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サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


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9/22

第9話 選手という、最大にして最初の核心

 翌日。

 北島岳きたじま・たけしは、総務部の机に埋もれていた。


 火気使用許可申請。

 花火打ち上げ申請。

 臨時駐車場の使用届。

 地域住民説明会の案内文。

 安全管理計画書。


 机の上は、もはや“書類の山”ではなく“書類の壁”だった。


「キタさん、これ市役所に出すやつですよね! 期限、今日です!」


「えっ、今日!? 昨日の段階では“今週中”って……」


「“今週中”=“今日”って意味らしいです!」


「そんな日本語あるか……!」


 佐伯と山根が右往左往し、岳も右往左往し、総務部は軽いパニック状態だった。


(やばい……本当にやばい……)


 その時、内線が鳴った。


「北島さん、社長室からです」


(……またか)


 岳は書類を抱えたまま社長室へ向かった。




「失礼します」


「おぉ、来たか、たけし」


 三好大悟社長は、いつものように袖をまくり、窓の外を見ていた。


「社長、申請書が山ほどあって……その……」


「たけし」


 三好は振り返り、にやりと笑った。


「何か忘れてないか?」


「えっ……まさか、盆踊りでもやるんですか?」


「お前、テンパってるなぁ」


 三好は机の上のミカンジュースを一本、岳に差し出した。


「飲んで落ち着け」


「大丈夫です」


「大丈夫じゃない顔してるぞ」


「……すみません」


 三好は椅子に腰を下ろし、指を組んだ。


「たけし。お前、大事なこと忘れてるぞ」


「えっと……バーベキューの肉の量ですか? 花火の安全距離? 駐車場の誘導員……?」


「違う」


 三好は、わざと間を置いた。


「俺たちはサッカークラブを作ってんだよな」


「もちろんです!」


「だろ。……で、サッカークラブに不可欠なのは何だ?」


「グラウンド? 資金? それともサポーターですか?」


「おいっ」


 三好が机を軽く叩いた。


「サッカークラブだぞ。選手はどうした?」


「へっ?」


「選手がいなくてサッカークラブができるのか?」


 岳は固まった。


 完全に固まった。


(……選手……)


 頭の中で、草刈りの映像、BBQの準備、花火の申請、駐車場の図面がぐるぐる回る。


 そのどこにも、“選手”という単語はなかった。


「……忘れてました」


「だろうな」


 三好は笑った。


「たけし。クラブってのはな、グラウンドより先に“人”だ。選手、監督、スタッフ。まずはそこからだ」


「は、はい……」


「で、どうする?」


「どうするって……」


「選手を集めるんだよ」


 岳は、思わず椅子に深く座り込んだ。


(選手……どうやって……?)


 プロでもない。

 アマチュアでもない。

 そもそもクラブの知名度ゼロ。


「社長……そんな簡単に集まるんですか?」


「簡単じゃない。だから面白いんだ」


 三好は立ち上がり、窓の外を指さした。


「宇和島にはな、サッカーが好きなやつが必ずいる。

 高校生、大学生、社会人、帰ってきた元選手……探せば山ほどおる」


「でも、どうやって……」


「まずは“募集”だ。堂々と、派手に、熱くな」


「募集……」


「そうだ。市内の高校、大学、社会人チーム、スポーツ少年団。全部回れ」


「全部……!?」


「全部だ」


 三好は、当然のように言った。


「たけし。お前は“代表”だ。選手を探すのは、お前の仕事だ」


 岳は、深く息を吸った。


(選手……選手か……)


 草刈りよりも、BBQよりも、花火よりも、

 “クラブの根幹”に関わる仕事。


 逃げられない。


「……分かりました」


 三好が笑った。


「よし。まずは宇和島商業高校だ。あそこの監督は頑固だが、悪い人じゃない」


「宇和島商業…」


「それから、宇和島南、吉田、三間、津島。全部回れ」


「ぜ、全部……」


「たけし」


 三好は、真剣な目で言った。


「選手が集まらなきゃ、クラブは始まらん。お前の言葉で、未来の選手を口説いてこい」


 岳は、拳を握った。


(……やるしかない)


「分かりました。行ってきます」


「よし。たけし」


 三好は、にやりと笑った。


「お前、今ちょっと“代表の顔”してるぞ」


 岳は照れくさく笑い、社長室を出た。


 廊下に出た瞬間、胸の奥に新しい熱が灯った。


(選手を……集める)


 それは、クラブ創設の“第二の壁”であり、

 同時に――


(……なんか、ワクワクしてきたな)


 岳は、初めて“代表としての使命”を実感していた。


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