第6話 部活の先輩からは逃げられない
「じゃあ、今日のメニューはここまで! みんなお疲れ様!」
「お疲れ様でーす!」
「九重くん、今日もお疲れ様。最後のリバウンド、すごく良かったわよ。ずっと見てたんだから」
「あ、瑠璃先輩! お疲れ様です! ……へへ、嬉しいです。僕、中学の時に先輩のプレーに憧れて、追いかけてこの部活に入ったんですから」
「あら、そうなの? 知らなかったわぁ、ふふ」
(……嘘。全部知ってるわよ。……あなたの癖も、視線も、全部。……ね? あぁ、思い出すだけでゾクゾクする。
あなたは、私という餌に釣られてやってきた、最高に可愛い獲物なんだから)
「ねえ、九重くん。今度の休みなんだけど、二人で――」
「セ・ン・パ〜〜〜イ!! おっ疲れ様で〜〜〜す!」
「ぬぉあ〜〜〜っ!? ……桃花、お前はいつも容赦ないな……」
「だって〜、センパイと早く話したかったんだもん! ……あ、十文字先輩もいたんですかー。どーもお疲れ様でーす」
「……ええ、お疲れ様。でも、今私と九重くんが大事な話をしていたところなの。桃花さん、少し席を外してくれる?」
「え〜? 嫌でーす。だって桃花のいないところで、センパイをたぶらかされるの迷惑なので! 十文字先輩、九重くんにベタベタしすぎですよ〜」
「……! たぶらかす? 心外ね。私は『先輩』として、後輩の九重くんを正しく導いているだけよ。九重くんも、私と話している時が一番心が休まるみたいだし……そうよね?」
「あ、えっと……それは……」
「……桃花さん。九重くんは私の後輩なの。中学時代から、彼の中には私しかいなかった。……今更、あなたみたいな新入りが入り込む余地なんて、一ミリも無いのよ」
「ち、ちょっと瑠璃先輩? 落ち着いてください……顔、怖いですよ……」
「九重くんは黙ってなさい!!」
「は、はいっ!!」
(……そうよ。あなたは私の言うことだけを聞いていればいいの。……この泥棒猫にあなたを渡すくらいなら、いっそ二度とコートに立てないようにして、私の部屋に飾っておいてあげたいくらい……)
「……ねえ、九重くん。明日、その子の連絡先、目の前で消してくれるわよね? じゃないと……私、先輩として、あなたの『教育』に本気を出さなきゃいけなくなっちゃうの。……ちゃんと、言うこと聞けるように、ね?」
『……明日、部室に一人で来なさい? 二人きりで、じっくりお話ししましょう』
――憧れていたはずの先輩の笑顔が、今は獲物を閉じ込める檻の格子に見えた。
――もう、外には出られないと告げるように。




