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瑠璃1

 「鏡よ鏡よ、鏡さん。

世界で、一番きれいなのは、だあれ?」


「レディー、それはあなたです」



 鏡の前で、くすくす笑いながら戯れる二人。

 服や下着を次々にむしり取り合い。

 息を弾ませて妖しくからみ合う、毛のない(けもの)たち。


「ほんとうは幸子の方が、好きなんでしょ?」

 男は、喉の奥で笑った。

「何言ってるの? あれには、指一本触れていないよ。

あんな、固くて冷たそうな女、全く食指が動かないな」


 そう言いながら、男は瑠璃(るり)の肉をぐちゃぐちゃにこね回した。

「ほら、こんなにきれいな身体(からだ)…柔らかくて弾力があって…濡れて熱い…最高だ、最高の女…

すべておれのものだ…おれの女だ!」


 

 世界は、乳色の熱い蒸気。

 吐息と、荒波と、めまい。




 瑠璃は、口元をゆるめた。

 古い記憶の中から、もう何度となく取り出してはしゃぶって楽しんでいる、最高の勝利の瞬間。

 いつ取り出しても、それはいささかも古びておらず、五感に鮮烈な快感を与えてくれる。



 わたしは、勝ったの。

 勝ったのよ!






「瑠璃! 

また、赤点?

いつになったら、追試って言葉を聞かずに済むんだろうねえ?」


 小柄だが均整の取れた身体に、自慢の大島紬をまとい、帯を合わせてみながら、母親は小言を言った。


 ああ、今日もまたどこかに出かけるのか。


「はあい」

 ソファに寝そべり、スナック菓子をほおばりながら、瑠璃は(なま)返事をする。



 どうせ、今言ったことも、明日には忘れているんだから。


「女の子は、器量よしが一番だよ。なまじ学問ができたら、生意気になってうっとうしがられるだけだから、勉強なんてしなくていい。ちょっと馬鹿で抜けてるくらいが、かわいがられるってもんさ」


 ついこの前は、そう言っていたくせに。



「お前は、その気になったら、すごくできるんだから。

いまはまだ、その気にならないだけだろ?

でも、そろそろその気になってもいいんじゃないかい?

いいかい、あの子になんか、引けを取るんじゃないよ!」



 あの子。あの子。

 その単語はいつも、瑠璃をいらつかせた。


 だれかに、比べられたのだろう。

 たぶん、パパに。

 瑠璃と、あいつを。



 瑠璃は、ポシェットをひっつかむと、家を飛び出した。


 むしゃくしゃしたら、街で友人と落ち合い、買い物したりFFに長居したりして、夜遅く帰る。

 親だって夜遊びを満喫しているのだから、万事OK。


 

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