第百七十五話
「問題ないな」
武器の類を持っていないことを確認できたからか、身体から銃口が離される。
依然として、銃を向けられていることは変わらないが、少し気が楽になったような気分だ。
「俺たちは元探索者だ。あんたも元同業なら分かるだろうが、勝てるとは思うなよ」
(そんな強いか?アンタ)
目の前の男達は少なくとも、レベル200超え、恐らく、客観的に見れば強いのだろうが、俺は既にレベル400を超えている。
ダンジョン探索用の装備を一切身に着けてはいない人間と、フル装備のテロリスト(元探索者)であれば、確かに後者の方が強いのかもしれないが、なんというか釈然としない。
(でも、普通に考えれば、銃器を装備したレベル200以上はかなりの脅威か)
魔法スキルの保有者というか、魔法スキルを実戦レベルで使える人間は少ない。
大抵はレアなスキルである、魔法スキルを補助的役割で使うことが多く、そんなスキルを習熟するには、相応のコストがいる。
例えば、有名なクランの中でもトップ層になる、国の精鋭部隊に入るなどしないと、なかなか魔法スキル単体で仲間のレベルに合わせるのは難しくなるし、そこには運の要素も絡んでくる。
(大人しくしてるか)
「さて、どうしようか」
「ボスの話じゃ、オークション参加者は人質に取るんだろ」
「一人ぐらい殺してもいい気もするが」
テロリストたちが話し合っているが、なんか物騒な言葉が飛び出している。
(これってまずいのか?)
変に捕縛しようにも、調整をミスして殺してしまっては不味い。
平和な時代の日本ならまだしも、今の日本では殺してもお咎めはないだろうが、精神衛生上あまりよろしくはないので、難儀である。
(距離があるならまだしも、この間合いでミスは危ないしな)
「とりあえず、二人で見張っとけ。俺は班長に指示を仰いでくる」
「了解。お前、動くなよ」
再び銃口を突き付けられ、壁に抑え込まれる。
力は大して強くはないが、この押さえつけられる感覚は非常に不愉快だ。
テロリストの一人がお手洗いを出ていき、扉がゆっくりと閉められる。
(面倒臭いな)
普段はこの命を握られる感じは直ぐに終わるのだが、人間相手だとダラダラしているので、このやり取りがなかなか終わらない。
人間はそう簡単に殺しには来ないが、その分、こういったやり取りの時間が長いのはストレスだった。
(まあ、いっか)
グダグダ考えていても、イライラが募るだけなので、気持ちを切り替え、攻撃がきた瞬間にそれ防ぐ魔術と自動的にカウンターを放つ魔術を今の間に仕込んでおく。
このレベル帯の人間であれば、魔力の流れなんかを感じ取られることもない。
正直、装備は一丁前だが、こんなことを平然としている人間に負けるつもりはさらさらなかった。
(というか、東京にはテロ対策部隊が二十はあるのを知らないのか?)
東京には対テロ特殊急襲魔法師部隊を筆頭に、いくつも特殊部隊が編成されている。
訓練の多くをダンジョン探索のレベリングに費やしており、装備は対人に特化したもの、そして周囲への影響を最小化するためのアイテムも保持しており、即殺をモットーとしていることから、こいつらでは生き残ることが難しいと思われた。
ただ、編成されている部隊数は多いものの、レベリングの重要性から、即応可能な部隊数は限定されているのはネックである。
ちなみに、やけに詳しいのは前に興味本位で見た動画の影響であった。
こいつらの将来を内心憐れんでいると、上に指示を仰いでいた一人が戻ってきた。
「殺しは無し、だそうだ。良かったな」
帰ってきた男の言葉と同時に、俺は拘束を解かれる。
その瞬間、パスっという音がほぼ同時に、複数鳴った。
「え?」
俺の困惑など関係なく、テロリストたちが一斉に倒れる。
テロリストたちを見ると、全員、眉間を撃ち抜かれており、既に事切れていた。
「大丈夫ですか」
真っ黒な装備に身を包んだ隊員が、サプレッサーを付けた銃器を下に向けながら、トイレに入ってくる。
日本が有するテロ対策部隊の登場であった。
読者の皆様、いつもありがとうございます。
実は、対テロ特殊急襲魔法師部隊は名称のみですが、第二話にて登場しております。
過去の描写でも、この世界の治安が、現代日本と比較してあまり良くないことは触れたりしていたのですが、とうとう主人公が事件に巻き込まれることとなりました。
レベル上昇によって強くなり、スキルという常識外れの能力が使えることから、人によっては犯罪に手を染めるケースが見られます。
実のところ、探索者というのがBランクから評価されるのは、そういったことも背景にあります。
今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。




