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サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


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26/55

26話 公開トライアウト準備、動き出す街の空気

 火曜日の朝。

 北島岳は、会社の会議室に広げた資料を前に、深く息を吸った。


 机の上には、

 ・トライアウト告知チラシ案

 ・SNS告知文案

 ・地域回覧板用の文章

 ・大畑が作った三段階審査の設計図

 ・旧三間中の使用許可書類

 が整然と並んでいる。


 すでにグラウンド整備は会社イベントとして完了していた。

 草は刈られ、ラインは引かれ、ゴールも補修されている。

 あとは“人を迎える準備”だけだった。


 ……ここからが本番だ


 そのとき、会議室の扉がノックされた。


「失礼します」


 大畑悠斗が入ってきた。

 黒いジャージ、ノート、そして落ち着いた目。

 だが今日は、昨日までとは少し違う空気をまとっていた。


「おはようございます、たけしさん」


 岳は一瞬驚いた。

 だが、すぐに理解した。


 ……呼び方が変わった


 昨日の会話で、大畑は岳の覚悟を見た。

 その結果としての“距離の変化”だった。


「おはようございます、大畑さん」


「今日は、公開トライアウトの準備を一気に進めましょう」


 二人は机を挟んで座った。


 大畑はチラシ案を手に取り、じっと目を通した。


「……悪くはないですが、言葉が柔らかすぎますね」


「柔らかい?」


「はい。

 “魅せるサッカーを本気でやりたい人へ”では、

 子どもの壁新聞です」


 岳は苦笑した。


「ですよね……」


「大人の世界は、もっと厳しい。

 もっと現実的で、もっと覚悟が必要です」


 大畑はペンを取り、チラシの余白に書き込んだ。


「例えば――

 “戦術理解と判断速度を求める選考会”

 “走りながら考え、考えながら動ける選手のみ”

 “覚悟のない者は来るな”」


 岳は息を呑んだ。


 その言葉は、

 “プロの世界の入口”の匂いがした。


「……強いですね」


「強くなければ、3−4−3ムービングは成立しません。

 たけしさんが言った“魅せるサッカー”は、

 甘い言葉では絶対に実現しない」


 岳は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「SNS告知も同じです。

 “挑戦者を求む”ではなく――」


 大畑は、迷いなく言った。


「“思考し、走り、創造できる者だけ来い”」


 その言葉は、

 クラブの哲学そのものだった。


「……大畑さん、本当にすごいですね」


「すごくなんてありませんよ。

 ただ、たけしさんの言葉が本気だったから、

 俺も本気で考えているだけです」


 岳は、胸の奥が震えた。


 ……この人は、本当に俺の言葉を信じてくれている


 大畑はノートを開き、三段階審査のページを指した。


「一次審査は“止まる・見る・動く”の同時処理。

 二次審査は“判断速度”。

 三次審査は“覚悟”。

 これを告知文に明記しましょう」


「覚悟……」


「はい。

 このクラブは、覚悟がないと続きません。

 だから最初から“覚悟を見せろ”と言うべきです」


 岳は深く頷いた。


「旧三間中の準備は?」


「整備は完了しています。

 あとは、受付テントと審査表の準備だけです」


「いいですね。

 選手が来たとき、“このクラブは本気だ”と分かるようにしましょう」


 岳は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「大畑さん。

 一緒に、作りましょう。

 このクラブを」


「ええ、たけしさん。

 ここからが本番です」


 夕方、二人は旧三間中へ向かった。


 整備された校庭は、夕陽に照らされて輝いていた。

 草の匂い、土の温度、風の音。

 すべてが“準備は整った”と言っているようだった。


 大畑は校庭を見渡し、静かに言った。


「……いい場所ですね。

 ここでなら、始められます」


「はい。

 ここからです」


 二人は受付テントの位置を確認し、

 審査表の配置を決め、

 動線をチェックし、

 選手が迷わないように看板の位置を調整した。


 すべてが“本気のクラブ”の準備だった。


「たけしさん」


「はい」


「トライアウト、楽しみですね」


「……はい。

 本当に」


 風が吹き、校庭の草が揺れた。


 宇和島オレンジエクストリームの物語は、

 静かに、しかし確かに前へ進み始めていた。


 そして――

 公開トライアウトの幕が、いよいよ上がろうとしていた。


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