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始まりました!
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そのビルは、夜になると子どもの声で泣いた。
東京湾岸第七複合ビル。地上五十二階、地下六階。居住区も商業区も医療区もあり、企業向けの短期オフィスに、神祇庁認可の小さな礼拝室、亜人類対応の入居窓口、怪異市民向けの特殊設備まで揃っている。いかにも今時の箱だった。
表向きの発表は、管理AIの障害。
依頼書に書かれていた実際の理由は、座敷童型の人工怪異がビルを占拠した、というものだった。
住民は避難済み。
怪我人なし。
死人なし。
警察には通報しない。神祇庁にも知らせない。
俺はその依頼書を読んだ時点で、半分は嘘だと思った。残りの半分は、たぶんもっと悪い。
端末を持つ右手の指先が、文面の途中で一度だけ、細かく震えた。寒いわけでも、驚いたわけでもない。ときどき、こうなる。原因は自分でもよくわからない。わかろうとすると、頭のどこかが白くなって、そこで思考が途切れる。
だから、深くは考えない。震える手で、俺は机の端の煙草ケースを引き寄せた。




