第57話 瞳子さん、譲れない
あれから、久田さんとRainのやり取りを続けていた。
お互いに都合が合わず、中々食事に行けない時だった。
"瞳子さん、もうそろそろ敬語で話すの、やめてみませんか?"
ん?
"…タメ口で、話すのですか?"
"うん。じゃ俺からタメ口になるね。笑"
"えと、すみません。難しいかもです…"
前の夫は年上だった。
けど、お付き合いしてからは、心の距離も縮まり、自然とタメ口で話せるようになって行った。
久田さんとは、まだまだお互い知らない事ばかりで、とてもタメ口で話せる程心の距離は近くない。
"分かりました。"
それだけ返信があり、私はペコリと礼する柴犬のスタンプを送った。
返信はなかった。
それから、何だか久田さんのRainは投げやりな感じになった。
いい風に言うと、気を使った所が前よりもない。
悪く言うと、雑な感じ。
久しぶりだなぁ、何だろうこの気持ち。
名前はない。
このモヤモヤとした…何とも言えない気持ちは。
形を変えて、何度も経験してきたな…
自分のある言動を皮切りに、
ひとの態度が変わる。
尊重メーターは、今どんだけ上がってる?
久田さんの、私への尊重メーターは…
私が悪かったんだろう。
"もちろんいいよ!これからはため口で話すから、よろしくね!"
なーんて返せば、久田さんと今まで通り、お互いに尊重したRainのやり取りができたのかな?
先に拒否したのは、私?
でも、自分の心が伴っていないのに、相手に言われたタイミングで
急にため口で話すってのも、なんか気持ちが悪い。
というか私がため口になるタイミングを、何で相手に決められないといけないんだ?
怒りと、反省と、自己嫌悪と、悲しさと…
色んな感情がピョコピョコ出てきて、今を見失う。
もう、こんな感情になる事を私は望んでいないのに。
こんな感情がまた出てくるくらいなら…
久田さんに、今後は会えない事を伝えた。
既読はついたけど、返信はなかった。




