97 聖なる歌
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ポタリ。
―――葉先から一粒のしずくが滑り落ちる。
赤黒い閃光を受けたアリアドネの身体は濡れた草の上に横たわっていた。
(これはいったい、どういう・・・)
実体のない何かに化してしまったアリアドネは困惑しながら、自分の身体を見つめる。
程なく、現れたミアたちによって、アリアドネの身体はどこかに持って行かれてしまった。
実体のないアリアドネには目もくれずに・・・。
彼女は絶望した。
私は死んでしまったのかも知れない・・・と。
♢♢♢♢♢♢♢
賢者ゴールから、聖なる歌で皇宮の穢れを祓うようにと命じられた、ライナス。
彼は中庭の中心にある噴水の前に立った。
もちろん、銀狼の姿で。
ここは皇宮のへそ、もとい皇宮の敷地のど真ん中に位置しているため、効率よく浄化作業が出来そうだ。
「アリア、どうか無事でいてくれ。私が必ず見つけ出すから・・・」
ライナスは大きな深呼吸を数回して、呼吸を整える。
そして、清水のように澄んだ声で、空に向かって歌い始めた。
聖なる歌は女神の深い愛情を伝える。
銀狼の歌を初めて聞いた皇宮の人々は、理解出来ないはずの女神の言の葉に心を揺さぶられ、目から涙を溢す。
♢♢♢♢♢♢♢
ライナスの浄化作業に先立ち、皇帝は己の中にある聖なる力を限界まで放出して、皇宮に強力な結界を張った。
「これで、塵ひとつ、皇宮の結界を超えることは出来ない・・・」
力尽きた皇帝はその場に崩れ落ちる。
皇帝の補佐官ジャミールともう一人の側近、バモス将軍は慌てて彼に駆け寄った。
「陛下!」
ジャミールの呼びかけに皇帝は手を上げて答える。
「しばらく横になられた方が良いでしょう」
バモスは皇帝を軽々と抱き上げ、皇帝の私室へ向かう。
ライナスの歌声が聞こえてきたのは皇帝がベッドに横になった時だった。
「いいタイミングですね」
ジャミールは皇帝にブランケットを掛けながら語り掛ける。皇帝は小さく頷いて、まぶたを閉じた。
♢♢♢♢♢♢♢
実体のない状態のアリアドネにも聖なる歌声が届く。
美しい調べは感情を揺さ振って来るが、今の彼女には流す涙が無かった。
(この歌をうたっているのは、もしかして、ライナス殿下? でも、どうして・・・?)
穢れを浄化する方法をアリアドネは知らない。
だから、彼が歌をうたっている理由が分からなかった。
(この歌声の方に近づいて行ったら・・・、殿下は私に気付いてくれるかしら。―――だけど、どうやって移動したらいいの?)
実体のないアリアドネには手足のようなものがない。だから、ここでじっとしているのである。
(そもそも、一人で勝手に鳥を探しに行ったのが失敗だったのよ。ミアと一緒に行動していればこんなことにはならなかったもの。あ~、みんなを心配させてしまうようなことばかりしてしまう。―――って、鳥!)
アリアドネはピンと閃いた!
(鳥のように空を飛んで移動したらいいのではないかしら)
彼女は草と草の間から、空に向かって上昇していく場面を想像してみる。
すると・・・。
(浮いた!!)
実体のないアリアドネの視野がゆっくりと広がっていく。
草に囲まれた場所から、低木の横を通り過ぎて、その上へ。
そして・・・。
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