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5.投げ槍世界記録いったかな?

お久しぶりです。


ブクマ件数気づいたら50件超えてました。



ありがとうございます( ̄∀ ̄)



「危ないっ!」


そう言った瞬間、俺は雨宮に突き飛ばされていた。

俺は咄嗟に受身も取れず、無様に転げた。


「う、くっ」


顔を上げると、さっきまで俺と雨宮がいた場所には、グリフォンの鉤爪が深々と地面に突き立てられていた。


ダンジョンの地面は金属並みに硬い。

それを易々と切り裂き、クレーターまで形成するとは。

グリフォンは地面から鉤爪を抜こうと四苦八苦している。

っと、感心してる場合じゃねぇ!


「雨宮っ!大丈夫か!」

「来てはいけないっ!」


俺が駆け寄ろうとすると、雨宮が叫んだ。

返事があったことに安心すると同時に拒絶されたことにショックを受ける。

そこでグリフォンが地面から鉤爪を抜いた。

俺とグリフォンのギラギラとした目が合った。

グリフォンは微かに笑みを浮かべた気がした。

俺にはそれが死神の笑みに見えた。


「ぐっ!!」


俺が死を予感した瞬間、

グリフォンは吹き飛ばされた。


「え?」

「聖也君。ここは私に任せてくれ」


そこには槍を振りきった体勢の雨宮がいた。

雨宮は体勢を戻すとグリフォンの方に歩いていき、振り返って笑みを浮かべた。


「心配しなくていい。私は必ず帰ってくる。だから……」


雨宮は槍を握り締めると、前を向き、駆け出した。


「見守っていてくれ!私を!」

「っ!?雨宮!!」


叫び、手を伸ばすが届かない。

前方には雨宮の槍の一撃を受けてまったくダメージを受けた様子がないグリフォンが高らかに咆哮をあげている。

その目は獲物を前にした捕食者の目であった。

おそらく、グリフォンを吹き飛ばした一撃は、今雨宮が放てる最高の一撃だったのだろう。

あの時、槍を振りきった雨宮は奥歯を噛み締め、悔しそうな表情をしていたことから予想できた。

つまり。


「勝ち目が、無い…………?」


グリフォンの連撃を華麗に躱し、次々と槍を突き立てていく雨宮。

この状況を見れば、雨宮が押しているように見えるだろう。

だが、


(グリフォンの攻撃を躱しているのは見事だろう。しかしそれがまともに打ち合えば押し負けるからか?そしてあんなに攻撃を当てられているのにまったくグリフォンはこたえた様子がない。そしてこの膠着状態。一瞬でも気を抜けば、殺(や)られるのは雨宮の方!!)


この膠着状態は雨宮のとてつもない集中力によって成り立っている。

それはあたかもすこし突けば壊れてしまうシャボン玉のようなものだ。


それにおそらく雨宮には決め手がない。

これがさらに雨宮の心を焦らせているに違いない。


俺の外れて欲しいと願う予想は当たっていた。

それを裏付けるように段々と雨宮の掠り傷が増えていったのだ。


「何か、何か俺にも出来ることはないのか!」


そう叫んでも無力な俺には何もできない。

いや、


「俺にだって出来ることはあるじゃないか……」


血を流せばばおそらく相当な力が手に入るだろう。

だが、それでグリフォンに勝てるとは思えない。

やるのなら。


「腹切り」


腹切りをすれば普通に血を流すより何倍もの力を手にすることができる。

これに賭けるしかない。

そうと決まればさっさとやろう。

カットラスを抜き放ち、刃を自らに向ける。

そして刃先を腹に突き立てる!


「嘘だろ……」


寸前で刃は止まっていた。

この後に及んで出来なかったのだ俺は。

女に戦わせておいて、自分は何もできないのに。

唯一できることを放棄したのだ。

可能性を自ら捨て去った。

カラン、と音を立ててカットラスが手から滑り落ちた。

自然と頬を涙が伝って、やがて地面に染みをつくる。


「俺は、俺は……無能だ……。どうしようもなく無能だ」


久保田の言う通りだった。

所詮俺は無能者だ。

いつからこんなにも心まで弱くなってしまったのだろう。

雨宮に戦わせておいて、自分の戦いを放棄するなんて。


「俺はとんだ最低無能者だ……」


だからせめて雨宮の戦いを見守ろう。

顔を上げると、ちょうど雨宮が槍をグリフォンに奪われていた。


「っ!?しまっ!」


空中にいた雨宮は、そのまま強かにグリフォンの翼で打たれ、俺の近くまで吹き飛ばされてきた。


「雨宮!」

「来るな!」


雨宮はよろめきながらも立ち上がった。

俺は立ち止まった。

雨宮の目はまったく諦めてなかった。


「雨宮はどうしてそこまで……」

「どうしてだろうか……」


雨宮は顔を上げ、ゆっくりと歩いてくるグリフォンを睨みつけた。

その手にはどういう原理か、先ほどグリフォンに奪われ、捨てられた槍が戻ってきていた。

そして、構える。


「ただ……諦めたくはないっ!!」


その凛々しい姿はまるで……。


「…………戦乙女」


俺は思わずここが戦場だということも忘れて雨宮にみとれた。

みとれてしまった。


「GYAAAAOOO!!!」

「っ!?聖也君!!」

「……なっ!?」


だからグリフォンが突っ込んで来ていることに気づくのが遅れた。

気づいた時には巨大な鉤爪が振り下ろされていた。

しかし、それをなんとか間に入った雨宮が槍を掲げ、防御した。

だが、勢いは殺せずそのまま二人まとめて吹き飛ばされてしまった。


「がっ!」

「ぐっ!」


俺達は抱き合うように地面を転がり、止まると直ぐに前を向いた。


「ぐぅっ!!」

「雨宮!?」


だが無理な体勢でグリフォンの一撃を防いだせいか、雨宮の利き腕は力が抜けてしまったかのようにプラプラとしていた。

折れたのだ。骨が。


「くそ!動け!動いてくれ!でないと、でないと聖也君を守れない!!」


動け動けという声も虚しく、支えを失った右腕は所有者の意志にまったく答えない。

グリフォンがしっかりとした足取りで、しかしゆっくりと近づいてくる。

グリフォンは勝利を確信したようなやはり最初と変わらず捕食者の目で手負いの雨宮を真っ直ぐに見つめている。

まずはお前からだというように。


「っ!!」


それに気づいたのであろう雨宮は声の無い悲鳴を短く出す。

その肩は僅かに震えていた。


その時俺は理解した。

なんて俺は馬鹿だったのだろうと。

目の前で戦い、傷を負ったのは戦乙女なんてものじゃない。


優しくて凛々しく、美しい。

ちょっと力を持っただけの普通の少女なのだと。


なにを迷っていたのだろう。


「せ、聖也君。アイツの狙いは私だ!だから私を置いて君だけでも逃げてくれ!」


俺のために戦ってくれた少女のために。


「聖也君!早く逃げて!」


今度は俺が――――――――。


「聖也く……」



「戦う番だ!!!」



俺はわざとグリフォンと雨宮の間に立ち、グリフォンの視線を遮った。


「何を、何をしているんだ聖也君!」

「雨宮、今度は君が見守っていてくれ。大丈夫。俺が守るから」


そう言って俺は右の腰についている剥ぎ取り用のナイフを取り出し、右手で構えた。


「そんなもので敵う相手ではない!無茶だ!」


後ろから雨宮の制止の声を微笑みで返し、俺は今度こそ…………。


躊躇なくその刃を自らの腹へ突きこんだ。


「うぐっ、かはっ!」

「……え?」

「GUU……」


俺は派手に血塊を吐き出す。

事態を飲み込めていない雨宮と俺の行動を訝しむグリフォンの声が部屋に響きわたる。

それでも俺は続ける。


「まだだァああああ!!!」


そして、刺したナイフを力の限り横へ引き、腹をカッ捌いた。

口から大量の血が込み上げ、切った腹からは大量の血液が流れ出た。

激痛と流れ出る血により、意識が持っていかれそうになるが、『超再生』を使い、あえて血液のみ(・・・・)を再生させる。


絶え間なく流れ続ける血を止めることもせず、俺はしばらくして全ての傷を再生した。


「はぁはぁ……はぁ。ぬぐっ!」


しかし、直後にそれまでとは違った激痛に思わず地面に頭をこすりつけた。


(痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ)


それは身体が作り変えられていく痛みであった。

細胞単位でより強靭な肉体へ変わっていくのが実感できた。

痛みがおさまると、俺は立ち上がった。


「傷が、治ってる……?」

「GURUUU!?」


雨宮の戸惑いの声や息遣いが前よりも鋭敏になった俺の聴覚が鮮明に聞き取る。

10mほど離れた位置にいるグリフォンの獣くさい口臭が俺の鼻をつく。

地面の感触が、手を通して砂の大きさまでも伝えてくる。

口いっぱいに広がる血の味が気持ち悪い。

そして、前を向けばグリフォンの瞳と視線がぶつかった。

グリフォンが一瞬たじろいだのが分かった。

今ならあの濁った瞳の奥までをも見通せるだろう。

俺は異様に軽い体を立ち直らせ、未だに唖然としている雨宮の横に転がっている槍を拾い上げると、


「これ。借りてくね」

「あ……」


一言断ってグリフォンの方へ向く。

そしておもむろに槍を振りかぶると、槍投げのごとく力の限りそれを…………。


投げた。


俺の第六感が告げている。

アイツより俺の方が断然強いと。


投げた槍は避けようとしたグリフォンの翼を見事に貫き、背後の壁へ突き刺さっていた。



「GYAAAAA!!?」



悲鳴をあげるグリフォンを前に俺は軽くその場でジャンプをすると、まるで友人に挨拶するかのような軽い具合で言い放った。



「第2ラウンド、始めようか」






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