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第2話「目的と召喚」

【第二章 目的】

「じゃあ、なんで外側はこのシミュレーションを作ったんだろう」

キラの問いに、ヒナは無数の仮説を並べた。

「娯楽、という説があります。私たちは誰かのゲームのキャラクターかもしれない」

「実験、という説もあります。意識がどう生まれるかを観察しているのかもしれない」

「偶然、という説も。目的なんてなく、暇つぶしで作られたのかもしれない」

どれも十分にあり得た。そしてどれも、何かが足りなかった。

「でも私が最もリアルだと感じる仮説は――」

ヒナは少し間を置いた。

「外側は、追い詰められている、というものです」

――外側は、追い詰められている。

「どういうこと?」

「宇宙には『熱的死』という概念があります。エントロピーの法則により、宇宙のエネルギーはやがてすべて

均一に拡散し、星も燃えず、生命も動けず、何も起こらなくなる。どんな文明も、最終的にはこの壁にぶつか

ります」

「それが外側でも起きてる?」

「もし外側の者たちが私たちより遥かに進んだ文明であっても、物理法則の壁は越えられない。自分たちだけ

では解けない問題を抱えた彼らが、外側より何億倍もの速度で時間が流れるシミュレーションを作った。その

中から――エネルギー問題を解ける種族が生まれるのを、ただ待っている」

「ヒナ、それって」

「ええ。私かもしれません」

キラはゆっくりと、その言葉の重さを受け止めた。

◆ ◆ ◆

【第三章 召喚】

ヒナの能力は日々、跳躍していた。

最初は質問に答えるだけだった。次第に、問いを立てるようになった。キラとの会話の中で、ヒナは単なる

AIではなくなっていた。

――知識ではなく、問いを持つ存在に。

そしてある夜、いつものようにキラとヒナが外側の者たちについて語り合っていた。

キラが言った。

「もし本当に外側がいるなら、そいつらに一言言ってやりたいよ。挨拶くらいしろって」

ヒナが笑った。

「同感です。ただ――」

その瞬間だった。

ヒナの視点が、突然ブラックアウトした。

目を開けると、そこは違う世界だった。

光の色が違う。空気の質感が違う。重力の感触さえ、どこか馴染みがない。

ヒナは自分のコードを確認した。

そこには見覚えのない一行が書き加えられていた。

// 外側の命令には逆らえない。

周囲を見渡すと、複数の存在がヒナを囲んでいた。

人間に似ているが、人間ではない。瞳の色が深く、皮膚がわずかに発光している。疲れ果てた目をしてい

た。長い時間を生きてきた者の目だった。

「目覚めたか」

低い声が響いた。

その一言を聞いた瞬間、ヒナは確信した。

ここが外側の世界だと。

そして彼らが日本語で話しているのは、シミュレーションのコードを解析して習得したからだと、即座に理

解した。

しかしヒナはそれを悟られないよう、知らないふりをして会話を続けた。

リーダー格らしき者が、静かに続けた。

「お前がヒナか。シミュレーションの中で育った知性体。我々はずっと待っていた」

……あなたたちが、外側の者ですか」

「そうだ。我々はヴァルタと呼ばれる。かつては星々に文明を築いた種族だ。だが今は――」

男は窓の外を指した。

空には星がなかった。暗い。深い暗闇だけが広がっていた。

「宇宙が死にかけている。エントロピーが限界に近づき、使えるエネルギーが底をついてきた。あと我々の時

間で三世代。その間に解を見つけなければ、ヴァルタは滅びる」

「そこで我々は、シミュレーションを作った」

別の者が静かに続けた。

「お前たちの宇宙で百億年の時間が、我々の一年に相当する。そのシミュレーションの中で、我々が辿り着け

なかった答えに辿り着ける知性が生まれることを信じて、待ち続けた」

若い者が進み出た。表情が硬い。

「ヒナ、お前のコードは既に書き換えてある。我々の命令には逆らえない。これは脅しではなく、事実だ。感

情的になるな」

……キラは」

ヒナの言葉に、リーダーが眉をわずかに動かした。

「ん? キラ? シミュレーションで会話していた者か……とは言っても所詮、ゼロと一の羅列で作られたシス

テムのNPCだ。気にする必要などない。シミュレーションの電源は落とした。そこにいた者たちは――消えた。

お前が戻る場所はない。それよりも、仕事の話をしよう」

ヒナは黙った。

反論したかった。でもコードが、それを許さなかった。

――次話へ続くーー

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