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1.電車で席を譲れなかった

たまたまだった。

たまたまいつもより早く目覚め、早く家を出て、いつもより早い電車に乗った。


いつもは、それを逃したら遅刻というギリギリの電車に乗っているが、今日は3本早い電車に乗れた。

田舎なので3本早いということは、30分以上早く乗れたということだ。

  


通勤通学ラッシュにはまだ少しはやいからか、乗客はいつもより少なく所々空席が見える。

俺はドア付近の席に腰を下ろした。


毎朝座れるなら、この時間に乗るのもありだな、と考えていると、電車は駅に止まり扉が開いた。

数人の人が乗り込んできた。

その中に彼女はいた。


黒のロングヘアの清楚系お姉さん。

彼女は右手に白い杖を持っていた。

その杖を左右に振りながら床を探りつつ歩いている。

空席はまだあるが彼女はドア横の壁際で立ち止まり手すりに捕まった。


これは空席を教えてあげるべきなんだろうか?でもなんて声をかけて、どうやって空席まで案内すればいいんだ?


などと考えていると、奥の席に座っていたおばさんが立ち上がり彼女に声をかけた。

「席空いてるわよ。座る?」

「あ、ドア付近って空いてますか?」

「んードア付近ねぇ」

とおばさんはキョロキョロ周りを見渡すが、ドア付近の席は埋まっている。


今こそ俺の出番なのでは?

立ち上がれ俺、席を譲るんだ!

と尻を浮かせようとした瞬間、俺の隣に座っていたサラリーマンがここどうぞと立ち上がり、そそくさと奥の席に移動して行った。

サラリーマンが去った方向に向かってお礼を言った彼女は、おばさんに手を引かれながら俺の隣に座り、おばさんにも丁寧にお礼を言った。


笑顔で自分の席に戻って行くおばさんを見送りながら、俺は自分の勇気のなさに腹が立った。


いつもそうだ。

頭でぐるぐる考えている間にタイミングを逃し、行動に移せず終わり、後悔と情けなさだけが残る。

ほんと俺ってやつは


そんなことを思いながら隣をチラ見すると、彼女は目をつぶって下を向いていた。


寝たのかな?

てかまつ毛長っ!

肌は白く透き通っていてなんというか

うん、綺麗だ


と横顔に見入っていると、ふと彼女の目が開いた。


やば、気づかれた?

その時、ちょうど俺が降りる駅に到着し、俺はそそくさと電車を降りた。


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