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14-4

山本は滅多な事情がない限り、昼間に出歩いたりしない人間だ。


公安所属の蘇野原に急遽防犯カメラの追跡を依頼され、いつものごとく、俊敏にターゲットを追った。

しかしターゲットは追跡に時間を要すルートばかりを利用し、遂には防犯カメラの設置が少ないエリアから姿をくらませた。


山本は、舐めてかかって敗北を味わった気分だった。

もちろん本当に舐めた態度で臨んだわけではない。

いつもの調子で追跡した結果、負けたのだ。


普段は大人しく受け身な性格であるが、今回の件に責任を感じたのか、山本はマイロたちを呼び出し、自身の口で詳細を説明した。


「これは俺の推測だが、清掃員に扮した犯人は清掃用具入れの中に眠らせた艶端長官を放り込み、キャリーバッグへ移した後、迷うことなく都内から脱出した。足取りから、防犯カメラを極力避けて追跡し難くしている。都内からの脱出にかける時間ロスもほとんど無いし、プロの犯行だ」


レモンスカッッシュをストローでかき回すと、底からレモンが浮かび上がりグラスのフチまでたどり着いた。

グラスのフチに触れる山本のネイルアートに目がいくと、レモンはいつの間にか背景になっていた。



一行は公園の様子を窺った後、追跡が困難と判断され後藤より戻るよう命令された。

つまり、国家総合事務局は本日の任務から解放されたのだ。

藤原以外のメンバーは不甲斐ない気持ちで霞ヶ関へ帰宅することとなったが、その帰り道で班長のスマホがなり、山本に呼び出されたのだ。



「上の連中は大騒ぎだ。脅迫まがいの連絡は現時点でないみたいだから、事件性は無いという口実で、しばらく公表はしないそうだ。冷徹魔女の失踪がマスコミの耳にでも入ったら、政府のダメージは大きいだろうな」

ケイは周囲を気にしつつ、驚くほど小さな声で話した。

普段からこのボリュームでも良いのに、と明人は心の奥底で呟いた。


「この団体、知っているか」

可憐な風貌から低い声が発せられると、一行は差し出されたPC端末に目をやった。


山本が示した画面には、死刑制度を訴える組織が映っていた。

灯凜は軽く頷くと、静かにため息をついた。


「ドーナツ事件の際、デモを起こしたオリーバ・デ・ラ・フォルトゥーナですよね?」

陽臣が答えた。


「そうだ。長官を罷免させようと必死になって、当時メディアによく出ていた団体“オリーバ・デ・ラ・フォルトゥーナ“だ。結局はオリーバが騒いでいただけで、艶端長官が罷免されることはなかったが」

山本が長い爪で2回机を叩いた。


「この連中に接触してみないか?何か手掛かりが掴めるかもしれない」

「山本さん、正気っすか?ヤツら何しでかすか分からない連中っすよ。それに、俺たちの立場で近づくのは、社会的にもアウトっすよ」

慌てふためく様子のケイだが、似合わない小声のせいで、明人にはふざけているようにしか聞こえなかった。


「俺に接触している時点でそれはないだろケイくん。それに、お宅の部局は痒いところに手が届く仕事をするために存在するんじゃないのか?」

山本はマイロに向けてアンニュイに微笑んだ。

マイロは山本を直視せず、その代わり深く呼吸をしてみせた。


「山本さんにここまで協力頂いているわけだし、私たちでやれることはやりましょうよ。グレーな業務にはもう慣れてきましたし、今回の件、皆さんも不完全燃焼な気持ちでいますよね?」

灯凜が賛成の意を、言葉以上に目で示した。

明人は灯凜の手元にあるアイスココアが実はアルコール入りなのではと疑いつつ、うつむき加減の状態で周囲の様子を窺った。


ケイは渋る表情で腕組みをしているが、陽臣は前のめりに拳を握り、目を輝かせている。

思いの外、野希羽まで賛成の意を示すかのように、山本を真っ直ぐに見つめている。

そして野希羽にしては珍しく、山本に向けて微笑みを浮かべている。

まるで以前からの知り合いのようだ。


明人はどちら側の意見を尊重すべきか決めかね、自身のアイスコーヒーの結露をひたすら見つめていた。

そのうち、目の前に座るマイロの顔が視界に入った。

無表情、微笑とも言い難い表情でこちらを見ていることに気がつく。


「・・・山本さん、話の続きをしてください」

明人が一言つぶやいた。

つぶやいた瞬間に、我に帰る気持ちに襲われた。

見透かされた心を隠すようにアイスコーヒーを一気飲みしたが、それより先に心の声が漏れてしまった。

心の声を誘導した張本人を睨むように一瞥したが、当の本人はすでに山本の話に耳を傾けていた。


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