第百五十六話
(助かったぁ)
気の抜けた俺は、地面にへたり込む。
頭の中では、先程使った【英雄剣術】についての情報が、ゆっくりと再生されていた。
【英雄剣術】、とある世界の一国の英雄の剣技を、紋様を刻むことで実際に行うことが可能となる魔術である。
国民の英雄への羨望と崇拝を利用し、実験が進められ、身体能力に応じてではあるが、施術を受けた兵士であれば、英雄の剣術が誰でも再現可能となった。
短期間で強力な兵士を作ることに成功しており、後にその国は強国として知られるようになっている。
しかし、更にこの魔術が発展していき、俺が先程使った紋様の要らない【英雄剣術】が出てくる頃には、魔術は遠距離殲滅型の術式が一般化しており、この魔術はマイナー魔術として、主として研究対象、学術的な価値しかなくなっていた。
(後に再び日の目を見ることになるんだが、そんなことはどうでもいいとして、何とか生き延びたな)
どんな人間も英雄の動きを模倣できる。
一見すると、素晴らしい魔術に見えるが、実際はそこまで容易なものではない。
この魔術は、術者の技術や経験の要素を排除して、洗練された技を使うことができるが、精鋭となるには、結局のところ【英雄剣術】を習熟する必要があるからだ。
(いったい、な)
少しずつ、現実に引き戻され始めると、これまでにない速さの剣技を無理やり放ったからか、若干肘や腕周りの筋が痛くなっている。
模倣に過ぎないため、その技による負荷というものに肉体が耐えられるのかは使ってみないと、分からない。
無理な体勢であったとしても、その技を完遂するため、【英雄剣術】という魔術の造詣が深まっていない状態で使えば、普通に怪我をしてしまうリスクがある。
この魔術は、軍人の訓練として、時間を有しかつ指導者によってムラが出やすい” 技術 ”の部分を均一的に様々なコストを使わずに、短時間で終えられることに革新性があった。
そのため、既に剣術を教えてもらっている俺とは折り合いが悪く、特別才能が秀でているわけでもないため、技を上手くつなぐこともできない。
実際、東雲との模擬戦で使っても、全く使いこなせなかった。
(こういったシチュエーションぐらいしかないよな)
俺は痛む腕を無理して動かさないようにしつつ、魔刀を地面に置く。
【英雄剣術】は既に習っている剣術とは技術体系が異なり、リズムや間合い、パターンが予測しにくいため、初見殺しの要素を持っていた。
また、無意識の状態で技が打てるため、虚をつきやすいというメリットもある。
デメリットは、【英雄剣術】の造詣が浅いため、次の動作が上手くかみ合わないことにあるが、決まらなければやられてしまう状況では関係なくなるので、今回は使った次第であった。
(マジで痛いな。でも……死ぬより、マシだ)
痛みをいなすため、ゆっくりと寝転がる。
天賦の才を持った人間の技を模倣するのだから、それは当然、身体に負荷がかかるものだ。
この魔術には技の難易度を示す深度が設定されており、今回使ったのは深度Ⅱの比較的、身体に負荷のかからない技だったが、無理やり使ったので怪我をする羽目になったのである。
(【ヒール】……なにはともあれ、勝ったな)
身体を魔術で回復させ、一度、目の前の花眼人形を見る。
両目の位置にある花は既に枯れ始めており、よく見ると魔玉も綺麗に両断していた。
(終わったか)
花眼人形戦は、俺たちの勝利で無事幕を閉じるのであった。
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