69.「個性って難しいね」
リナを連れて食堂に戻ると、レイラとイオリは気まずそうに絶妙な距離感を保っていた。
「お嬢……これ、どうしたらいいんスかね……?」
ゴードンも声をかけづらいのか、三人が三人とも微妙な間合いのまま、話題を切り出しかねている。
「う、あ……えっとぉ……」
「あ……その……────」
レイラちゃんに至っては、マイクを装着したはずなのに、以前のように声が小さくなりすぎている。何を言っているのか全然わからない。
「失礼。『いいお天気ですね……? あ、外……雷雨だね……』と言っておられる」
エドマンド、細かい翻訳ありがとう。
そうだね。窓の外はずっと雷雨だよ。「客人」視点だとそんなことないんだけど、館の住人になっちゃうと外に出られないしね……
「雷雨イイじゃん。テンション上がるし」
リナがなんか言ってる。
「僕は霧の方が好きかな。レディ、君はどうだい?」
アルバートはここぞとばかりにわたしに話題を振ってくる。っていうかいつの間に隣に立ったの? 怖いんだけど。
「とにかく! まずは『這い寄る☆ナイトメア』の新メンバーを紹介しますわよ」
「え、新メンバーになるとか言ってな」
「リナ、彼女がジョウジマイオリさんですわ」
「え、ちょ、聞いて?」
イオリは慌てているみたいだけど、仕方ないじゃん。
この方向性以外でバッドエンドを回避できる気がしないんだから。
「あなたならできますわ。胸を張ってくださいまし」
「……! チェルシー……」
あれ。なんか今、目の中にハートが見えたような。気のせいかな?
「……素晴らしい。やはり僕の目に狂いはなかった……魅力的な食材は多ければ多いほど、味わいが増す」
「テメェを鍋にぶち込んでじっくりコトコト煮込んでやろうか、ぁあ゛?」
「……ふぅ。君にしてはやるじゃないか」
「興奮してんじゃねぇぇぇえええええ」
隣でアルバートとゴードンがやかましい。
アルバートはゴードンの手には負えないかもだけど、あんまり酷くなったらエドマンドが斬り捨ててくれるだろうし、何とかなるか。
「チェルシー……わかった。いお、頑張る。何があっても、どんな時でも、いおは友達の味方。……だし?」
イオリの視線が、なんだか熱いし重たい。
最後取ってつけたようにギャル要素思い出さなくていいんだよ。
そんなのなくても、もうだいぶキャラ濃くなってるし。
「ちょ……まずいって、これはホントにヤバいよチェルチェル!」
「な、何がですの……?」
なぜか急に騒ぎ出すリナ。
まさか、リナも「怪異喰」の正体に気が付いて……!?
「アタシとキャラ被ってんじゃんっ!!!!」
…………。
そう……かなぁ……?