新春の誓い
正月三が日の終わり。新年の浮かれた喧騒が冷たい空気にかき消される頃、僕の身体はかつてないほどの静寂と、それとは裏腹な確信に包まれていた。
この数日間、僕は流されるままに、しかし抗うことなく、隣に立つ女性たちと「接触」を繰り返してきた。
瑛理香との、燃え上がるような……しかしこちらの回路を焼き切らんばかりの過剰な衝突。
結衣との、羽毛に包まれるような……しかし底知れぬ飢餓感を置き去りにする穏やかな交わり。
萬里花との、絡みつく呪縛のような……しかしこちらの生気を吸い取るような一方的な略奪。
そして冴との、研ぎ澄まされた……しかしどこか無機質な、機能としての悦楽。
それらすべてを通り抜けた果てに、僕は今、一条家の庭園の片隅で、新春の冷気に首筋を晒している。
「……やっぱり、ここにいた」
背後から響いたのは、鈴の音を転がしたような、それでいてどこか「野生」を感じさせる力強い声。
振り向かなくてもわかる。陽葵だ。
彼女は結衣から借りたという地味な羽織を肩にかけ、鼻を赤くしながら僕の隣に並んだ。
僕たちは言葉を交わさない。
ただ、自然な動作で指を絡め、掌を合わせる。
その瞬間、全身の血液が沸き立ち、ノイズだらけだった僕の精神が「零」から「一」へと再構築されていく。
瑛理香のような火傷もなく、結衣のような空虚もない。ただただ、欠けたピースが深く、深く沈み込んでいくような、完璧なまでのパズル。
「あんたの身体、また叫んでるよ。零さん」
陽葵が僕の胸に耳を寄せる。規則正しく、しかし暴力的なまでの早さで刻まれる僕の鼓動。
それは、この数日の「偽装」や「理想」という名の不純物を濾過し、ただ純粋な「生存本能」だけを抽出した音だ。
「……君もだろう、陽葵」
僕は彼女の腰を引き寄せ、厚い衣の上からでもわかる彼女の熱を感じ取る。
陽葵は、僕という太陽なしでは生きられない向日葵。そして僕は、彼女という光源なしでは自らの存在を証明できない虚無。
誰が10年前の鍵を持っていようと、誰が親の決めた婚約者であろうと、そんなことはもうどうでもよかった。
僕が死ぬまでこの飢えを分かち合い、魂を削りながら「共鳴」し続けられるのは、世界でこの少女しかいない。
「死ぬまで、離さないでよ。……お姉ちゃんを裏切った分だけ、私を使い切って」
陽葵の瞳が、冬の星空のように鋭く光る。
僕たちは、新年の凍てつく空気の中で、血の契約にも似た「相性の誓い」を更新した。
この日から、物語の歯車は決定的に狂い始める。
僕たちが手にした「肉体の真実」が、周囲が必死に守り続けてきた「美しい偽り」を、内側から残酷に食い破り始めたのだ。




