応していたが、だんだん馬鹿らしくなってきて無視するようになると今度は「無視してんじゃねぇよ!」とサンドバッグのようにボコボコに殴られた。
次に王宮の人間。
さっきの治療室の人もそうだが、メイドや執事も俺に対してはあんな感じだ。
プロ失格だろ。
他の勇者の頼み事なら二つ返事でやってくれるのに俺が頼むと、自分でやれよ的な答えが返ってくるのだ。
だから部屋の掃除は自分でやるし、必要な物があれば自分で用意しなくてはならない。
だったらなぜここに住んでいられるのか?
それは姫様の「最低限の生活と衣食住は提供する」という約束が反故にされなかったからだ。
どうやらシルヴィアは約束を守る姫様だったようだ。
それだけは感謝したい。
ただ、彼女も俺がイジメられていることは知っている。
知っているが見て見ぬふりをしているのだ。
だから彼女も敵だ。
もうこの王宮に俺の味方は居ないのだ……。
いや、一人だけいた。
前を見ると俺の部屋の前に一人の女性がいた。
槍聖の勇者、雨宮夏姫。
彼女が唯一この王宮で俺の味方をしてくれる人だった。
雨宮は俺を見るなり目の色を変えて走りよってきた。
「また何かされたのか!?」
俺は肩をすくめて諦めたように言った。
「訓練、だってさ」
「やはり久保田君か。なんて卑劣な真似を……私から一言申しつけておこう」
「ありがとう。その気持ちだけ受け取っておくよ」
「何故だ!」
「だって雨宮に迷惑かけちゃうでしょ?俺それだけは嫌だから」
「こんなの迷惑でもなんでもないが?」
「俺のために怒ってくれただけで嬉しいよ。ありがとう雨宮。俺は大丈夫だからさ。また明日な」
「あ、聖也君!」
バタン、とそこで俺は扉を閉めた。
そしてドアを背にその場にへたりこんだ。
「情けない……本当に我ながら情けないな……」
女の子にあそこまで言わせたのにこうやって逃げてしまうのだから……。
自分のヘタレ具合に反吐が出る。
もっと俺が強ければ……少なくとも雨宮に迷惑がかかることは無かっただろう。
だけど俺が強くなるためには……、
「腹、切んなきゃダメなんだよなぁ……」
俺は立ち上がり、部屋の中にあるテーブルへ向かった。
そこには調理場からくすねてきた包丁が1つ置いてあった。
俺はそれを無造作に手に取ると、切っ先を自分に向け、腹に突き立てる……寸前で止めた。
「……はぁ」
俺は包丁を適当に投げ捨てるとそのままベッドに大の字で寝転んだ。
「本当に……情けねぇ」
この1ヶ月、俺は何度も切腹を試みたが一度も成功していなかった。
理由は至極単純。
ただ怖かった……。
これを刺せば俺は変わってしまうのではないかと。
もしかしたら久保田のようになってしまうのではないかと変化を恐れたのだ。
しかし現実には勇者との差は縮まるどころか、どんどん開いていく始末。
焦りは積もる一方だった。
「クソったれが」
やり場のない怒りを言葉に込めて小さく呟いた。
俺はその日、そのまま寝てしまった。
「皆さんにはこれからダンジョンに向かっていただきます」
翌日の昼頃、姫様は勇者全員を集めて開口一番に言い放った。
「ダンジョンとは簡単に言えば魔物のいる迷路みたいなモノですね。奥に行けば行くほど魔物も強くなり、強力なアイテムなども手に入ったりします。そして各階層にはフロアボスと言って通常の魔物より強力な魔物が次の階層へとつながる道に立ちふさがっております。それから、ダンジョンには様々な種類があり、今回皆様に行っていただくのは階層が5階層しかない初心者向けのダンジョンです。ただし、くれぐれも油断はしないでくださいね。ダンジョンは未知の空間ですので何があるか分かりません。そのため思わぬ事故にあって最悪命を落とすというお話はよく耳にします。侮らず、全員無事に戻ってきてくださいね。何か質問はございますか?」
すると一番あげなさそうな奴がニヤニヤしながら手を挙げた。
「何でしょうかクボタ様?」
「姫さんよぉ、こいつも連れてくのかい?」
久保田は俺を指差しながら言った。
シルヴィアは困ったように答えた。
「キサラギ様も勇者の一員、たとえ戦えなくともいい経験にはなるのではないでしょうか?」
「ギャハハハ!聞いたか無能野郎?お前戦力外だってよぉ。姫さんにまで言われて可哀想になぁ」
「…………」
「無視すんなよ無能が!」
「ぐはっ!?」
腹を思いっきり殴られ、昨日に引き続きまたも俺は宙を舞った。
そのまま無様に倒れ込む。
クソったれが。昨日の傷もまだ治ってねぇのに!
するとそこで久保田の首筋に槍が当てられた。
「その辺にしないか久保田君。いくらなんでもこっちに来てからの君は少々目にあまる」
「あぁ?ちっ!分ぁったよ!白けちまったぜ」
久保田が離れていくと雨宮はそのまま俺の方へ来て心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫か聖也君?」
「ああ。ありがとう雨宮」
「どういたしまして」
雨宮に手を引かれて立ち上がる。
「やはり君は残った方が……」
「いや、俺も行くよ」
「しかし……」
「少しでも追いつきたいんだよ」
「聖也君……」
そこでシルヴィアから号令が言い渡された。
「出発は一時間後です。それまで各自準備をしてください。武器などはここに置いておきますのでご自由におとりください。足りない物があればその都度わたくしに言っていただければご用意致します。では解散してください」
俺達は準備を開始した。
一時間後。
準備を終え、俺達は再び部屋に集まった。
それをシルヴィアは見回し、クリスタルのような石を取り出した。
「どうやら全員いらっしゃるみたいですね。それでは行きましょう。転移結晶作動!」
そして俺達はダンジョンへと転移したのだった。
「びっくりして心臓止まるかと思ったわ……」
転移結晶の力により、一瞬でダンジョンへと転移した俺達勇者共は周りを興味深げに見まわした。
特に変わったところはなく、見た目は石壁が広がってるだけの洞窟だ。
ちなみに俺の格好だが、まるでどこかのハンターのような出で立ちだった。
革の防具に革のブーツ。
左腰にはカットラスが鞘に収まっており、反対側には剥ぎ取り用のナイフみたいな小剣が装着されている。
なんでカットラスかって?
一応侍と偽ってるから本当は刀にしたかったんだけど無かったんだよね。
刀術スキルって剣じゃほぼ発動しないみたいでね。
カットラスならセーフだったからカットラスにしたのだ。
まあ確かに刀に似てるっちゃ…………似てるのかな?
細かいことはいいや。
さて、そんじゃ行ってみましょうか、ダンジョンってやつに!
俺達は奥へと進んでいった。
「ギギギ!」
「しゃらくせぇっ!」
「ギィギッ!?」
ゴブリンの雑な攻撃を難なく躱し、お返しとばかりに顔面を陥没させる勢いで殴りとばす久保田。
「グォオオオ!」
「安心しなよ。一瞬で逝かせてあげるからッ!」
「ギョアアアア!?」
流麗な剣技でトレントを一瞬のうちに切り刻む木下。
「せい!はっ!せやぁああ!」
「ギャアッ!」
「グゥ!」
「ゴェッ!?」
華麗な槍の舞いで複数の敵を難なく相手取る雨宮。
この三人の活躍で、俺らのクラスはすぐに5層のフロアボスの部屋に着いてしまった。
俺か?俺はマジで何もしてないぞ。
というかあの三人以外動いてるところをみてないんだが……。
まあいい。
「なんか手応え無さすぎてつまんねぇなぁ」
「そうですね。僕もそう思います。雨宮さんはどうですか?」
「私は特にどうとも思わんよ。出来れば早く帰ってシャワーを浴びたいものだな」
「それは名案ですね。どうです?今夜二人で一緒に……」
「木下君。今ここで突き殺しても構わんのだぞ?」
「やだなぁ。冗談ですよ」
乾いた笑みを浮かべる木下。
絶対本気だっただろアイツ。
くそっ!イケメンは何をしてもいいのか!?
セクハラでも訴えられないのか?
とくだらないことを考えていると、久保田が何やら騒ぎ出した。
「おい!こんなところにボタンがあるぜ!押してみようか」
「っ!?ダメです!それを不用意に押しては……」
咄嗟にシルヴィアが叫ぶが、その声は間に合わず、
俺らは久保田がボタンを押すと同時にどこかへ飛ばされたのだった。
「痛てて。ここ、は?」
気が付くと俺は薄暗い場所にいた。
ん?そういえば何か柔らかいものが左手にあるような?
試しに揉んでみると、病みつきになりそうな柔らかさだった。
いったいこれはなんだろうか?
薄暗くてよく見えん。
ドクンドクン。
これは……鼓動?
「うぅ……」
そして呻き声。
まさか人か!
するとこの左手にある幸せな感触は……っ!?
慌てて手を離そうとしたところで、上体を起こした彼女、雨宮と目が合った。
「ここは……ん?聖也、君?」
そして徐々に雨宮の視線がしたに下がり、俺の左手がガッチリ掴んでいる自身の胸元に視線がいった。
そしてまたも俺と目が合う。
・・・・・・・・・・・・。
「聖也君の馬鹿者ぉおおおお!!」
「あべしっ!?」
槍の柄で顔面をぶっ叩かれた俺であった。
「まさか聖也君があんなことをする男だとは思いもしなかった。今後は気をつけるとしよう」
「だから、あれは事故だったんだって」
「犯罪者は大抵そう言う」
「申し訳ありませんでした」
「それでいい。そ、それでだな……どうだった?」
「はい?」
「私の……胸の感触は?」
「……んっ!?」
なんという、なんという究極な質問だ。
まるで正解が分からない。
分からないから正直に答えるべし。
「めちゃくちゃ柔らかくて、とても幸せな感触がしました」
「そ、そうか……」
「はい……」
「…………」
「…………」
気まずい!すごい気まずいよ!
この会話絶対すべきじゃなかったよね!?
やっぱ正解は無かったか。
そうと決まれば話を変えるに限る。
ここから話を変えずに盛り上げられるほどのコミュ力を俺は持ち合わせていない。
「そ、それよりここってどこなんでしょうね?」
「そういえば……確かにこんな場所探索中には無かったな」
よかった……いつもの雨宮だ。
よし。この機を逃してはならない。
「もしかしたら5階層より先だったりして……ってそんなわけないか」
「いや、ありえるかもしれないな。何にせよ調べてみるしかなさそうだ」
すると、何か動いたような気配がしたような気がした。
「雨宮、何か聞こえないか?」
「……確かに何か聞こえるな」
そこで俺は嫌な予感がした。
この音、まるで巨大な何かが体を起こしたような音に聞こえたからだ。
すると俺の予感を裏付けるように、部屋のあちこちで青白い炎がつき、部屋全体を照らした。
これはボス部屋特有の光景だとシルヴィアが言っていたのを今思い出す。
そしてついに部屋の最奥、巨大な何かがいる場所にも青白い炎が灯された。
それは獅子の体に首から上は鷲の頭。
背中からは巨大な翼が生え、凶悪な鉤爪が大地を踏みしめている。
これは……、
「グリフォン?」
すると完全に上体を起こしたグリフォンはこちらを見据えると咆哮をあげ、
「GYAAAAAAAAAAA!!」
数十メートルあった距離を一瞬で詰めて襲いかかってきた。
マジかよ!?