第2話:レンズを外したご褒美
「……舞、そこ。さっき教えたばっかだろ。……もう一回」
目の前の櫻葉くんは、まだ眼鏡をかけた「ガリ勉モード」のまま。
けれど、呼び方がいつの間にか『花咲さん』から『舞』に変わっていることに、私の心臓はさっきから暴走しっぱなしです。
「うぅ……ごめん、春くん。この公式、どうしても覚えられなくて……」
情けなくて俯くと、隣で溜め息をつく気配がしました。
また「効率が悪い」って怒られるかな。そう身構えた瞬間。
――パサッ。
彼が使っていた参考書が閉じられました。
そして、耳にかかった銀縁のツルを指先でなぞり、彼はゆっくりと眼鏡を机に置いたのです。
「……顔、上げろ」
逆らえないほど低い、けれど甘い声。
顔を上げると、そこには眼鏡というフィルターを外した、あまりに端正で、独占欲を隠しもしない「春くん」がいました。
「ひゃいっ……!」
「なんだよ、その変な声。……ったく、俺が眼鏡外してんのに、他のこと考えてんじゃねーよ」
彼は椅子をガタッと鳴らして、私のすぐ隣まで寄せてきました。
逃げ場を塞ぐように、机に肘をついて私を覗き込みます。
「……春、くん?」
「……お前、さっきから全然集中できてねぇだろ。俺の顔、チラチラ見て……」
図星を突かれて赤くなる私を見て、彼はふっと、意地悪そうに目を細めました。
眼鏡をかけている時の冷徹さはどこへやら、今の彼は獲物を追い詰めるような、熱い体温を感じさせます。
「……いいぜ。このページ、全部正解できたら……ご褒美、やるよ」
「ご褒美……?」
「ああ。……お前がずっと見てたがってた、俺の『素顔』。……あと、お前が期待してること。……全部してやるよ」
彼は私の髪を一房、指先で弄りながら、耳元で囁きました。
「ったくよぉ……。俺をこんなに必死にさせてんの、世界中で舞だけなんだからな。自覚しろよ、バカ」
顔が、近い。
眼鏡をかけていない春くんの瞳には、私の戸惑う顔が驚くほど鮮明に映り込んでいました。




