第百六十二話
あれから何度か模擬戦をし、戦闘技術を高めた後、探索者協会職員の淵田さんから聞いていた、おすすめの装備店に俺たちは足を運んでいた。
ちなみにだが、ソフィも当然連れてきている。
周りから奇異の目で見られるかと思っていたが、意外にも普通に受け入れられており、時折子供が指を指しながら、興奮して飛び跳ねたりしていた。
あと、ヴァルとソフィの距離は以外にも近くなっており、先程の模擬戦が大きな溝を作ったのかと思ったが、むしろライバル関係のようなものが構築されているようである。
「いらっしゃいませぇ」
屈強な体格の男性店員が、ドスドスと音を立てながら、こちらにやって来た。
鍛えられた肉体がスーツ越しにも伝わってくるほどであり、流石探索者協会職員おすすめの店の店員と言ったところである。
「彼女の装備全般と俺の防具を新調したいんだが」
今回は、ヴァルの装備を新調することがメインである。模擬戦では槍が活躍したので、取り回しやすいサイズの槍、細剣、大盾を全てBランク探索者仕様にする予定だ。
ついでに俺も防具をいくつか買う予定であり、あとは、東雲がソフィ用の防具をオーダーメイドできないか、聞くらしい。
「かしこまりました。では、こちらに」
店員に連れられ、俺とヴァルは槍や剣などが置かれているコーナーに案内される。
流石はおすすめされただけあって、豊富な品揃えであることが一目で分かった。
武器の系統は剣や槍など、オーソドックスなものが多く、種類そのものは少ないが、探索者のレベルに沿った性能のものが買えるようなラインナップとなっている。
中には、突飛な武器、長さは五メートルほどはありそうな槍すら置いていた。
「これって、探索で使えるんですか?」
気になってしまい、思わず店員に聞いてみると、店員は白い歯を見せながら、五メートルの槍を手に取る。周囲の物にぶつからないように配慮しつつ、軽く突きを見せてくれた。
(元探索者だな)
店員の動きのキレは、現役の探索者ほどではないものの、洗練されており、恐らく、元はBランク探索者だったと思われる。
探索者は命を懸けて、モンスターと戦い、成果をあげる職業である。
当然、命を落とすリスクもあり、再起不能な怪我をするリスクや精神的な病にかかるリスクはそれを上回っている。探索者協会が復帰ができない探索者に仕事を斡旋したりしているのは聞いたことがあった。
(俺は厳しそうだな)
元は腕の立つ探索者だったのか、動きはなかなかに良く、だからこそ、俺にとって使えるかどうかの判断もしやすい。
強化した際には問題なく振るうことができそうだが、素の腕力では力が足りていないと思われる。
「こちらの商品は、ダンジョンが草原などの広い空間であった場合、適している武器となります。空間の制約がない場合には、かなり便利な武器として扱われていますね」
試しにヴァルに持ってもらうと、そこまで軽くないのか、軽い手首のひねりで動かしていた。
(あれ、意外と重くはないのか?)
そんなことを思ってしまうほどに、ヴァルが動かした際には、重みを感じさせない。
横目でマッチョの店員を見ると、室内はちょうどよい温度であるにもかかわらず、彼の額からは汗が垂れていた。
「お客様、かなり力持ちですね」
表情には明らかに焦りと恐怖が混じっており、この槍を素の力で簡単に動かしていることが、異常であることが窺える。
「かるいけど、いまいちかな」
ヴァルは片手で巨大な槍を店員に渡し、二メートルほどの短い槍に持ち替える。
店員が巨大な槍を置いた瞬間、ヴァルは短めの槍を握りしめ、軽く振った。
(見えない)
先端が見えないほどに高速で振るわれた槍を、寸分のズレもなく、元の位置に戻しているのは、彼女だから成せるのだろう。
熟練の槍使いと見まがうほどに洗練された動きであった。
「これにする」
感触が良かったのか、ヴァルが槍を両手で握りしめて、キラキラとした目でこちらを見てくる。
「では、これで」
「かしこまりました」
店員と俺はお互いに笑顔を浮かべる。
それはヴァルのほほえましい瞳を見たからではなく、恐怖心から来る引きつった笑みであった。
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