生存の契り、図書室の陥落
旧校舎の非常階段から雪崩れ込むように、僕たちは鍵の開いていた図書室の奥、書架の影へと滑り込んだ。
外では予報にない土砂降りの雨が、窓ガラスを叩きつけている。その騒音が、僕たちの理性を外界から遮断する唯一の共犯者だった。
「……はぁ、はぁ……っ、先輩……っ」
陽葵が僕のシャツを、爪が食い込むほどの力で掴み寄せる。
三日間、凍りついていた僕の視界が、彼女の吐息に触れた瞬間に真っ赤に燃え上がった。
唇が重なった瞬間、それは「キス」なんて優雅なものではなく、互いの命を啜り合うような、泥臭く剥き出しの強奪だった。
陽葵の口内から溢れる熱。それは、萬里花の毒でも、冴のシステムでも、結衣の聖域でも得られなかった、僕の魂のパズルを完成させる最後の一片。
「……ああ、これだ……これなんだ……っ」
僕の身体が、歓喜に震えながら再生を開始する。
一回、二回と重ねるごとに、脳内にこびりついていた死の気配が霧散し、代わりに圧倒的な「全能感」が満ちていく。陽葵の身体もまた、僕の熱を飲み込むたびに、その肌に瑞々しいまでの生気が戻り、潤んだ瞳が獣のような欲望で僕を射抜く。
「お姉ちゃんに……殺されてもいい。地獄に落ちても、いい……っ。先輩がいない天国なんて、私には、ただの拷問でしかないんだもん……!」
彼女の告白は、もはや絶叫に近い。
陽葵は自ら制服のボタンを弾き飛ばし、僕の胸に狂おしく縋り付いた。
結衣を愛しているはずの彼女が、その姉を裏切る絶望を、僕への執着という名の燃料に変えて燃え上がる。その背徳感こそが、僕たちの「適合」を、他の誰にも届かない高みへと押し上げていた。
三回目、四回目……。
通常の人間なら、、あるいは他のヒロインなら、とうに磨耗し、拒絶反応を起こしているはずの回数。
だが、陽葵は違う。
僕が激しく求めれば求めるほど、彼女の身体はそれに呼応して深化し、より広く、より深く、僕という「過剰なエネルギー」を完璧に受け止めてみせる。
まるで、最初から僕を壊すために、あるいは僕を救うために誂えられた、専用の器のように。
「……先輩、もっと……っ。三日分、全部……私の中に、叩き込んで……!」
雨音にかき消された図書室の隅で、僕たちは何度も、何度も、死と再生を繰り返した。
一条組の跡取りとしての立場も、学園の秩序も、誰かの涙も。
そんなものは、今この瞬間に溶け合う僕たちの熱量の前では、一陣の風に吹かれる塵にも等しい。
僕たちは確信した。
これは「浮気」でも「遊び」でもない。
僕たちは、こうして互いの命を混ぜ合わせなければ生きていけない、救いようのない一つの怪物なのだ。
図書室の冷たい床の上で、汗に濡れた身体を重ね合わせながら、僕は陽葵の耳元で誓うように囁いた。
「もう、二度と離さない。……誰が邪魔をしても、僕が君を、僕から引き剥がさせない」
陽葵は、震える腕で僕の首を抱きしめ返し、恍惚とした表情で頷いた。
窓の外、雨はさらに激しさを増し、世界を深く、暗く塗りつぶしていく。
その闇の中で、僕たちの「異常な愛」だけが、唯一の正解として静かに、しかし鮮烈に脈打っていた。




