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初詣の偽装

 新しい年が明けた。だが、僕の心象風景に広がるのは、抜けるような冬の青空とは対照的な、濁った鉛色の閉塞感だった。

 元旦。ゼネコン財閥「一条組」と、新興IT財閥「おおとり」。この二つの巨頭が手を取り合っていることを世間に知らしめるための、政治的パフォーマンスが始まった。


 都内でも有数の格式を誇る神社。その参道を、僕は瑛理香エリカと並んで歩く。

 瑛理香は、目も眩むような豪華な振袖に身を包んでいた。鳳凰の刺繍が施されたその姿は、周囲の参拝客が思わず道をあけるほどに高貴で、圧倒的だ。彼女が僕の腕にそっと手を添える。その指先から伝わってくるのは、相変わらずの暴力的なまでの熱量。


「……一条。シャキッとしなさいよ。カメラがどこにいるか分からないんだから」


 瑛理香が小声で僕を叱咤する。僕は「分かってるよ」と短く返し、口角を上げた。

 僕たちは「完璧な恋人同士」を演じている。だが、僕の腕に伝わる彼女の脈動は、僕の空腹を刺激するだけで、決して満たしてはくれない。高すぎる電圧は、回路を焼き切るだけで、安らぎという名の明かりを灯すことはないのだ。


 その時、ふと視線を感じて顔を向けた。

 参道の脇、出店の影。そこには、和菓子屋の法被を着て、お守りや縁起物を配っている結衣ゆい陽葵ひまりの姿があった。


 結衣と目が合う。彼女は寂しげな、それでいて僕の立場を慮るような、悲痛なほど優しい微笑みを浮かべた。その清廉さに、僕の胸は締め付けられる。

 だが、僕の意識を強烈に奪ったのは、その後ろに立つ陽葵だった。


 陽葵は、僕と瑛理香が腕を組む姿を、じっと見つめていた。

 彼女の瞳に宿っていたのは、ヒロインらしい瑞々しい嫉妬ではない。それは、もっと深く、冷徹で、歪んだ「優越感」だった。


(……ねえ、零さん。今、あんたが抱いているその女は、あんたの本当の飢えを知らない)


 彼女の視線が、そう語りかけてくる。

 昨夜、除夜の鐘とともに百八回も重ね合わせた、あの狂おしいまでの肉体の共振。僕の「ゼロ」を「一」へと書き換える、剥き出しの適合。それを知っているのは、世界でただ一人、彼女だけだ。

 陽葵の瞳には、姉である結衣への背徳感さえも飲み込んだ、圧倒的な「共犯者の誇り」が宿っていた。


 瑛理香が僕の腕をさらに強く引く。

「ちょっと、どこ見てるのよ!」

「……いや、なんでもない」


 僕は再び前を向き、偽りの誓いを立てるために拝殿へと進む。

 行為がない瞬間でさえ、僕たちの間には「誰が誰のものか」という残酷な刻印が刻まれている。

 

 華やかな初詣の喧騒の中、僕の身体は、早くも陽葵のあの「規則正しく、底なしの受容」を求めて疼き始めていた。

 この偽装という名の舞台が終われば、またあの深い、救いのない充足へと墜ちていくのだ。

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