98 ふわりふわり
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
アリアドネは中庭の地面から離れ、ふわりふわりと上昇していく。
低木の高さを超えると皇宮の建物が目に入る。もう一度確認してみたが、外壁には傷一つなかった。
(あの鳥は幻だったのかしら。でも、幻にしてはしっかりと見えていたわよね~)
身体がないため、今の彼女は首を傾げることも出来ない。
(人って、死ぬとこうなるのね・・・)
アリアドネが自虐的なことをボヤいていると、視界に銀狼のライナスが飛び込んで来る。
銀狼は鼻先を天に突き上げて、清らかな声で歌をうたっていた。
(やっぱり、この歌声はライナス殿下だったのね。とても美しい旋律だわ・・・)
彼の側に行きたい。―――アリアドネは前方に移動してみようとした。だが、上手く行かない・・・。
(浮くことは出来たけど、行きたい方向に移動する方法が分からないわ!)
アリアドネは焦る。上昇は止まらない。今は皇宮の二階くらいの高さを浮遊しているが、このままだと天に昇ってしまう。
(皇宮から離れたら、もう、ライナス殿下ともお別れなのね・・・)
彼女は急に悲しくなってくる。
森で出会った銀狼の正体は心優しい男性だった。
彼はアリアドネを長年苦しめていたクロ―シェ伯爵家の悪事を暴き、彼女を自由にしてくれたのである。
そして、隣国の祖父母と面会する段取りも整えてくれた。残念ながら、土砂崩れの発生というトラブルで、隣国には辿り着けなかったが・・・。
(土砂崩れの際に私の魔法属性を知ったライナス殿下は、私の今後を心配して、求婚までして下さって・・・。私もようやく、彼の婚約者になるという決意をしたのに・・・。―――こんな形で死んでしまって、ごめんなさ・・・)
――――バチン!
アリアドネは突然、強い衝撃を受ける。
「アリア!!! そこにいるのか!」
大声を上げたのはライナスだった。アリアドネはハッとする。
(う、うそ!? ライナス殿下、私に気付いたの!?)
「賢者ゴール!!! アリアを見つけたぞ~!」
今度は建物の方に向かって叫ぶ、ライナス。
(賢者ゴール?)
返事を待ち切れないのか、ライナスは噴水の周りをグルグルと走り回る。
(ライナス殿下・・・)
アリアドネはライナスが取り乱している様子を見ていることしか出来ない。
(ああ~、あんなに走って・・・。今すぐライナス殿下のところにいって、ギュッと抱きしめてあげたい)
「皇子~~!! お嬢のいる場所を見なされ!!」
賢者ゴールはアリアドネの私室の窓から顔を出し、彼に指示を出した。
「分かった!」
ライナスは賢者ゴールに返事をすると、皇宮の結界に触れているアリアドネの魂に目を向ける。
(ライナス殿下がこっちを見てる・・・)
「よし、見たぞ!」
「しばらく、そのままでいて下され!!」
賢者ゴールは懐から小さなガラス瓶をひとつ取り出し、呪文を唱え始める。刹那、アリアドネは何か強い力に引っ張られるような感覚がして・・・。
――――再び、意識を失った。
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