70 フラッシュバック 1
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「アリアドネ様、私は皇帝執務室所属の補佐官のジャミール・バルハラードと申します」
ライナスが側近に呼ばれて席を外した僅かな時間に、ライトブラウンの髪を肩口で束ねている男性がアリアドネの部屋に現れた。年齢は三十代後半から四十代くらいに見える。
彼が羽織っている織の美しいジャケットにアリアドネは目を惹かれた。
(このお方、とてもお洒落だわ~。陛下の執務室付の補佐官ということは、陛下の側近ということよね? だけど、どうして爵位を口にしなかったのかしら、もしかして、貴族ではない・・・?)
相手の正体が掴めないまま、アリアドネは椅子から立ちあがって挨拶をする。
「初めまして、アリアドネ・・・です」
相手に合わせて、名前だけにしておいた。―――と、ここで、ミアが横から口を挟む。
「バルハラード公爵閣下、先触れなしのご訪問は困ります!」
ミアは相手が公爵だろうとお構いなしだ。
(このお方は公爵さまだったのね! ミア、さりげなく教えてくれてありがとう~!)
アリアドネはミアの配慮に感謝する。
「侍女殿、私もこの状況が失礼なことだというのは十分承知している。だが、陛下から今すぐに行ってこいといわれたら・・・、断れないだろう?」
ジャミールは人差し指を目元へ当てて、泣くような仕草をした。どうやら『私も被害者なのだ』と伝えたいらしい。
―――しかし、その手はミアには通じなかった。
「言い訳は結構です。ルールを守れないのでしたら、次回は追い出します」
ビシッと言い返されて、ジャミールは一歩、後退る。
「いや~、良い侍女をお持ちだね、アリアドネ嬢」
(この誉め言葉は・・・、素直に受け止めていいのかしら?)
「閣下、アリアドネ嬢ではなく、アリアドネ様とお呼び下さい」
ミアの攻撃は止まらない。アリアドネは返事をするタイミングを失う。
「あ~、いや、アリアドネ様、失礼いたしました。また、先触れなしの訪問となったことも、どうぞお許しください。私は陛下からの手紙をあなたへ渡すためにここへ来たのです」
ジャミールは懐から手紙を取り出して、アリアドネの前に差し出した。
彼女は両手をきれいに揃え、優雅な所作で受け取る。
(封蝋付きのお手紙!? 一体、何が書かれているのかしら・・・)
「陛下から、お返事を貰ってくるようにと命じられておりますので、申し訳ございませんが、今すぐに目を通していただけませんか?」
「分かりました。少々お待ちください」
「はい」
アリアドネはジャミールに了解を貰うと、いつも刺繍をしている机に移動した。
赤い封蝋の面を上にして机に置き、引き出しを開けてペーパーナイフを取り出す。そして、封筒を傷つけないように気を付けながら、丁寧に封蝋を外していく。
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