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5話:秒でリスポーン、妙に適温


 ――いっぽうそのころ地下迷宮の虎、龍、ミートは、巨大狼のようなモンスターに追い回されていた。



「うっひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ命の危機ィィィ!」


「喰うなら喰うでさっさっと噛めやこんちくしょぉぉぉぉお!」


「わたくしはいやです! 食べるならこっちの筋肉ゴリラとツッパリ棒のほうが歯応えタップリですからオススメしてますよ!」


「「ミートお前っ! 肉団子みたいな体型してそれはムチャあるってぇぇえ!」」


『アオーーーーーーン!』


「「「あひぃぃぃぃぃぃぃい!」」」


 おもちゃに飽きたように狼が咆哮をあげたとき、虎、龍、ミートの肉体は木っ端微塵に消え去ったのだった⋯⋯。



「「――死ぬかとおもたぁぁぁぁあああ!」」


 そして、迷宮の入り口でリスポーンした。


「あっぶねえ! 殺されるとこやった!」


「いや殺されとんやけどな!」


「ええから虎! オレの顔一発どついてくれ! ほんまに生きとんかオレ!?」


「はいやあ――ッ!」


「よっしゃ生きとるぅぅぅぅぅう!」


 頬にめりこむ右ストレートで龍が生の喜びを実感したところで、ふたりは声がひとつたりないことに気づく。


「「ミートどこいったあ――!?」」


「ここにいますけどええ」


 声がした横にふりむく、すると配給用のカレー弁当をあけて「いただきます」するミート。


「「なにしとんお前??」」


 ふたりの疑問はもっともだが。


「やけ食いですよ」


 ミートのスプーンは止まらない。


「わたくしは痛みで生を実感したりしませんので」


「なんやこいつ」


「キモすわりきっとるがな」


 感心するふたりは知らない、巨大狼に追われている途中、ミートがちょっとだけ股間を濡らしていた事実を。


「⋯⋯⋯ちべたいです」


 ミートの神秘のベール(メガネとパンツ)の奥で、ひとすじのシズクがこぼれたのだった。


「なんや、カレー冷えてもーとんか?」


「湯気たっとるのんな?」


 虎と龍は不思議そうに首をかしげながら、ミートの横にどすっと座って、自分の袋から容器を手にとる。


「なんや、落ち着いたら腹減ってきたな」


「なっ。 俺らも食うか」


 いただきます――。


「うまっ! このカレーうまっ! にしても魔法ってすげえな! ほんまにスタート地点に逆戻りやん!」


「モンスターおったなあ〜! なんやろなあの遠吠え! あったまからつま先まではしる衝撃〜のイナ〜ズマ〜やったで!」


「ちょっと物足りないですねえ。 福神漬け、もしくはラッキョウなどが欲しいところ」


 トークがとまらない。いや、まとまらない。

 思い思いに思考を口にして、カレーを口にして、興奮を語る。


「あーーーーでもや、おもろいなあこのバイト。 オレ、ええ就職先見つけた気がするわ」


「期間限定やけどな。 『招待しといてなんだけどよ、そのうち帰れよお前ら』ってそりまちさんゆっとったし」


「ありませんねえ。 ねえおふたりさん、そっちの袋に福神漬けはいってません?」


「「ふくしんづけ⋯⋯?」」


 一瞬、魔法のアイテムの名前かなにかかとポカーンとした龍と虎だったが、すぐに漬物の名前に思いあたると。


「ないで?」


「俺のほーもカレーの容器しか、ん? なんやこれ」


「カレーに、ビー玉⋯⋯?」


 虎の指先に視線が集まる。そのとき、ミートのメガネがあやしく光った。推理する名探偵のようにだ。


「⋯⋯ふむ、この世界独自の調味料でしょうかね」


 雰囲気をだしたからといって、頭がさえるわけではないのだが。


「おっなんや、メモみたいなんはいっとるで虎。 『足元にこの玉を叩きつけてください。 逃げれます』


 ⋯⋯この淡々とした感じはオイチさんやな」


「煙玉でしょうか?」


「煙幕くらいであの狼が見失うと思うか? あれは絶対鼻きくぞ」


「たしかに」


 虎は目の高さでビー玉をのぞきこむ。視界を確保できる程度に地下迷宮を照らす赤いコケが、不気味にゆがんで見えた。


「⋯⋯ま、まあ危ないもんではないやろ!」


「オレはドツボにはまりそうな予感がすんで」


「いえ、ビショー玉に危険はないでしょう」


「「ビショー玉??」」


 どっかに名前メモっとったか? いや書いてないで?――不思議がる虎と龍にミートはぼそっと。


「美少女からいただいたビー玉⋯⋯略してビショー玉⋯⋯」


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「考えるんはカレーおかわりしてからにしよか」


「そやな、弁当一個じゃたらへんわ」


「⋯⋯⋯美少女、玉」


 虎と龍はガツガツガツと配給用のカレー弁当をみっつずつペロリすると「ご存知とは思いますが、男の娘はわたくしの趣味範囲外ですので」――よくわからない補足をいれてきたミートを無視して、立ち上がるため地面に手をつく。


「ほないくか」「そやな」「すみませんね、ええ」


 ヒザを立てたふたりの胃が揺れ動くのと、地鳴りをあげた迷宮に揺さぶられたミートの手からカレーが地面にぶちまけたのは、同時のことだった。




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