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12月5日 ~歩きお遍路30日目~

本日午前5時に起床。

お遍路してから、本当に起きるのが早くなった。

干していた服は、見事に全部乾いていた。

流石ヒーター。

よくやった。


生乾きの不快な思いをすることなく、そして気持ち良く5時30分に出発した。

今日は60番横峰寺、61番香園寺、62番宝寿寺、63番吉祥寺、64番前神寺、計5つのお寺に向かう予定。

俺が昨日スルーした分そのまんまだ。


64番の近くにある宿から60番へ行くので遠回りになってしまうが、電車を使った代償だと思えば精神的に打撃を受けるってことはない。

だが、60番は愛媛県で1番難所の山にあると呼ばれているらしい。

もちろん地獄の焼山寺程鬼畜でもないけど、登山ルートで登ろうとする分にはキツイらしい。

そう、登山ルートで行けば、だ。


この横峰寺は複数のルートがあって、車で登れるルートもある。

坂の道路を登っていくのだ。

斜面がキツイし距離的に登山ルートより遠回りとはいえ、足場の環境が真っ平らに近くなるため、どう考えたって足の負担が少ないのである。

俺はとっくのとうに過酷な登山ルートで行くプライドを捨てている。

楽なら俺はそっちを選ぶぜ!!

ということで、坂の道路をひたすら登っていく。

看板を見ると、麓からお寺まで17キロらしい。


うーん。

やっぱ遠いな。

でも、体力の消耗は少ない。

散々登山してきたからだろう。

登り道に足が慣れてしまった。

道路もそんなに狭くない。

歩道はないが、車とすれ違ってヒヤッとする場面はほとんど無い。

1回だけ10分の休憩を取って、スイスイと横峰寺に到着してしまった。

やっぱ車道は楽やわ~。


肝心の横峰寺は、あんまり感想がない。

高度の高い場所にある寺へ来ても、ここまできた達成感を感じるだけで、寺の景観や御本尊を褒める気にはなれない。

それだけでは、俺の心は動いてくれないのです。


山門くぐって、手と口を清めて、本堂と大師堂を拝んで、納経してもらって、さっさと出発した。

61番寺に向けて下山だ。

次の61番香園寺とここは直通ルートで繋がっていて、そこは短いなれど、登山道を通ることになるので、滑落などに注意しなければいけない。

滑って崖から落ちて即死なんて、珍しくもないからな。


直通ルートの入り口に着く頃には、午前10時を過ぎていた。

山の麓から出発してからここまで4時間半か。

……急ごう。


下りの登山道は、昨日雨が降ったせいか地面が乾燥しきっておらず、滑りやすい環境になっていた。

登りはまだしも、下りがやばい。

滑って転んだら骨折しそうな崖ばっかりだ。

足をくじきたくは無いので、軽やかにかつ、細心の注意を払らいながら駆け足で降りていく。

遅い団体お遍路さん達を後ろから抜きながらも、俺は山の麓にある41番の香園寺に到着した。


時間は午前12時。

下山はやっぱ早いな。

足への負担が大きいけど。


41番の寺はかなり大きく、本堂と大師堂が寺っぽくない。

てか寺じゃない。

モダンで近代的な建物だった。

木の素材が一切見られない。

コンクリートばりばり使ってんじゃないっすか。

まるでどっかの公民館みたいだった。


この建物の中に、御本尊とお大師様がまとめて祀られている。

モダンで近代的な建物は、本堂と大師堂の役割を兼ねているのだ。

昔ながらの景観をぶち壊している!! とかご老人が言うかもしれないが、俺は宗教に新しいデザインを取り入れるのは良いことだと思う。


近代文化と古くからの宗教が相容れないなんて、そんなことはない。

むしろ親和性は抜群だろう。

宗教ビジネスが近代社会に食い込んで、ぼろ儲けしてるのがいい証拠だ。

このお遍路文化だって、現在の四国に相当の利益をもたらしているはず。

いいじゃないっすか、ぼろ儲け。

四国文化で、他人に迷惑かけてるわけじゃないんだし。


ってことで、俺は建物の中に入って、拝む。

その後、納経してもらって、次の62番の宝寿寺と、63番吉祥寺、64時前神寺を目指す。

この3つのお寺は、香園寺の近くに存在している。

だから時間内に納経してもらうことは簡単だった。


問題は今日の宿だ。

前神寺を出た時点で、午後4時ジャスト。

辺りはもう黄昏の色に染まってる。

俺が泊まる予定の場所は、ここから12キロ離れた萩生庵という善根宿だ。

電話をして、宿のオーナーに今日来ることを話してある。

つまり、行かなくちゃ、だ。

またマラソンの始まりである。


国道を突っ走って、夜の闇を駆ける。

山を登って十数キロ歩いた後の、ランニング。

もう絶対に走らないと思ってたのに……

俺の計画性のなさに、自分で絶望する。

そして宿に到着したのが、午後7時なのであった。


宿の中には、1人歩きお遍路さんがいた。

見た目は……言っちゃあ悪いが、ホームレスっぽい。

年齢は20代後半くらい。

髪はロン毛で、後ろに縛っている。

見た目が生理的に受け付けないなぁ。

俺、男のロン毛って嫌いだし。

人は見た目だけで判断してはいけないけれど。

しかし、見た目も評価の内に入ることを忘れてはいけない。

まあ、ホームレスっぽい格好してる俺が言えたことじゃないんだけどさ。


で、その人はまた変わり者というか、俺とは違った意味で社会的に生きにくそうな人だった。

とにかく人と話なさないのだ。

俺が挨拶しても、無視。

無視無視無視。


俺が夜にこの宿に訪れたのが気に食わないのか、ブツブツ何かを呟きながら寝袋に入っていく。

それでも俺は食いついて「こんばんわ!」と会話のキャッチボールをしようとするけれど、自分の本を取り出して読み始めた……


……おい。

せめて、一言くらい挨拶しようぜ。

絶対俺よりも年上なんだからさぁ。


一瞬彼もアスペルか? と思ったが、恐らく違う。

アスペルガーは意味もなく人を無視したりはしない。

てかさっきから、「うぜぇ……」って小声、聞こえてんぞこの野郎。

……性格が捻れているだけだろうな、これ。


人は人とコミュニケーションを取らないと、いずれ不幸になる。

孤高とか孤独を愛するなんて、強がりのすることだ。

対人恐怖症とかで人と話せないならまだしも、あえて人と話さないやつ。


そういう奴、俺は嫌いだ。

だからそれ以降、言葉も交わさず、寝袋に包まって寝た。

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