1
無駄だと分かりつつ頬を抓ってみる。痛い。やっぱり夢じゃないか。となると、あのチケットは本物だったって事だ。
原理とかはおいておくとしても何で俺なんだろうな。こんなおっさんよりも生命力に溢れた若者を選べばよかったのに。いや、俺も世間からすればまだまだ若造だけど。
まぁ、いいや。実際に来てしまったのは俺なんだから、それをうだうだと言っても仕方がない。まずは諸々の確認から。
さっきから座ったまま考えているが、特に体に変化はない。空気は問題なさそうだ。後々に何かしらの変化があるかもしれないけど。
地面に転がっていた小石を拾ってみる。触り心地は地球のモノと変わらない。握ってみても潰れない。軽く上に放るとちゃんと落ちてきた。
詳しい事は分からないが物理法則も極端に違う訳ではなさそうだ。今すぐ確かめられるのはこれぐらい…か。後は思いついた時にやればいいか。
さて、次の問題は…この『刀』だ。刀が俺の目の前に転がっていた。普通は森の中に落ちている様なモノではない。必然、俺のモノとなる。
でも、俺はこんなものを持っていた記憶はない。銃刀法違反で捕まりそうだし。俺が持ってきた訳でもないなら何であるんだ?
そう言えばチケットに書いてあった気がする。確か、武器に変わるとかなんとか。チケットがこの刀に変わったって事か。
もう、驚くのも疲れた。あるがままを受け入れよう。取り敢えず、武器が手に入って良かった。刀なんて人生で1度も握ったことないけど、無いよりマシでしょ。
刀を拾い上げる。重っ…え、想像していた以上に重い。漫画とかでは軽々と振っていたから軽いものだとばかり思っていた。
片手で持てない事もないけど、持つだけで精一杯だ。この状態で刀を振ろうものなら体も振り回されるに違いない。
鞘から抜いてみる。陽の光を反射する程に綺麗な刀身が現れた。美術品として飾られていてもおかしくない美しさだ。
これを汚すのは憚られるがこの状況じゃそうも言っていられない。一先ず、すぐには使わないので鞘に戻しておく。
「いったぁ!!」
周りを探索しようと立ち上がった瞬間、足に激痛が走った。土踏まずの所に小石が刺さった。いってぇ…シャレになってない。
ここに来る前は部屋にいたから素足なのは当たり前なんだけど、靴を履かせるぐらいしてくれよ。神様よぉ!!気ぃ利かせろ!おい!
今度こそ地面に気を付けて立ち上がった。さて、森で遭難した時は下手に動かない方が良いんだっけ?それは捜索される事が前提にあるか。
知り合いがいるはずのないこの世界では頼れるのは己のみ。適当に歩くか。いつか人の手が加えられた道に出られるだろ。ここが人の立ち入らない森とかではない限りは。
あぁ…そうだったらどうしよう。もしそうなら、この森でサバイバルをしないといけない。こんな事になるならサバイバルの知識を仕入れておけばよかった。
異世界に放り出されるなんて想像はしても想定はしていなかった。普通に暮らしていたら想定なんて出来る訳ないけど。